【31】思いがけないインパクト
久々です(´Д`;)
「貴方方もどうぞ。」
リュイに差し出された素焼きのどんぶり大の器には、透明な液体がナミナミと注がれていた。目の前に出されるともっと凄いアルコール臭がする。キュアンの方を見ると、彼もその強烈な臭いに若干顔を顰めていた。
・・・でも、これは地竜の伝統的なおもてなし方法、引いてはリュイからのおもてなしなのだ。飲まない訳にはいかない。
視界の端で、地面に伏しているカチュアさんや、お腹を出して寝ているハチ、寝転がって陽気に尻尾をパタパタさせているポチの存在がかなーり気になるところだけど。
私は思い切って一口飲んでみた。
___こ、これは!
食道から胃にかけて一気に熱が襲い、頭がぐわーん、ぐわーんと警報を鳴らす。あー、あれだ。テキーラをショットで飲んだ時の感じに良く似ている。しかも、バーやクラブで出されるように、ちゃんと果実系の味が付いているのも罪なものだ。
私の視界の端で倒れている一人と二匹は確実に酔いつぶれている。ただでさえ酔いが回りやすお酒をショットガンで呑んじゃえば嫌でもそうなるのは想像に容易い。
「シャル、大丈夫か?」
隣からキュアンが心配そうな表情で覗き込んできた。
ぎゃふー!美形でやんすっ!!
「だ、大丈夫。でもこのお酒は大分キツイから、一気飲みは危険か・・・も?」
キュアンの手には私と同じどんぶり大の器。
その中身は___既に無かった。
「キュ、キュアン?キュアンこそ、それ、大丈夫?」
私は震える指先をキュアンの持つどんぶりに向けて、驚きのあまりに要領の得ない質問をしてしまった。急性アルコール中毒とか、恐い想像が頭を過ぎる。
「ああ、かなり強い酒だ。俺でも少々キツイが・・・結構イケるな。」
なぬー!?
私は改めてキュアンの異常なくらいのハイスペックさに呆れかえるばかりだった。
彼と違って、私の方は一口で既に足元が軽くふらついているくらいだというのに!
「おや、キュアンさんはイケる口のようですね。もう一杯どうです?」
「ああ、頂こう。」
リュイがワニの手で器用に大きなカメを持ち上げて、キュアンにお酌をし始めた。・・・リュイが擬人化してたら萌えた光景かもしれなかったのだが、生憎と、今のリュイは大きなワニでしかない。巨大なワニにお酌される青年がいる洞窟はシュールこの上なかった。キュアンも・・・ぬああぁっ!!そんなにグイグイ飲んじゃって大丈夫なんですか!?
地竜作のお酒『竜殺し』を竜にお酌されながら更に飲み進める元騎士様をはらはらしながら見ていると、後ろから声がした。しかも結構低い位置から。
「シャルどのー。」
聞き慣れてきた低音美声が私を呼んでいる。
相手は勿論ミーちゃんだ。
そういえば、酔いつぶれ組にはミーちゃんの姿が見えなかったなぁ。しかし、気の所為だろーか?心なしか、若干呂律が回ってないような気がするんだけど・・・。
「しゃるどの、魔力が欲しいのであるー。」
くっ・・・!?
振り返った私の目の前にはくりっとしたつぶらな瞳で見上げてくる、コウモリミーちゃんが居た。卵形大の黒い物体のその可愛らしさは鼻血が出そうになるくらいの破壊力があった。しかも、羽の先に生えたかぎ爪状のちょこんとした手を前に合わせた所謂『おねだりポーズ』だったのだ。
「ダメであるか?」
「駄目じゃ無いよ!」
私は反射的に答えた。このミーちゃんのお願いを無下にするなんてとんでもない!
この時、私の頭もアルコールの影響でぶっ飛び始めていたのやもしれない。
ミーちゃんを疑う気も無かったし、酔った勢いもあり、キュアンが傍に居ない状況で私はアッサリと相手のお願いを聞き入れた。
「好きなだけどうぞ!」
「うむ、いただきますのであるー。」
酒の所為か舌足らずの幼い印象を受けるミーちゃんの返事が聞こえた途端、全身の力が抜けて私は両手と両膝を地面についた。
あ・・・れ?
力が瞬間的に大量に喪失したことによる全身の脱力感。
この感覚は、どうやら魔力を一気に吸い取られたようだ。
「あっ、___シャル殿すまぬ!」
ミーちゃんが急にしゃっきりした口調で謝ってきたが、私は既に返事が出来る状況ではなくなっていた。まだ魔力は総量の三割程度は残っていたが、眠さの限界を越えて活動していた事も助長したのだろうか。魔力を一気に喪失したその衝撃に耐え切れずに、膝を突いた姿勢からそのまま上半身を地面に伏せ、私は意識を徐々に手放していった。
___もう気絶は遠慮したかったんだけどなぁ・・・。
***
目を覚ましたのは、それからどのくらいの時間が経ってからだろうか?
真っ暗な部屋だが、眠っていたので直ぐに夜目に慣れた。その私の眼に映ったのはゴツゴツとした岩肌の壁。どうやら、まだリュイのお家である洞窟に居るようだ。時間はよく分からない。
「___っ!?」
不意に首筋に空気が掛かってビクッとなってしまった。
まさかの展開に恐る恐る首をひねって後ろを確認すると、やっぱり、そこにはキュアンがすやすやと寝息を立てて寝ていた。
寝顔も美形でやんすっ!
予想するに、どうやら皆は既に床に入っているようだ。だって、ちゃんと寝る場所を提供されているみたいだからだ。
今私が寝ているのは頑丈な小枝のようなもので編まれたベッドの上だ。一見ゴツゴツしているようなそのベッドは、マットレスのような柔らかめの弾力をもっていて意外にも寝心地は悪くない。リュイのお家には、ホントに不思議なものばかりある。
因みに、掛布団は野宿用に持参した毛布だった。
キュアンと私がどうして一緒のベッドで寝ているのか気になる所だが、どうせ過保護ママンキュアンがシャルロードを心配して付き添っている内に酒が回って寝てしまったパターンってやつだろう。今回は服を着たままだからねー。
ふっふっふ、さすが私。
パターンを掴めて来たんじゃないかね?
しかし、あれから一体どうなったのだろうか。
ミーちゃん、多分キュアンに怒られたんじゃなかろーか?
またお外に締め出しくらってないといいけど。
心配になったので、確認しようと起き上がろうとするもできない。
気付かないようにしていたが、また例の「後ろからハグ寝」の状況だったからだ。今度はちゃんと寝ている筈のキュアンだが、ホールド力は変わらずだ。身を捩って抜け出そうと試みるも、力の加減と絡められている腕の位置取りが絶妙なのかどうしても抜け出せない。ハイスペック振りをこんな所でも発揮しないで頂きたい。
「ん・・・。」
私が起き上がろうとした為、その刺激での寝相だろうか?キュアンがゴソゴソと身体を動かし始めた。
キュアンの顔が近づいてきたので、慌てて前方のゴツゴツした岩壁の方へと向き直る。美形な寝顔がチューしてしまいかねないくらいまで近付いてきたせいで心拍数が少々跳ねあがってしまったのはしょうがないであろう。続いてキュアンの頭はそのまま私の首元で動きを止めた。首元に顔を埋めてくるキュアンにシャイロードの心拍数は更に上がりまくりだ。けれど、いつも程じゃない。
なぜなら・・・・・・酒臭いからだ。もんの凄く。
美形キュアンの顔を避けたのは、ただ心拍数があがり過ぎて困ってしまうばかりではない。この酒の匂いは尋常じゃない。あれから更にどんだけ飲んだんだよこの美形元騎士様わ!
とてつもない酒臭さに心臓の音が安定し始めた頃、再度キュアンが寝相の為に動き始めた。
___ひっ!首は弱いんだってばよっ!その位置で動かんといて下さいっ!
やはりこの現状を打破するためには、キュアンを起こすしかない。キュアンの眠眠も打破させていただかなくては私の心臓がオーバーワークでボイコットしちゃうっての!
そう考え至った私はキュアンを起こすべく声をかけようとした・・・が、
「キュアン、起きっ・・・」
___ガブッ
「ひぅっ!」
か、噛まれた!キュアンに噛まれたっ!!
私を衝撃が駆け抜ける。
___ペロッ
「ひぁっ!」
な、舐められた!キュアンに舐められたっ!!
衝撃NO.2が突き抜ける。セカンドインパクトだ。
ショックに打ち震えている内にも、キュアンはお構いなしに首の後ろの項にあたる部分を噛んでは舐めるを繰り返している。甘噛み程度なのだけど、噛まれたらやっぱ痛い。その後に、少しざらりと湿った舌で舐め挙げられるのが何とも言えない。
そして、継続的に、・・・酒臭い。もんの凄く。
噛まれた後にその場所を舐め上げられる、そしてあまりの酒臭さに萎えるを繰り返す訳だが・・・正直、普通にされるよりタチ悪くないだろーか、コレ。
シャルロードの純情を弄び過ぎです。何でもアップダウンが激しいと長持ちしないんだからね!?
***
どこからともなく朝日が差し込む頃、心身ともに衰弱しきったシャルロードがいた。
首の項、一般的にうなじと呼ばれる場所はきっと歯型だらけだろう。
結局その後、すやすやと眠り出したキュアン。落ち着いた頃に私も眠ろうとすると、キュアンがまた噛んでは舐めるを繰り返してくる。色気など皆無だ。半端ない疲労感で寝たいのに眠らせてもらえない状況。後半は既に諦めて悟りの境地であり、私は賢者と化していた。
キュアンは酔うと噛み癖があるという事を知ったが、どうでもいい。ミーちゃんに対してであればよかったが、自分がこのような被害に遭うと、全然萌えられない。
___今したい事?
ふふっ♪
思いっきり寝た後に、キュアンを一発殴ることだねっ!!