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【4】『太った猫』亭

こんな拙い話をお読み下さってありがとうございます。

・・・いや、ちゃんと挨拶文入れとこうと思って。深い意味はないです。

徐々に主人公の変態さ加減も際立ってきましたでしょうか?

今後も頑張って投稿していきます!

「ここが『太った猫』亭・・・。」


 メアリーさんと明後日の夜に会う約束をして、キュアンと例の宿屋へ向かった。

 しかし私の期待とは裏腹に木造二階建てのこじんまりした質素な宿だった。・・・せっかく名前をインパクトあるモノにしたんだから、外装も頑張ってほしかったよ。



___リリン・・・



 風鈴の音を思い出すような儚げで涼しげなドア鈴を鳴らして、宿へ足を踏み入れた。


「いらっしゃい。何名だね?」

「二名、取りあえず三泊お願いします。」

「ほいほい、ちょっと待ってな。いつもは孫娘が受付なんじゃが、今は買い出しに行っててな。こんなジジが出迎えですまんの。今空き部屋を確認して来よう。」


 白髪のおじいさんが出てきて私達を出迎えた。そして空き部屋確認の為にまた奥へ引っ込んで行った。

 しかし孫娘とは、宿に看板娘は付き物のようだ。

 看板息子は居らんのだろーか。

 そんなアホな事を考えている私の足元に柔らかい物が触った。


「ナァ~。」

「わぁ、可愛い猫さん。もしかしてこの猫さんが『太った猫』亭の由来かなぁ。」

「へぇ、こいつまだ居たのか。」

「お兄ちゃんはこの宿に泊まったことあるの?」

「ちょっと昔にな。」


 丸々と太った白猫は私じゃ抱えきれないくらい巨体だった。猫とか犬とか獣系が大好きな私はその猫の頭や喉を撫でまわした。猫も気持ちよさそうに喉を鳴らしている。


 よーしゃ、よっしゃ!わしゃしゃしゃ!


「おや、そいつが自分から寄って来たのか?珍しい事もあるもんだ。」


 そろそろ猫の真っ白なフワフワの毛皮に顔を埋めてみようか真剣にタイミングを測っていると、奥から戻って来たおじいさんは首を傾げてそう言った。


「この猫さんの名前は何ていうですか?」

「そいつかい?残念だが名前は無いんだよ。どんな名前で呼んでも振り向きもしないからなぁ。一度みんなで無理やりひとつの名前で呼んでみたが、怒って暫く姿を見せんかった。」

「へぇ・・・。猫さんは名前無いんだね。」


 私は何気なく猫にそう声を掛けた。


[そいつは違うぞ。俺の名前はザザなのに変な名前でばっかり呼ぶからだ。]

「へぇ、ザザっていうんだ。僕はシャルロードだよ。よろしく。」

[何だお前、俺の言葉が分かんのかよ。]

「・・・へっ?あれ、まぁ、そーみたいね。」


 おかしい、おかしいよ。私の能力は『魔物使い』ではなかっただろーか。まさか一般動物も魔物に分類されるの?そんなの嫌だー!あのフワフワな毛皮に顔を埋めた後に、そのつぶらな瞳で『変態』とか言われた日にゃ永遠に立ち直れない・・・。


[おかしな奴だな。目も髪の色も見た事ねぇ色してるし。俺は結構長く生きてるが初めて見る色だ。まぁ、何かの縁だ。ここに泊まってる間は相手してやるよ。]

「・・・そりゃどーも。」


 尻尾をふりふりして去っていくザザ氏のプリティな後姿に向けて、ステータス画面を展開した。



*************************

ザザ(219)神猫♂幻術戦士


神獣に分類される珍しい猫。『太った猫』亭が居心地

いいので40年前から住み着いている。

*************************



 地竜のリュイよりも長生きしてらっしゃる。だから高位念通話が使えたのかな?まだ安心はできないけどさ。

 しかしながら今後は敬意を払ってザザ氏もしくはザザ様とお呼びするべきだろうか。

 でもなー、あんだけブックブクだし、戦士だし、擬人化してもすらっとした美形は望めそうにないなぁ。ネコミミとか結構萌える派なんだけどなぁ。残念。


「おい、何してるんだ?部屋は二階らしいぞ。」

「あっ、うん。」


 おじいさんから部屋のカギを受け取ったキュアンが、呆ける私を見て訝しげに声を掛けてきた。慌ててその傍まで寄っていく。


「猫さん長生きだよね。」

「?そーだな。」


 私の意味の分からない言葉に返してくれるキュアン。いい奴。


***


 付いた部屋にはベッドが二つあった。いわゆるツインルームと言うやつだ。

 現代の日本のホテルのような立派さはないけど、素朴な中に清潔感がある。


「ええええぇぇぇ~~~~!?ふ、二人部屋!?」

「借金してる奴が文句を言うな。一人一部屋とかちゃんと稼いで自立してから言え。」

「・・・はい、しゅみません。」


 いやいや、焦るってば。前日まで女だった私にゃ、いきなり男性とひとつ屋根の下とか心臓に悪過ぎる。女ばっかりの姉妹だったし、同棲経験もない私にとっては些かハードルの高い未知の世界だ。

 ・・・くっ、これは試練ですか。確かに快適なBLライフを目指すならば、これは避けては通れぬ道だ。

 頑張れ私っ!ファイトだ私っ!くっは~、何かお腹がもぞもぞするよぅ。

 そんな私の内心を知らずにキュアンは話を進める。


「夕飯は近くの酒場に行くぞ。」

「えっ?ここで出してくれないの?」

「料理があんまり良くない・・・。」

「ま、不味いんだね。」

「いや、一階に食堂があるくらいだし、味はそこそこらしいがな。肉料理のメニューが圧倒的に少なくて頂けない。」

「ふーん?」


 やっぱり男は肉料理が好きなんだなぁ。おじいさんと孫娘だけなら確かに野菜料理に偏ってしまいそうだよね。


「で、今後について決めるぞ。」

「へっ?」

「あのメアリーとかいう女に会う前に言っただろうが。宿に行ってから考えるって。」

「おっとそうでした。」


 メアリーさんのキャラと出来事が濃過ぎて忘れてたよ。


「お前はメアリーの依頼があるまでどうするつもりなんだ?聞いた話じゃ今ギルドは法術師の噂で持ちきりなんだろ?」

「お兄ちゃんが迷惑じゃなければ、さっそく今日から一緒にギルドの依頼をこなしてみたいんだけど。・・・駄目なら一人で行くよ。」

「言っただろーが。お前が独り立ちするまで面倒みてやるって。」

「やった!よろしくお兄ちゃん!」

「全く、調子いい奴だな。」


 全く持って調子のいい私に苦笑するキュアン。いい奴。


 メアリーさんと会う日までギルドの依頼をこなしていく事に決定した。しかもメアリーさんの依頼にも同行してくれるらしい。

 暫くキュアンには頭が上がりそうにないなぁ。



 再び宿の一階へ戻り、入口の木造の小さなカウンターに座っているおじいさんに出かける旨をキュアンが伝える。

 隣で待っていると神猫のザザが話しかけてきた。


[あれ、もう出かけんのか?]

「うん、これからギルドの仕事してくるよ。」

[何だお前ギルドに入ってんのか。まぁ頑張れよ。]

「ありがとう。」


 すでにばれてるキュアンだけならなら兎も角、これから滞在する宿屋のおじいさんに変な目で見られるといけないから、もちろん小声だ。


***っ!?


「きゃっ!?」


 『太った猫』亭から出ようとした途端、入ってこようとした誰かにぶつかってしまった。


「あ、すみません。大丈夫ですか?」

「こっちこそごめんなさい。急いでたから・・・」


 キュアンの何やってんだという視線に睨み返しながら、尻もちを付いたその子の手を取って引き上げると、何故か驚かれた。髪型は萌えの代名詞ツインテで、質素だけど清潔感のあるこの宿のようなエプロンを纏った女の子が、私の手を握ったまま顔を赤くして固まっている。

 ・・・何か嫌な予感がするんですけど。



*************************

ミルル・マークレット(17)人族♀宿屋の従業員


クロロフィルンの宿屋『太った猫』亭の看板娘。そこま

で美人ではないが愛嬌があると評判。料理の腕もいい。

最近は宿屋の肉メニューが人気が無いのが悩み。

シャルロードに一目惚れしている。

*************************



 最後の一文は余計だと思うの。

 この美形顔は色んな女性に効果あるなぁ。気を付けよう。

 しかし、ぶつかった子はやっぱりここの看板娘か。


「あの、もしかしてどこか痛みますか?」

「あわっ、ち、違うんですっ!・・・あのぉ、もしかしてうちのお客さんですか?」


 何も知らない素振りで心配そうに話掛けると、ミルルちゃんは慌てて私の手を離した。その後に伺うように聞いてきた。私だから分かってるけど、『うち』じゃどこを指してるか分からないんだけどなぁ、と内心苦笑する私。


「多分そうだと思います。今日からこの『太った猫』亭でお世話になるシャルロードです。よろしくお願いします。」

「ああぁぁっ!すみません!私はこの『太った猫』亭の従業員のミルル・マークレットですっ!よろしくお願いしますっ!!」


 思いっきり頭を下げられてしまった。どう対応すりゃいいのコレ。

 助けを求めるようにキュアンを見るけど、何だか呆れたようにこっちを見ている。

 ・・・これは不可抗力だと思うの。

 仕方ないので自分で何とかする事にした。


「こちらこそ。では、ちょっと出かけてきますね。」

「は、はい!いってらっしゃい!」


 何だかじっと見送ってくるミルルちゃんの視線を背中に痛い程に感じながら、呆れ顔のキュアンを引っ張ってギルドに向かった。


「お前、やっぱりナンパが・・・」

「あれは確実に不可抗力でしょうがっ!ぶつかりそうになったのに気付いたんなら助けてくれてもいいじゃんかぁ!」

「おおっ!?・・・そりゃ悪かったよ。」


 私の本気を感じ取ったのか、キュアンは素直に謝ってきた。

 当たり前田じゃいこんにゃろう!誰が好き好んでBLにもならない女の子とフラグ立てようとするかっ!・・・誰がっつーか、私限定だけどね。この世界にも腐女子っているのかなぁ?居るなら会ってみたい。




 ギルドに入った途端に、ギルド内の殆どの人がこっちに注目してきた。原因はやっぱり『法術師』だろう。そんな視線を無視して、色んなメモが張ってある多分依頼ボードなんだろうその前に立ったキュアンが私に話掛けてきた。


「さて、なんの仕事を受ける?別に討伐系でもいいぞ。まぁお前は戦えないから後衛でのんびり見ておけばいい。」

「そりゃ助かるけど、僕が自立できないよ。採取とかお手伝いみたいな仕事ないの?」


 『無』系統の術を使えば討伐仕事も可能だろうけど、取りあえず今は法術のみで通した方がよさそうだ。現状が安定して、もう少し親しくなったらいずれキュアンにも魔術を使える事を話そうかと思う。


「じゃあ採取の中でも魔物の部位じゃなくて、薬草とかの方がいいか。・・・これなんかどーだ?」

「どれどれ?『ウキク草の採取』か。うん、これがいい。」


 『ウキク草』は薬草の一種らしい。薬草の種類を覚えるのにも丁度良さそうだ。やっと初めての仕事ができる期待に胸を膨らませる私の耳に濁声が飛び込んできた。


「おおぃ、お前が『嘘つき法術師』か?えらいちっさいじゃねぇか。その年から嘘つくのはいけねぇんじゃねぇのか?」


 何ですとー!?

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