【19】ふへ?っと驚くシャルロード
転生してからタイトな展開。
結構忙しい感じになってしまいました。
当初はもっとまったりBLライフを考えていたんですけど、どこで誤ったんでしょうか?
いや、よく考えたら忙しく頑張っているはシャルロードじゃなくてキュアンですね。どんまい!
でわでわ、読了お願いします。
現在の所在地は客人用の寝室ではなく、濃紅色を基調とした絨毯が敷き詰められた応接室みたいな場所だ。その区切られた奥の一角に、シャルロード、キュアン、ミーちゃん、砂糖女王、宮廷近衛騎士のメアリーさんが集まっている。
皿姫には病み上がりな事もあって、ベッドに戻ってもらった。体調が良くなったらゆっくり話をしたいと言われたので、取りあえず頷いておいた。
その際の、冷たい視線。
ん?キュアンさんや、何故半眼でこっちを睨んでおるのかね?
明らかにこっちからはアプローチかけて無かろう?
「わらわは元々王には向いておらぬのじゃ・・・。」
苦笑いの私と苦い表情のキュアン、そして興味深げなミーちゃんの前で、ムーア国女王・砂糖DEブーメランさんは語り始めた。
「だが娘は聡明でな、本当は婚約の件も国の為ならばと言ってくれておった。しかし、わらわはサラに恋愛結婚をさせてやりたかったのじゃ。キア殿には少なからず思慕の念もあるようじゃし、法術師だという事も相まって願っても無い事じゃと一人で突っ走ってしまったようじゃ。ほんにすまぬ。」
「はぁ・・・。」
女王にはシャルノムシっちから解放していただいた恩があるが、さっきのキュアンへの暴言で、私の中で帳消しの採算で終了している。
「しかし、われわが言うのも何じゃが、サラは器量よしじゃ。ムーア国はしきたり上女が国を治めるのが慣わしじゃが、サラならば必ずムーア国を良い方向へ導いてくれる筈じゃ。・・・のぅ、シャル殿。今一度考え直してはくれまいか。」
「お断りします。」
まだ諦めてないんかい。
というか、会ったばかりの男に対して思慕の念とかそうそうなくない?一目惚れなんて物語の中だけっすよ。娘思いなのはいいんだけど、結構乙女チックな女王様だ。
「・・・して、そちらの剣士殿。」
「・・・・・・。」
女王様が話掛けたが、キュアンは視線をそちらへ向けただけだった。
「その、・・・わらわのやり方ではうまくいかぬとはなぜじゃ?」
「一介の剣士なんぞに聞いてもいいのか?」
「・・・先程はすまぬ。わらわももうプライドなどは厭わぬ。サラが引き継ぐまでにこの国を成るべく良い方向へ持っていきたいのじゃ。」
キュアンは溜息をついて、視線を私に向けた。
・・・えーと、何でしょうか。
自分、また何かやらかしましたか?
砂糖女王様にアプローチかけた覚えもないし、その視線の意味が分からなくて首をひねったけどキュアンの視線は外れない。さっき向けられた半眼視線とは違って、今の私じゃ何の感情も読み取れない。こっちを見てるけど、思考は何処か遠くって感じだ。
そして何か話すわけでもなく、暫くしてキュアンは視線を女王様へと戻した。
「ムーア国の彼の有力一派の悪癖は他国でも結構な噂だ。」
「そ、そうなのか・・・。」
「もう根本を絶つしかないだろーな。」
「う、うむ。」
「つまり・・・」
「王女側に着かない派閥は潰すしかない。」
キュアンは一拍置いて、過激な発言をされた。
「そ、それでは国内で反発が起こらぬか?」
「王宮が強行突破をしたんなら当然そうなるだろう。自分の危機には結束力がかなり高いのが奴等の特徴だ。つまりはそうとばれないように裏で動く必要がある。」
「どうすればよいのじゃっ!?」
キュアンの落ち着き払って話す言葉に女王様が食いつく。
***
キュアンと砂糖女王様がモニャモニャと小難しい話を始めてしまった。その輪に近衛騎士のメアリーさんや、メイドのナージャさんも加わり頭脳会議に発展している。それはまさしく応接室に相応しい風景だが、そこに加わる事のできない人物が一人。
・・・暇だゼ。
まあ、とーぜんソイツはシャルロードな訳ですが。
「シャル殿、少し良いであるか?」
「ミーちゃん?どーしたの?」
美女達に囲まれているにも関わらずに平静と話す美形元騎士様に見とれつつボヘッとしていると、美形紳士魔族から声が掛かった。
「話しをしたいのだが、構わぬか?」
「もちろん。」
ミーちゃんの事だから、てっきりあの会議を興味深げに聞いてるもんだとばかり思ってたのに一体どーしたんだろ?
「あちらは少々込み入った話のようであるし、我々は邪魔をせぬようテラスに出るとしよう。」
「うん、そぉだね。」
ミーちゃんの紳士的な誘導について行き、応接室の奥の間から広々としたメインルームを通過して朝の木漏れ日と空気が清々しいテラスへと出た。
「行き成りですまぬが、シャル殿。」
「はい?」
「姫殿の呪いを抑える為に、法術の攻撃特性を加えた術で内包していると言っていたであるな。」
「うん、ミーちゃんに使ってる術をアレンジしたんだ。」
「もしかして、・・・我にもその術を掛ける事が可能であるのか?」
「えっ?」
ミーちゃんは真剣な表情だ。
いつもの飄々とした柔らかい雰囲気は無い。
「人族を間近で観察できるのは喜ばしい。しかし、この地には我の味方は居らぬ。皇魔のクセに不甲斐ないと笑うかもしれぬが、いざという時に頼れる者は一切無い環境において、我は不安を禁じ得ぬ。」
「ミーちゃんが、不安・・・。」
「シャル殿を疑うつもりはないが、やはり魔族としては法術が身を包んでいるという現状、事前に安全性を確認しておきたい。・・・我に施行しているこの術は、シャル殿の意思にて直ぐに攻撃性を加える事が可能であるのか?」
元々そんなつもり一切なかったから、思考がそこまで回ってなかった。そうだよね。攻撃性の法術って魔族には凶器なんだった。そんな凶器アレンジが出来る術を常時身に纏っているのだから、ミーちゃんが不安になるのにも頷ける。けど、ミーちゃんを傷つける気なんか、現状ミクロン単位分も持ち合わせてない。
それを分かって欲しくて、言葉を重ねた。術の攻撃性付加については可能だろうし、その点については嘘をついても仕方ないので正直に話す。
「そ、そりゃ可能だとは思うけど、そんな事絶対しないよ!僕はミーちゃんを傷つける気なんて一切無いからっ!」
「うむ、それは分かっておるのだが・・・」
「う、ど、どうしたらいい?どうすれば安心できる?」
情けないが、私には皆目見当がつかない。
ミーちゃんが逡巡して、躊躇うように口を開いた。
「・・・我と、『契約』してくれぬか?」
「うん、わかった。」
「・・・・・・・・・本当に、よいのであるか?」
私の即答に、ミーちゃんの方が驚いたように返して来た。
「ミーちゃんが安心して過ごせるんなら全然いいよ。その為の『契約』なんでしょ?」
「・・・・・・。」
「ミーちゃん?」
ミーちゃんが俯いてしまった。
その様子が苦しそうにも見えて慌てた。
「どっか痛む!?治すから言って!」
「そうではない・・・そうではないが、・・・うむ。」
ミーちゃんは少し考え込むように間を置いて言った。
「シャル殿。もしかして『契約』について少しも分かっておらぬであろう?」
・・・・・・・・・。
あー、うん、知らないです、・・・ハイ。
でも予想はつくよ!予想はっ!
「えーと、ミーちゃんが安心するための『お約束』みたいなものでしょ?」
私の中に具体的な想像として浮かんでいるのは、賃貸とか保険とかの『契約』だ。様々な取り決め事を盛り込んだ契約書にサインする事。それが思い浮かぶ最たる具体例だった。ここは魔術が蔓延る世界だし、言霊的な『契約』があるのだろう。
「・・・・・・キュアン殿の苦労が垣間見えるのであるな。」
ミーちゃんにしては珍しく溜息なんぞついている。
・・・一体誰の所為かしらん。
「知らぬモノになぜそうホイホイと頷けるのであるか?」
「え?だってミーちゃんだから。」
「・・・それは侮られているという事であろうか。」
「違うよっ!ミーちゃんが僕を殺そうとするとか想像できないからだよっ!」
つまりは信用してるって事なんだけどなぁ。
できるだけ助力してくれるって言ってくれた時とか、この紳士的な美形魔族めっ!メロキュンにさせる気かっ!てな感じだった。
「一度敵対した事を忘れたのであるか?我はそなたの首を絞め、あわよくば殺す事も考慮していたのだぞ。」
「それは知り合う前でしょ?自分で『正当防衛』だって言ってたじゃんか。」
「そうではあるが・・・」
ミーちゃんから話を振ってきたのに煮え切らない。
「僕はミーちゃんの事信用してるし、結構、す、好きだし。・・・えっと、その、知り合ったばっかりの僕が言うのもおかしいかもだけど・・・。」
「・・・確かに、おかしい、とは思うのであるな。」
・・・ひどいっス、ミーちゃん。
シャイロードが頑張ったというのに。
「しかも我は魔族。人族と敵対する我を『信用』する根拠が分からぬ。」
『根拠』ときたよ。流石学者って感じだ。
ってか、さっきから自分を貶めるような事ばっかり言ってるけど、一体何が仰りたいのか。頭脳プレイが苦手な私には理解が遠く及びませぬ。
「『魔族』とかどーでもいいよ。他の『魔族』知らないし。ミーちゃんみたいな人ばっかりだったら嬉しいけど。」
紳士的な美形魔族が盛りだくさんとか、どんなご褒美か。もしそうならば、是非ともキュアンを連れて魔界『しゃんぐりら』とやらに行きたい。
そして真なるBLワールドを・・・
「・・・・・種族など関係無い、と?」
おっつ、ヤバい。トリップするところだった。
瞬間湯沸かし器の様に即座に彼方へと舞空術を開始する意識を、ミーちゃんの低音美声を餌に連れ戻して返事する。
「うんうん、ミーちゃんがいい。ミーちゃんだからいいって事だよ!」
みんな違ってみんないいってね!No.1にならなくてもいい、元々特別なONLY.1~と、かの有名な歌にも語られている。
・・・ん?なんか話逸れたような。
「・・・・・・・・・・・・。」
朝の木漏れ日を纏う、美形魔族からの返事は無い。
やはり、ちぐはぐな返事をしてしまっていたようだ。
自分のおバカ!と自己を罵りながら、必死に足りない頭でフォローの言葉を考える。
「えとえと、えーとですね、ミーちゃんさん・・・」
「シャル殿は変であるな。」
どぎゃーんっ!既にフォロー不可な様子っ!!
「・・・・・・そうですよね。ごめんなさい。」
「何を謝る?」
「いや、だって『変』って今・・・」
「うむ。『変』という言葉をこのように使うとは思いも寄らなかったのである。」
「・・・そ、そうですか。」
「シャル殿、我と是非に『契約』を結んで頂きたい。」
「はい、わかりました、すみませ、・・・へっ?」
謝罪を要求されたのかと思ったが、違った。
「『契約』を結ぶには然るべき場と、時、準備を要する。そうであるな・・・本日の夜、頼むのである。」
「りょ、リョーカイです!」
「それと、・・・・・・キュアン殿にはくれぐれも内密にして欲しい。」
「え?キュアンに言ったら駄目なの?」
「うむ。キュアン殿はまだ我を信用してくれてはおらぬ。確実にじゃ・・・反対される確率が高いのだ。我はこの術の主であるシャル殿と『契約』を交わしさえすれば安心できるのでな。」
「そっか、わかった。」
キュアンにはただでさえ魔族を嫌ってる節があるし、ミーちゃんの方に安心して貰っておかないと、二人の仲が進展しないかもしれない。それは困るっ!
それに、今更ミーちゃんとさよならなんて私も嫌だし。『契約』で、ミーちゃんとのお約束事項を取り決めれば今後は安泰なハズ!
***
「シャル、ミーチュンとテラスで何を話してたんだ?」
頭脳会議を終えたのか、キュアンが声を掛けてきた。
テラスでの話は少し前に切り上げて、今はミーちゃんと一緒にメイドさんが煎れてくれたくれたお茶を、応接室メインルームのソファに並んで座って飲んでいる所だった。
「へっ!?えと、色々・・・。」
「その『色々』の内容を聞いてるんだが。」
「えっとぉ~・・・」
「キュアン殿、作戦は決まったのであるか?」
うまい誤魔化しの言葉が出て来ずどもってしまっていると、紳士的な筈のミーちゃんが話に割って入ってきた。
多分私のフォローの為でしょう。お手間をおかけしマス。
「・・・ああ、大体は。」
キュアンは無表情でそれに答え、無言で私の隣に座った。
位置的にキュアン、私、ミーちゃんと並んで座っている状況だ。しかし、二人に囲まれているにもかかわらず周囲の温度が僅かに下がった気が・・・。美形二人に囲まれてドキドキ☆とは別の意味で胸が高鳴る。漫画で表すと、冷や汗が垂れている事だろう。
どうやらキュアンは不機嫌でいらっしゃるみたいだ。
ううぅ、何とか空気を変えねばっ!
「おにーちゃん、僕に手伝える事ってある?」
「そうだな・・・取りあえず一旦クロロフィルンの町に戻るぞ。作戦は長丁場になるだろうからな。先にカチュア・ランバートの依頼を片付けておいた方がいいだろう。」
「ラジャーです。」
・・・どうやら今回は頭脳戦なようで、私は戦力外なようだ。ちょっと寂しい。
「敵は冒険者ギルドの親玉だ。唯一信用のおける初心者用ギルドに伝手を作って話を進めておく必要もある。」
「・・・・・・・・・・・・・・・ふへ?」
い、今何とおっしゃいましたでしょうか、キュアン様。
「ムーア国の悪者って、・・・『冒険者ギルド』なの?」
「は?知ってたんじゃないのか?」
「初耳だよっ!」
衝撃の新事実発覚!
私にとっては。
ミーちゃんも私がその事実を知らない事に驚いている様子。
そっちこそ何故知ってるんでしょうか。ミーちゃん、魔族だよね?え?私の方がおかしいって?・・・・・・うん、そーだね・・・(泣)。
20話まで進めたら例のごとく人物紹介が入ります。
今回のお相手はもちろんあの人で決まりです。