【27】魔獣襲来!地竜ピンチ?
次こそ地竜に!・・・アレ?
「うふふふふふふふふふふふふ・・・」
「「「・・・・・・・・・。」」」
目の前に気味の悪い笑い声を上げる魔女がひとり。彼女の得意な術属性は『風』だ。
私はキュアンとミーちゃんと一緒に、数歩離れた場所でその魔女を見ていた。
場所は『始まりの樹海』に移る。
「しかしシャルの法術は凄いな。移送魔法酔いが全然無いとは・・・。」
ギルドで依頼受諾登録をした後、当然の如くカチュア魔女様の移送魔法『ウィニング・ラン』とやらで強引にこの場所へと運ばれて来た。事前にそれを見越したキュアンに移送魔法前には『酔い止め』の法術をかけて欲しいと言われていたので、ギリで彼に法術を使えたものの・・・
「うっぷ・・・。」
「シャル、大丈夫か?その辛さは分かるぞ。俺だけすまない。」
アレ(カチュアの強制移送魔法)は安全装置とレールが無いジェットコースターに無理やり乗せられた感じだ。安全装置とレールが無いジェットコースターになど乗った事は無いが、まさしくそんな感じだ。狂乱的なスピードとどちらに進むか分からない恐怖による感覚麻痺で精神と三半規管がヤられてしまい、私は果てたジョーのように真っ白になってへたり込んでいた。
背中を撫でてくれるキュアンの優しさが身に染みる。
ミーちゃんがケロリとしているのが恨めしい。やはり身体的能力がモノを言うのだろうか?キュアンは移送魔法でどうしても酔うらしいので、当てはまらないとして。
「さあ行きましょっ!地竜ゴリオガ様に会ったのはどこどこっ!?」
諸悪の根源が、瞳を輝かせながらこちらに聞いてきた。
その姿は大好きなBL本を目の前にした時の私と似ている。
どう考えても『地竜ヲタク』なカチュアさんは、私がある方向を指さすと、そちらへ元気に歩き出した。
「そっちだったか?よく覚えてるな。」
キュアンが驚いたように言う隣で、ミーちゃんが不安そうに周囲を見渡していた。
おっほー!ミーちゃんの不安そうな顔はレアですな!
瞼のシャッターをきらせて頂きましょう!!
「うぅむ、どこも同じ場所にしか見えぬぞ。道に迷ったりはせぬのか?」
「・・・可能性大だな。一応、目印を付けながら慎重に進むか。」
美形二人は対『樹海』探索の準備を始めようとしていたが・・・
少し先には後ろを一切気にせずにズンドコ進むカチュア魔女様がいらっしゃいます。
「カチュアさんが見えなくなりそうなんだけど・・・。」
「一番手っ取り早いのは縛ってでも動けなくしておく事だな。シャルが受けた依頼なんだからお前が決めてくれ。」
「へっ!?縛るって、何が一体、どーして?」
「ああいうのは取りあえず近くに縛り付けておかないと何を仕出かすか分からんだろ?遠くに居た場合、対処が遅れる。」
「で、でも・・・」
女性を、しかも魔術師というか弱い・・・か、どうかは謎だけど、縛るとか抵抗があるんですけども。しかもその方法を躊躇いも無く口にするキュアン様は一体何者!?まさかそっちの趣味がおありです、とかないよね?
そんな失礼な事を考えていると。
「もーう、遅いわよ!そうだっ!方向はこっちって分かってるんだから、移送魔法使えば直ぐにたどり着けるわよね。大地を駆ける風よ、その御霊を我に示し力を貸し与えたまえ。汝等の・・・」
「「「___っ!?」」」
「仮初めの駆ける力を!『ウィニング・ラン』!」
まさしく対処が遅れた例のひとつが起こった瞬間だった。
***
「シャルッ!しっかりしろ!!」
「キュアン・・・ごめっ・・・。」
「一人で離れるな!危険だ!!」
「来ないでよっ!お願いだからっ!」
「シャルッ!?」
頼むからそこを一歩も動くな過保護美形元騎士っ!!
今からリバースしますからねっ!?
・・・うぷっ
___★♯。%)‘/~~~
※※※モザイクにて画像修正させて頂いております※※※
「・・・死ぬかと思った。」
いや、もう既に一度死んだ気分だった。
酷い醜態を晒してしまった。羞恥で恥ずか死んだ。
「ご、ごめんなさい。」
カチュアさんはキュアンとミーちゃんに、しこたま冷たい言葉を吐かれて恐怖に震えていた。ちなみに私に胃内容物を吐かれた草葉の陰も、今頃悲しみに打ち震えている事だろう。・・・悲しい負の連鎖だ。
そして夕暮れも近い時間になり、これ以上暗くなる『樹海』を探索するのは危険だという事で野宿の準備が始まった。
「幕屋建てるのって大変よねぇ。こーいう時ザラキィの奴が居てくれると楽なんだけど。」
「ザラキィ?テント建てるの上手なの?」
キュアンとミーちゃんがテキパキとテントを張ってくれている横で、私とカチュアさんはご飯の準備だ。ご飯の準備といっても、保存食取り出して並べるだけなんだけど。その時、カチュアさんが地魔術師ザラキィの事をポツリと呟いたので話に乗ってみる。
「そういうんじゃなくて、アイツの使役するノームが組み立てしてくれたりとか、地魔術で土小屋まで作れちゃうのよ。私も才能さえあれば、地竜と同じ地属性魔術師になったのになぁ。」
ふむふむ。以前にカチュアさんの風魔術を見て便利そーとか思ったけど、地魔術もかなり便利な様子。天才肌魔術師なザラキィだからできるんでしょーけども。うむ。
しかし、小さい時に才能の在る無しが分かるものなのだろーか?人によってはデリケートな話題だが、まんま率直に聞いてみよう。カチュアさんは結構サバサバした性格みたいだから大丈夫そうだし。
「属性の才能の在る無しって直ぐに分かるものなの?」
「そうよ。魔術を習う場所には必ずそれ専用の魔具があってね・・・」
そんな感じで魔術に関してカチュアさんとお話していると、当然の如く手は進まない訳でして。二人そろってキュアンにお小言を貰いました。
味気ない保存食での夕ご飯の後はもちろん寝るだけなんだけど、やっぱり交代で見張りは必要だった。
「カチュア・ランバートは依頼人だから見張りは別にいい。」
「えっ?・・・まぁ助かるけど、本当にいいの?」
「ああ。シャルも戦えないから寝ておけ。」
「えぇっ!?」
面倒だな~、と思った反面、あっさり不要宣告を下されちゃうとうっかり反骨心が生まれるものである。
「僕が受けた依頼なんだし、ちゃんと見張りするよ!」
「ふーん?」
全く全然信じてない様子のキュアンをひと睨みして、私はテントの前に座った。その近くには魔物避けに効果があるらしい焚火が燃えている。
ほんのり暖かいその近くでうたた寝しない自信は無いが、シャルロードだってやれば出来る子だという事を見せつけなければ!
キュアンはそんな私をヤレヤレと見遣った後、ミーちゃんへと声を掛ける。
「ミーチュン先に寝てくれ。交代時間は先に話した通りだ。」
「うむ、了解である。」
どうやら二人でテントを組み立てている間に見張りの事まで話を進めていたらしい。
うぎょわわ、しまったあぁぁ~~~!!
二人のイチャイチャ(見張りについての話し合い)を見逃した!
全く持って惜しい事をっ!
しかしながら、少しずつではあるが、二人は仲良くなっているようで安心した。将来的には人目をはばからずにイチャついてくれると有り難い。
あっ、でも恥ずかしがる姿とかもいいなぁ。くっはー、萌ゆる!
「シャル?珍しく真面目な顔だがどうしたんだ?」
珍しく、は余計なひと言です。
私は妄想にふけっている時はそうと悟られないように口元を引き締め、内頬を噛み、遠い目をする癖がついてしまっている。傍から見れば、真面目に深刻な考え事をしているように見えるらしいが、・・・脳内は見せられんわぃ。
周囲にキュアン以外の人影は無く、カチュアさんとミーちゃんは既にテントの中らしい。異性同士で同じテントはどうかと思うが、手間やカチュアさんとミーちゃんの性格的にも間違いは起こらなそうなので、触れないでおこうと思う。
「あっ、いや、地竜の居場所なんだけど・・・。」
「もう分かってるんだろ?」
「へっ?」
「違うのか?」
確かにリュイの居場所は『地図』によって既に特定できていて、明日にはその場所に辿り着ける筈だ。だけどキュアンには『地図』の能力の事は一切話していない。
「いや、その・・・。」
どう返答したらいいのかが分からなくて、私は口籠った。
「ムーアの王女の呪い病を解呪する時に、詳細な場所まで特定でいていたからな。そうじゃないかと思ったんだが・・・ま、別に話さなくてもいい。じゃあ『法術師』充ての依頼の内容でも確認するか。」
流石です。そこまで推察されちゃってるとは思わなかった。
しかも、気まで遣われてしまった。
別に隠したいわけじゃない。
知られて、能力の異常さに気持ち悪がられたりするのが嫌なだけだ。
キュアンはどこからか書類を取り出し、内容を確認し始めた。
無言の空間にパチパチと薪が爆ぜる音が響く。
「あ、あの、キュアン。」
「ん?」
思い切ってキュアンに声を掛けると、思ったより穏やかな視線で返された。それに背中を押されて、自分の能力について話してみる。
「僕は、人とはちょっと違う力みたいなのがあるみたいで、その、自分でも把握し切れてないから、説明下手くそかもしれないんだけど・・・。」
「まさか・・・女神とか?」
「それはない。僕は男。」
キュアンのトチ狂った疑問を即行で否定する。
この世界の人はどうしても私を『女神』に仕立て上げたいのだろーか?
もしそうなら、絶対に回避してやるっ!下半身丸出しでも何でもしてやるからね!?
心の中で確固たる誓いを立てつつ、話を続ける。
「だから、キュアンがアレ?と思ったら聞いてくれて構わないから。」
「それはまた他力本願だな。」
「う”・・・。」
キュアンは苦笑しながら、私の欠点を突いてきた。
だってまだ自分の能力を全て使った事が無いんだって。特に術系統は幅広く応用が利くようだし、今ここで全部を説明するのは非常に難しいってもんだ。
「シャルが必要になればその力を使うんだろ?じゃあ、これからはその都度聞かせてもらう事にするよ。別に知らなくても困りはしないが、・・・そうだな、敢えて聞くなら、ひとつだけある。」
「な、なに?」
キュアンが表情を引き締めたので、そのピリッとした空気に緊張する。
「『契約』に関する術は使えるのか?」
「ほぇ?け、『契約』?えっと、『契約』自体を良く知らないから・・・。」
「そうか・・・。ならいい。」
キュアンは目に見えて安心したような表情になった。
___『今』は知らない。でも『今後』は知って使えるようになるかもしれない。
って、いう事を続けて言おうとしたけど、そのキュアンの表情を見たら言い出せなくなってしまった。
うーん。『契約』に関する術は、今後知っても使わないようにしよう。
・・・しかしその他は『知らなくても困らない』かぁ。
彼の中でシャルロードはどんだけ戦力外なんだろーか。
それともただ単に興味が無いだけなのだろーか。
もしそうならば、ちょっと・・・、イヤ、かなり凹む。
「それじゃあ、依頼内容を確認しておくか?」
「うん、お願いします。」
ウオオオォォォォーーーーーーッンンン
「ひえっ!」
夜の闇。暗い樹海。その遠くの方で狼のような遠吠えが響き渡った。
「ああ、魔獣『黒牙』だな。最近樹海に住み着いたらしい。遠いし大丈夫だろ。」
『魔獣』?『魔物』じゃないの?
以前感じた疑問が再度引っ掛かる。
うーん、ちょっと『世界マップ』の詳細事項で見てみよう。
*************************
黒牙
魔獣の中でも中級種。
群れを作って行動し、集団で敵に襲い掛かる。黒色の
鋭い牙を持つ為、この名で呼ばれる。牙の他に爪には
毒があり、筋弛緩作用がある。
*************************
うーん。この説明だけじゃわかんないや。
って、アレ?
魔獣『黒牙』の群れは、とある場所に向かっていた。
「キュアン、魔獣がリュイの居る場所に向かってる気が。んーん、もう着いちゃったんだけど。」
「魔獣が地竜を襲っている?」
「わ、わかんないけど。」
同じ樹海に住んでるのに仲いい訳じゃないのか。縄張り争い?まぁ、リュイだし、あんまり心配はしてないけど。
しかしながら、もしもの事も考え、もう少し詳しく見てみる為に、群れの先頭を走る『黒牙』の情報を『慧眼』で展開させようとした時。
「ゴリオガ様がピンチなのっ!?」
「カチュアさん!?」
カチュアさんがテントから飛び出てきた。
今の話を聞かれてしまっていたようだ。
「助けに行きましょうっ!大地を駆ける風よ、その御霊を我に示し力を貸し与えたまえ。汝等の・・・」
「ちょ、カチュアさん待っ___」
思わぬ事故Part.2!?
___ガッ
キュアンがカチュアさんに素早く近付き、鈍い音がしたと思ったらカチュアさんの身体が地面に沈んだ。
「キュ、キュアン?」
「気絶させただけだ。」
いやいや、躊躇いも無く女性に手を上げた彼に驚いた。
戦場では男女差無いのかな?・・・正直、ちょっと引いてしまいますた。
それが彼にも伝わったようだ。眉根を顰めて言葉を重ねられた。
「シャルの移動術で言った方が早いし、安全だ。向こうに着いてからだと、カチュア・ランバートが再度暴走する可能性があるし、眠らせておいた方が良策だと思うが?」
・・・まぁ確かに。
「魔獣が地竜を襲っているのであるか?何かの間違いではあるまいか。」
「ミーちゃん?」
テントからいつの間にかミーちゃんが出てきていた。
そんなミーちゃんをキュアンが無表情で一瞥する。
「ミーチュン、カチュア・ランバートの方は任せておいた筈だが。」
「流石にトイレだといって出て行く女性を引き留める訳にはいかぬであろう?それよりも、魔獣の事である。」
地に伏したままなのに『それよりも』と一蹴されてしまったカチュアさんに、近くにあった毛布を掛けてあげる。
カチュアおねい様・・・。
うちの非フェミニスト共が申し訳ありません。
後、暴走は程々にね?
プロットも作らずに、妄想をつれづれなるままに打っているのですが、そろそろ限界やも・・・
ちゃんと話の構成を考えなければなー、とか思いつつダイエットは明日から♪を体現してしまいます(´ω`;)ノ
つ、次こそは地竜に会うんだからっ!本当なんだからっ!!