【1】元騎士と地竜
ちゃんと一週間目に二話目が投稿できましたよ。
よかったよかった。
今後もこのペースを維持できるようにがんばります!
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「はぁ~、現代人にこの距離は結構キツイ・・・。」
私はさっそく弱音を吐いていたりする。
この『始まりの樹海』から一番近い出口まで約1kmある。地図能力なかったら迷って死んでいたんじゃなかろうか。どうやら私は巧妙に仕掛けられた始めの試練を乗り越えなければいけないのかもしれない。
ってか、身体能力系に一切ボーナス与えてないから体力は15歳並みかそれ以下みたい。歩き慣れていないし、見渡す限り木々の獣道を進むのにも飽きたよー。
「あっ、そーか。魔法で何とかならないかな?」
そこまで考えてチート能力を思い出す。さっきは巧妙に仕掛けられた試練とか考えたけど、チート能力を持ってすれば罠でも何でもないのかもしれない。
「できれば移動・・・ワープ系の楽ちんな術がいいなぁ。」
『無』魔法系統は『天才を超える』まで能力値を跳ね上げているので、ほとんどイメージのみで無詠唱にて発動できるらしい。ワープの術を脳内で構築してみるけど案外簡単にできそう。『炎』系統とかじゃ絶対できないだろうし『無』系統を中心系統にして正解かも。ラッキー♪
私は脳内に展開した地図の中でも一番近い町の近くに転移先座標を設定してワープしようとした、その時。
____ドッゴオオォォンッッ
大きな地響きにも似た轟音が辺り一面を震わせる。
現代日本なら天災でもない限り絶対に有り得ない事。
私は一瞬身を震わせて硬直した後、急いで物陰に隠れた。その轟音が徐々にこっちへ近付いて来ていたからだ。
うー、ヤダヤダヤダ。マジで恐いんですけど。そだ、魔法で防御系の術を展開しとかないと、後、攻撃系。ああ~、地図展開で何が来てるのか確かめるのが先っ!?
私の頭は行き成りの展開にパニックを起こしている。何とか跳ねる鼓動と若干震えている手を抑え付けて、能力の地図を展開させて何が近付いてきているのか確認した。
・・・どうやら人が魔物に追われているらしい。
私は更に詳しい情報を見るべく慧眼の方も展開させる。
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キュアン・レーモグラス(21)人族♂竜騎士
元コーシルティル皇国の騎士。不敬罪によりその地位を
剥奪され、生活の為に冒険者となるべくクロロフィルン
の街を訪れる途中。現在ゴリオガに追われている。
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クロロフィルンって私がワープしようとしてた町だ。冒険者になる為って事は、その町にそんな施設があるみたい。しかし生活の為って・・・世知辛いなぁ。
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リュイ(208)地竜ゴリオガ♂地竜術師
地系ドラゴンの中でも特上級の種族。いつもは穏やかに
樹海の奥に生息しているが、先程の転生の余波を受けて
混乱している。偶然目に映った人族を追いかけている。
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・・・転生の余波って、私のせいじゃない?
うっそー。元穏やかな地竜さんごめんなさい。元コーシルティル皇国の騎士の人ごめんなさ・・・んっ?男じゃないっすか!
さっそくBL展開きたかなコレ。
どうかマッチョじゃありませんよーにっ!
突然降って湧いたBLフラグの可能性にて落ち着きを取り戻した私です。
取りあえず地竜を攻撃するのは可哀想だしどうしようかな・・・。状態異常として混乱してるなら法術で治せる?でも残念ながらまだ法術がどんなのかを全く知らないしなぁ・・・。創作に向いている『無』系統と同じ様に、法術もイメージで使用可能かな?なんせ『天才を超える』だしいけない事もないような気がするよ。
私は頭の中で『混乱解除』のイメージを構築した。すると目の前にフワッとした光が現れる。
・・・成功と見ていいかな?
あー、でもでも突進してくる地竜の前に身を出さなければいけないし、ガード系の術も構築して展開しておいた方が良さそうだ。
徐々に直ぐそこまで近付いてくる轟音に焦りながら急いで次の術を展開させた。
___ごおおぉぉぉぉっっん
「ひゃあぁぁっ!」
なになにっ!?
ガードの術を展開し終わった途端に直ぐそこの茂みから飛び出す影があった。
その瞳と視線が合う。緑碧の瞳だった。
茶髪碧眼の美形来たコレッ!!
私の心は歓喜に踊ったが、相手はそうでもなかった。
地竜に追われてるんだしそりゃそうかっ・・・へぇっ!?
「バカっ!何やってんだ、走れっ!後ろから地竜が来てるんだぞっ!?」
突如現れた茶髪碧眼の美形青年は行き成り私の腕を掴んで走り出す。
一見すれば乙女ゲームな展開、っていうか私が今男だって事を除けば。まだ慣れてないから自分が今男だって事忘れちゃうよ。
私お望みのBL展開だけれど、私自身はそれどころじゃない。
___ちょ、足早過ぎだってばこの人っ!
私は慣れない身体と獣道、加えて相手は21歳にして騎士になるくらいの中々の体格と足の長さをしている。体力も歩幅も全然違うそんな相手の全力疾走に着いて行ける訳が無い。
「もっと早く走るんだっ!追いつかれるっ!」
んな事は分かってるってば。いや寧ろ地竜を何とかするから置いて行って下さい。
そう言いたいだけど、走るのに必死な呼吸の為に言葉が出てこない。せっかくチート転生したのになぜに全力疾走せにゃならんのですかぁ~。うぇ、喉の奥で血の味がするぅ。マラソンなんて学生以来だよ。
「あっ。」
___ドサッ
はい転んだ~。でもガードのお蔭か痛くない。よかったぁ。
久々の有酸素運動で酸素の運搬が行き届いていない脳が思考能力を著しく欠如させているのか、後ろに迫りくる地竜を見てもあんまり恐いとか思わなかった。それが発する轟音にも耳が慣れてしまったようだ。
中々順応能力高いな私。
「くそっ。」
そう吐き捨てた元騎士様は私と迫りくる地竜の間に立ち進む。そして脇に差していた剣を抜いて地竜の方へ構えた。
さすが元騎士。その立ち姿は大分様になっている。カッコイイ~。見ず知らずの私を置いて行かずに守ろうとする姿勢も好印象だ。BLポイントUPだよ。ぜひフラグ立ちしたい、もしくは他者とのBL展開を見てみたいものだ。
そんな風にいい感じでぶっ飛んでいる私の脳が、やっとこさしなければいけない事を思い出した。そうそう地竜の混乱を解くんでした。
目の前の元騎士様が地竜に向けて一歩踏み出そうとしたのを止める。
「待って。わた、・・・僕に考えがあるんだ。」
おっといけない。この姿で私とか微妙でしょ。敬語キャラで通してもいかもだけど、それだと相手と壁を作る事になる。15という年にも違和感あるし、何より私自身に向かないキャラ作りなので無しの方向で。
まぁ、これは単なる後付の言い訳だけど。とっさに使った一人称が『僕』なので、せっかくだしそのまま通していくかな。
「考え・・・だと?相手は上級の地竜だぞ?」
渋い感じの茶髪を揺らし、緑色の瞳で私を見る相手。はぁ~眼福や。違う違う今は地竜が先ですよ私や。
私は起き上がって茶髪碧眼の美形青年の横までギクシャクと歩を進める。
・・・やばい。こりゃ筋肉痛直ぐに来るなぁ。さすが若い身体ですな。
「ゴガアアアァァァッ!!」
・・・眼前まで迫れば流石に怖いよ地竜さん。
見た目は巨大なワニのような身体のその背には、隆起した岩のような甲羅が覆っている。
確かにこんな相手じゃ逃げるしかないねー。サイズだけを比べても人なんぞ凄くちっぽけなもんです。焦る元騎士さんに頷けるよ。
私はその地竜に向けて『混乱解除』の術を展開した。
「グゴゴ・・・・・・。」
「なっ!?・・・地竜が、鎮まった?」
こちらに向けて咆哮を上げていた地竜が徐々に大人しくなるのを見て、大いに驚く茶髪碧眼の元騎士様。えっへん凄いでしょ?と、心の中で胸を張る私。
「・・・グルル・・・。」
ほぇっ?何んで近付いてくるんですか地竜さん。もう混乱解けたでしょ?
正気に戻った筈の地竜が私の方へのっそのっそと歩んでくる。
見た目ワニだから恐いし。
ま、まさか私が原因で自分が混乱した事を分かって私を抹殺しようとっ!?
[ありがとうございました。]
「・・・えっ?」
今喋ったの誰?何だか頭の中に響くような感じがしたけど・・・。
周りを見渡すけど、訝しげににこちらをみている元騎士が居るだけ。彼が喋った様子はない。って事は・・・。
私は目の前の地竜を見た。
「もしかして、地竜が喋った?」
[こちらの言葉が通じるのですか?凄いです。]
「いや、通じるっていうよりは言葉自体が頭の中に響く感じですけども。」
なんてゆーか、そう、『テレパシー』的な?
けれどこっちの言葉は相手(竜)に普通に通じている様子。
しかーし、これが相手の能力じゃ無いって事はもしやして私の『魔物使い』の能力なんだろーか?それならばホントに意図せずに効果絶大だよ。相手は上級のドラゴンだっていうのにマジですか。
意思疎通できるとか、今後魔物と戦えないかもしれない。言葉が分かるだけで愛着が湧いてしまう。普段はカットできないかなこの能力。
[始めまして、僕はリュイと申します。この樹海に住んでいる地竜です。]
「あ、これはご丁寧にどうも。わた、・・・僕はシャルロード・キアと言います。」
[シャルロードさんは天性的に僕達『人外』の念通話が分かるのですね。]
「えと、話すのは貴方が初めてなんです。だから念通話とかよく分からないんですよ、すみません。」
ここはひとつ正直に話してみよう。
実際によく分からないので取り繕う事さえできない。
[そうなんですか?では一定以上の高度な『人外』の念通話しか聞けないのでしょうか。]
「それってその辺に居る魔物の話は聞けないってことですか?」
[はい、その通りです。その他に考えられる事としては、大概の『人外』は念通話の手段を持ってはいませんから、念通話可能な『人外』に出会った事が無いのかもしれません。]
地竜のリュイが言う『人外』が多分魔物であろうと考えて言ってみたけど、どうやらビンゴみたいですな。確かに念通話できる魔物以前にリュイ以外の魔物にすら会った事ないけど、できたら他の魔物の声は聞けない方がいいなぁ。リュイの言う高度な魔物のしか聞けないんだったらいいのに。
しかし、上級ドラゴンに対しても『魔物』呼びでいいのかな?わざわざ『人外』って言葉を使うくらいだし、その辺は今後失礼の無いようにちゃんと聞いておいた方がいいかもしれない。
「・・・おい、まさか地竜と話してるのか?」
あっ、元騎士様の存在を忘れてた。
[彼には僕の念通話は通じないようですね。何か大きな力の余波で混乱して追いかけはしましたが、決して危害を加えるつもりは無かったんです。すみませんでしたと彼に伝えて頂けませんか?]
「はい、お安い御用ですよ。」
・・・よかった。リュイは私が原因だって事には気付いてないみたいだ。
私は地竜・リュイの言葉を伝えるべく後ろの元騎士様の方へ振り返った。
「・・・えーと、元騎・・・じゃない茶髪のおにいさん。」
危うく元騎士様とか言う所だった。あっぶなー。こっちは相手の名前から能力まで詳細データを確認できるけど向こうはそうじゃなかった。気を付けないと。
「俺はキュアン・レーモグラス。お前はシャルロード・キアだろ?さっき地竜に名乗ってたみたいだったが、・・・会話できるのか?」
「うん、僕も今初めて知ったけどそうみたい。で、地竜からの伝言なんだけど。」
「何だ?もしかして俺が縄張りに侵入してしまったのか?」
元騎士のキュアンはちょっと心配そうな顔になった。そんな顔も様になるんだから、まったく美形ってヤツはいい仕事しやがるよ。早くどこかの美形な殿方とくっ付いてくれないかなぁ。
私は心の中で邪な事を考えつつ、リュイの伝言を伝える。
「いや、違うよ。何か大きな力の余波で混乱しちゃって、たまたま目に映ったおにいさんを追っかけちゃったんだって。危害を加えるつもりはなかったけど、びっくりさせてごめんてさ。」
「そ、そうなのか・・・。まぁ怪我が無かったし良しとするよ。気にするなと伝えてくれるか?って、お前は普通に喋ってたからこっちの言葉は分かるんだっけな。」
キュアンの言葉を受けて、地竜リュイの方を見てみる。
ワニのような顔なので表情が分からないけど、『魔物使い』の能力かその雰囲気が伝わってきた。何故か驚いている。
[シャルロードさんは不思議な方ですね。]
「えっ?」
[僕は『たまたま目に映った』などとは言ってませんよ?]
「あっ!ああ~、混乱から予想はできましたので。」
[分かりました。そういう事にしておきましょう。]
リュイは「グルルル・・・」と笑った。
ぐぬぬ、流石は208歳。侮れない真眼の持ち主ですよ。折角の男なのになぁ。この性格で擬人化すればさぞかし穏やかだけど強か系の美青年になってくれそうなのに勿体無い。
・・・いっそ『無』系統で擬人化術を作ってしまおうかしらん。
なんでもありなチートならではの横行を密かに企む私。
そのBL覇道はまだまだ続くよっ!