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【26】格付けランク

物語は加速・・・しない。

相変わらずスロー展開で申し訳ないです。


でわでわ読了お願いします。

 「遅い。」


 カチュアおねい様が冒険者ギルドの前で、ふて腐れた表情で立っていた。


「まだ昼の鐘は鳴っていないだろ。」

「早くっ!早く出発しましょっ!ハリーハリーッ!!」


 吐く息荒く私達を急かすように声を上げるのは知り合いの美人風魔術師の筈なんだけど・・・人違いだろーか。

 あわわ、キュアンの返答を無視して私を見る目が怖いよおぉ~~~(汗)。


 キュアンは半眼で異物をみるような視線を投げ、ミーちゃんは驚きつつも私を隠すように立ち位置を変えて構えている。


 紳士魔族ス・テ・キ!


 でもそれはカチュアさんであって、魔物じゃないよ?

 さっき話してたから知ってるよね?



「おいコラ待てカチュア。その前にシャルロードに伝える事があんだろぉが。」



 通りの良い大きな声を出しながらギルドから出てきたのは、ギルドパーティ『ゴッドブレス』のリーダーなカルア・ヴィータスさん、もといカルアのオッサンだった。


「チッ、後でもいいじゃないよぉ。」


 あの大人な女性のカチュアおねい様が舌打ちしたっ!?

 口調もヤンキーを彷彿とさせるようなものですが!?


「カチュア、いい加減地竜が絡んだ時に大人げなくなるのは止めとけ。地竜崇拝パーティ『地竜の咆哮』の品格が、崇拝対象の地竜ごと疑われちまうぞ?」

「ぐっ・・・、分かったわよ。成るべく早く済ませて頂戴。」

「ああわかってる。・・・さて、シャルロード。」


 カチュアさんを嗜めてカルアのオッサンはこちらに向き直ってきた。

 どうやら私に用事があるようだ。

 まさか、先日のワッチョの事かな・・・。私の中では記憶の奥深くに封印しておきたい出来事なので蒸し返して欲しくはないんだけど、ギルド管理上なにかあるのかも。


「立ち話も何だし、一回ギルドに入ってくれ。その方が話もし易い。」


 オッサンは顎をしゃくってギルドの中へ入るよう促してきた。

 私は確認の為にキュアンへ視線を向けたが、彼は既に一歩踏み出していた。少しの違和感を感じつつもその後に続いてギルドの中へ入る。


 ギルドの中では相変わらず昼間から酒をかっくらういくつかのムサイ集団が居た。

 彼等の辞書に『休肝日』などという文字は無い。


 そのムサイ集団がたむろうバーのような場所を通り過ぎ、通されたのは奥の個室だった。内緒話に持ってこい的なVIPルーム臭漂うその部屋に置かれている革張りの大きなソファに座るよう言われて、三人並んで座った。何故かまた、私はキュアンとミーちゃんの間に挟まれるという位置取りだ。

 今度は二人に並んで座って頂けるよう配慮してみよう。

 彼等のBL関係進展の為にも些細な事からコツコツと、だ。


「おめぇ等、あの『討伐戦』以降、丸二日間ギルドに顔出してねぇだろ。」


 あれ?そーだっけ?

 でも、それが一体何だっていうんだろ?


「それがどうした。」

「いや、その、なんだ・・・。」


 キュアンの端的な疑問にオッサンが言い淀む。

 ホント何だっていうのさ。昨夜の騒ぎのお咎めなら早く切り出して欲しい。


「そろそろ次の依頼を受けたりしねぇのか?ああ、もちろんカチュアの件が済んでからになるだろぉが。」

「なぜギルドが仕事にまで口を挟む?無茶無謀な依頼を受けたわけでもないし、ギルドに日参したり、依頼件数を決められた日数内に規定数こなさなければならないという契約要項は無かったと思うが。」


 うむうむ、キュアンの言う通りだ。

 ギルドの要項など覚えてないが。


「確かにそんな決まりはねぇな。ただ・・・シャルロードは『法術師』だろ?」

「オッサン、まさかまだ疑ってるの?」

「そーいう訳じゃねぇよ。」


 因みに私の右側に座っている人もそうですのよ。

 周囲には隠す方針らしいので、心の中だけで言ってみるけど。


「成程な。『法術師』に対する依頼が殺到してるってワケか。」

「そういうこった。相変わらず話が早くて助かる。」

「えっ!?だって『嘘つき法術師』って・・・」

「いつの話だ。」


 いやいや、つい先日の話ですがっ!?


「確かに半信半疑なからかい紛いの依頼も数件あるが、それを除いても『法術師』指定の依頼が既に30件を越えてギルドに寄せられている。」


 さ、30件~!?

 頑張って一日3件ずつこなしても、完遂するのに十日は掛かる。


「『討伐戦』での法術は『女神』によるもんだと思い込んでる奴等が多かったから、シャルロード自身の実力を知っての依頼というよりは、神頼みならぬ『法術師』頼みって事だろぉよ。」

「えっ?えっ?」


 理解力が乏しい私ではカルアのオッサンの言葉を上手く汲み取れずに?を連発していると、右横のキュアン様が教えてくれた。


「通常なら法術師の集まり、『グライド教』か『オアティス教国』の施設に馬鹿高い寄付金とやらを払って依頼しなければならない内容が、ギルド指定の依頼ランクに掛けて換算すると数十分の一の料金になるからな。シャルの実力どうのは知らんが、ダメ元で頼んできてるって事だ。」

「成程ー。」


 確かに、格安で同じ・・・かどうかは知らんが、似たような治療が受けられるんなら取りあえず頼んでみるよね。お金が払えなくて切羽詰ってるなら猶更だろう。


「今、それぞれの依頼内容をまとめた書類を持って来させるよう言ってある。カチュアの依頼中にでも目を通しておいて欲しい。・・・結構重篤な依頼もあんだよ。ギルドじゃ強制はせんが、俺個人としては成るべく受けて欲しい。」

「わかった。」


 カルアのオッサンの眼には真摯さが込められていたので、それにしっかりと頷いて返事をした。まぁ、字ぃ、読めないんだけど。・・・追々キュアンに読んで貰おう。


 ___コンコン


 このVIPルームのドアがノックされる。


「入れ。」


 ・・・随分ゾンザイな感じだけど、ひょっとしてカルアのオッサンってギルドのお偉いさん?一介のパーティリーダーにしてはギルド内でかなり融通が利くようだし、今回の件にしたって本来ギルドの役員がするような内容だし。


 オッサンの返事で入って来たのは、銀縁眼鏡が似合う知的美人系ギルド受付嬢のララ・シフォーヌさんだった。ギルド登録の時にお世話になったおねいさんだ。

 背筋をピンと伸ばし、隙なくきっちりと着こまれた制服に、結い上げられた薄茶色の髪は禁欲的な有能さを漂わせている。目が合うと、その中でも最も印象的なある種の萌えパーツである細フレーム銀縁眼鏡の奥にある茶色の瞳が見開かれた。


「シャルロードさん!今までどうされてたんですか?初仕事依頼音沙汰無くて心配しまし・・・コホン、ギルドの登録に関わった事務員として気に掛かっていました。冒険者ギルドに登録されたのなら、新人のうちはその安否確認の為にも定期的に顔を出される事をお勧め致します。」


 一気に捲し立てられてビックリだ。

 こちらを見た途端嬉しそうになった顔を直ぐに引き締めて、有能受付嬢としての事務的な提案をされている。どうやら心配してくれていたようだ。


「へっ?あっ、ああ、そうですよね。申し訳ありませんでした。今後は成るべくララさんの所にお伺いするよう気を付けます。」

「い、いえ、その、私の所に顔を出して欲しいとか、そういう訳ではなくてですね?ギルドとしても、登録者の安否確認を行う為に、その、来て頂けると助かるという話でして・・・。」


 受付で新人の担当が決まっているのかと思っての返答だったけど、どうやら違うみたいだ。私の深読みし過ぎた言葉は、彼女の中で変な方向へと変換されてしまった。

 有能受付嬢の仮面が剥がれかかっているゼ?ララさんや。

 ・・・ああそーさ。

 ララさんは鈍感系シャルロードの毒牙に掛かった女性の一人さ。


「おーい、シフォーヌよ。お前にしちゃ珍しいから見守ってやりたいトコだが、時間がねぇんだ。悪いが資料を渡して、積もる話はまた今度にしてくれ。今の依頼が終わったらまたギルドに顔出すだろぉからよ。」


 カルアのオッサンはララさんの話を苦笑しつつぶった斬った。

 何とも言えない会話になってしまっていたし、右隣から若干の冷気+背中に痛みを感じてきたので正直助かりました。オッサンに感謝感激っす!


「あっ、申し訳ありません。こちらが依頼を要約した資料になります。御一読お願い致します。」

「はい、確かにお受け取りしました。ありがとうございます。」


 受け取った資料に直ぐに目を通してみるけど、やはり象形文字が羅列されていて私には読めなかった。興味深げにミーちゃんが左隣から覗き込んできた途端、キュアンに資料を奪われてしまった。


「早く依頼をこなしにいくぞ。」


 そう言って、直ぐに立ち上がって部屋を出ようとするキュアンを慌てて追いかける。その後ろから、ミーちゃん、ララさんが続く。アレ?何で??


「やっと出てきたわね。もうお昼過ぎちゃったわよ!ハリー!ハリー!!」

「お待ちください。シャルロードさん達はまだ依頼受領登録をされておりません。」

「もー、いーじゃないっ!個人依頼って事にしとくわ。」

「駄目です。」


 ギルドの受付カウンター前へ戻ると、待ち構えていたカチュアさんと遭遇し、そして何故かララさんと言い合いを始めてしまった。


「ギルドを通さなければ、いつまで経ってもシャルロードさん達の格付けランクが上がりません。」

「そういえばそうねぇ。『討伐』の時もギルド通してないんだっけ。」

「格付けランク?」


 また新用語だ。ついて行けんぜよ。

 私は心の中で辟易しながら、一応聞いてみた。それに律儀にも有能受付嬢なララさんが空かさず答えてくれる。


「『格付けランク』とはその名の通り、冒険者ギルドでの経験と強さを示すものですね。ランクは冒険者ギルドに登録した時に填めたバングルについている星の数が示しています。初級が星ひとつ、下級が星ふたつ、中級が星みっつ、上級がよっつで、特級が星いつつとなっています。」


 ララさんの言葉を受けて、自分のバングルをよく見てみると、確かに銀色の金属板に掘り込んだように金色の星がひとつあった。


「当然、ランクによって受ける事のできる依頼の数や内容に制限があります。ただし、特定の『冒険者』へ向けた依頼の場合、この制限対象にならずに受領することが可能です。シャルロードさんの場合ですと、今回のカチュアさんの依頼と、『法術師』指定の依頼がそうですね。」


 冒険者ギルド所属だけど、顧客がつけばある意味フリーランス的な仕事も可能みたいだ。しかもランクによる制限を受けないとか凄い。今まで読み漁った物語では、ギルドに所属した転生者は初めにランク上げで結構苦労するのに。


「指定依頼をこなして頂ければランクは直ぐに上がるとは思いますが、お連れの方のランク上昇の為にも、カチュアさんの依頼はギルドを通して頂けた方が良いかと。今回の地竜に会うという依頼内容で登録した場合ですと、『地竜』の稀少性と『始まりの樹海』の危険性を考慮した上で、最低でも中級レベルです。」


 お連れの方?ああ、キュアンの事か。

 その言い方だと私がキュアンを連れてるみたいだが、実際は保護して頂いてるので逆っす!しかも、キュアンにそんな配慮をせずとも彼ならば簡単に・・・


「そうだな。ギルドで依頼登録した方が助かる。」


 ___ほふへっ?


「分かったわ。じゃあ登録お願い。」

「賜りました。」


 ララさんがカチュアさんの依頼を登録しているのを横目にしつつ・・・


「・・・シャル、なんだその顔。」

「ナンデモナイヨ。」

「あのなぁ、ランク上げは非常に面倒臭いんだ。仕方ないだろーが。」


 言い訳臭い。



 「だったらキュアンも僕と一緒に法術師の仕事すればいいのに。」



 と、口からポロリしそうになって慌てて閉めた。お口チャックだ。

 

 キュアンは法術を使える事を秘密にしておきたいのに、私がそれをバラしてしまう訳にはいかない。BL展開を見守れなくなる処か、危うく人としてすら嫌われてしまう所だった。マジで気を付けないと。口は災いの元だ。


 自分がキュアンに頼り過ぎている自覚は一応ある。

 もしかしたら、私の依頼に同行したりしなければホントは楽にランク上げできるのかもしれない。けど、過保護なキュアンの事だから今後の『法術師』指定の依頼にも着いて来てくれるに違いない。私が彼を自由に動けなくしているのだ。


 まずは自立を急ぐべき?

 でも、もし自立できたとしてその後は?

 その後もキュアンは一緒に居てくれるのか?


「依頼の登録が完了しました。では受諾をお願いします。」


 ララさんの声で思考が途切れる。


 ___ま、いっか。今度考えよーっと。


 バングルをかざすと地竜ゴリオガを模した魔具の眼が怪しく光った。相変わらず子供が泣きそうな怖さを醸し出す魔具を見ながら、リュイに会ったら何を話そうかと言う事に考えが移っていった。



 私はキュアン過去の事や『契約』の時の事とか、色々あるのにそれに触れないようにしている。だって深いところまで、人の奥深くまで関わるなんて大変じゃない?


 まるで腫物には触らないように。

 汚れた部分は避けるように。

 影を見ないで、光だけを見ようとしている。


 そんなこと、土台無理な話なのに。



 この事を後悔するのは、もう少し後の話。

次はちゃんと地竜に会う!



・・・筈です。

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