【17】過ぎた妄想
展開が遅くて申し訳ないです。
「シャル・・・ちょっと相談に乗ってくれないか?」
「なーに?お兄ちゃん。」
「じ、実は・・・
ミーチュンの事が好きになってしまったんだ。」
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
「えええええええぇぇぇぇ~~~~~っ!?」
***
見開いた私の目に飛び込んできたのは、真っ白な天井。
・・・ん?天井?
そして焦った様子のキュアンの顔。
___美形でやんすっ!
「シャル!大丈夫かっ!?」
「あっ、お兄ちゃん・・・早くもミーちゃんと・・・」
「我がどうかしたか?」
ミーちゃんもひょっこり顔を見せた。
寝ている私の顔近くに美形二人の顔。
後方に後ずさるスペースなど無い。
・・・徐々に私の顔に熱が集中するのが分かった。
「顔が赤い。熱があるのかもしれぬな。」
「俺が熱冷ましの法術を掛けよう。今楽にしてやるからな?」
「あ・・・ちょっ、ちょっと待って!」
「シャル?」
「シャル殿?」
私は現在フカフカのベッドに横たわっている。
つまり、アレだ。さっきのはかの有名な『夢オチ』ってヤツだろう。しかし、何つー夢か。無意識に私の欲求が表出してしまったのだろーか。おっと、それよりも先に美形二人から離れて現状確認が先決かな。このままでは心臓が保たない。
「えっと、僕何で寝てるの?ベッドに入った記憶無いし、ここ何処?」
「シャル、覚えてる所まででいいから、話してみろ。」
「うーんと・・・皿姫の呪い解いて、泣いてる皿姫をあやしてたら女王様が来て~・・・それから記憶無い。」
「うむ。では頭の方は大丈夫であろう。吐き気も無い様であるしな。」
んー?つまりその後私の身に何かあったって訳か。あの女王様の様子から何となく予想は付くけど。そして察するに、ここはお城のどっかの部屋みたいだ。
「シャルが姫に不埒な事をしていると勘違いした女王がお前を昏倒させたんだよ。あれはムーア国の王家に伝わる『衝撃』の魔術だろうな。すまん、余りにも特殊な術だったから反応が遅れた。お前への衝撃波を全て抹消できなかった俺のせいだ。」
「へっ?いや、寧ろありがとうお兄ちゃん。」
そんな事になってたんだ。キュアン本当にありがとうって感じだ。彼には借りを作りっぱなしで申し訳ない限りですよね。返しきれるんだろーか。
ってか、不埒な事すんなら目の前の美形二人の方がいい。是非に。
「しかし、あの時のキュアン殿は見ものであった。」
「お、おいっ!」
「相手は仮にもこの国の女王であろう?その人物に斬り掛からん勢いで、食って掛かっていたな。」
ななななんとぉぅ!?
ミーちゃんの話す内容に驚いてキュアンの方へ向くと、彼はバツが悪そうに少し視線を逸らした。
「おにーちゃん・・・。」
「・・・当然だろ。体勢がどうであれ、姫が治ったのは一目瞭然だった。あの女王は短絡的過ぎる。」
「それには我も同感だ。しかし、シャル殿は高度な術は使えても、防御面は弱いのだな。次からは我も可能な限り助力しようぞ。」
「あ、ありがと。」
何だか女王様が可哀想なのでフォローしとこう。多分寝不足と疲労もあっただろうし、親目線だったから抑えが利かなかったんじゃないかな。
口にしたらキュアンには呆れられて、ミーちゃんには甘いって言われそうだからしないけど。
「シャルがもう少し休んだらとっととこの城を出よう。報酬は今後請求するとして、今はこれ以上関わりにならない方がいい。」
「うん、わかった。・・・あっ、でもひとつだけ伝えとかなきゃ。」
「何だ?」
「おそらく、残りひとつの強力な『呪詛』についてであろう。」
「・・・ああ。」
皿姫の中の21個の『呪い』中、ひとつだけどうしても解呪できない物があった。どんなに払っても直ぐに湧いて出て来るからだ。だからそれをミーちゃんに掛けてる『魔族隠し』を少し弄って、攻撃法術の特性を加えたもので包んでいる。内包という形で持続的に呪い返しを発動させずに『呪い』を打消し続けている筈だ。
それを二人に説明する。
「ふむ、ならばどこかで継続して『呪詛』の儀式を行っているのであろうな。」
「もしくは強力な呪具かもしない。」
「『呪詛』の為にそんなモノまで開発されておるのか?興味深い。」
「人族ってのは狡猾で卑怯だ。アンタ、そんなモン研究してどーすんだよ。」
「興味、であるな。貴殿こそ人族であるにも関わらず、人族に対して卑屈に考え過ぎではないか?何かあったと見るが。」
「・・・さーね。アンタにゃ関係無い事だ。」
な、何か空気悪くなってきたな。
ミーちゃんの研究理由やキュアンの過去は気になるけど、どっちも言うつもり無いみたいだし、早急に話題転換図った方が良さそーだ。
「えっと、多分儀式の方だと思う。場所も目星が付いてるし。」
「「何!?」」
「うひょえっ!?」
同時反応に被り発言とは、中々に気が合うと思うこの二人。
私の眼に狂いは無かった!今後は健やかなるBL関係が育まれていくことでしょう。
これでファンタジー系生BLが間近で観察できる。グヒョヒョヒョヒョ。
「どこまで規格外なんだ、お前は・・・はぁ。」
「シャル殿、少しでも身を守る術の方へ転換できぬのか?」
・・・何か申し訳ない。
自動防衛術は、今度頑張るからもう少し待って下さい。
自分用のはイマイチやる気が起きない。自分のだけだと自炊できない心理と同じだ。
「そ、それより僕、どのくらい寝てた?」
「およそ半日ぐらいであろうか。」
「今が朝の早い時間帯だからな。そんくらいで合ってるだろ。」
「へっ!?そんなに?ってか、二人はちゃんと休んだのっ!?」
「まぁ。」
「ある程度は。」
「ばかばかっ!僕はいいから二人とも横になってよ!」
私はすぐさまベッドを降りようとした、・・・が、キュアンに押し戻される。
「馬鹿はお前だシャル。心配せんでも交代で見張りをしながらそれなりに休んだ。」
「元より我々はそこまで疲労しておらぬ。それに引き替えシャル殿は術を連続行使しておるのだ。しっかり休息を取った方がよい。」
嘘だ。
ステータス『疲労』だし。
こいつ等何?私をキュン死にさせる気か。代わる代わる私をたしなめるとは、見事なコンビネーション。私の入る隙が無ぇ。まさしくBL展開だ。
私は無言で法術を行使した。
「シャル!?お前またっ・・・」
「魔族にも有効な治癒法術とは・・・」
嬉しさのあまり顔が自然とニヨニヨしてしまう。
「うへへ~、好きだなぁ。」
・・・そしてうっかり変態的本音が漏れた。
小声だったし、どーか聞こえてませんよーに!二人に気持ち悪がられてしまうっ!
___コンコンッ
そんな部屋に、控え目なノックの音が響いた。
返事をしてもいいのか、二人に視線を送ったが直ぐに顔を躱されてしまった。
・・・ちょっと、いや、大分、傷つきました。
休めって言われたのに、勝手に法術、使ったせいかな。でもでも疲労な二人を放っておきたく無かったし・・・。まさか、うっかり漏れたさっきの変態発言が聞こえちゃってて『は?何コイツ気持ち悪い』的な不興を買ってしまったとか!?
・・・も、もし、もしも嫌われてしまったんなら、その時は・・・
凹んでドンドコ思考を悪い方向へ滑らせていると、返事の無い事に痺れを切らしたのか、ノックの主が声を発した。
「・・・あの、入ってもよろしいでしょうか。」
「あ、メアリーさん?」
「キア様、目を覚まされたのですね!」
知った声につい返事すると、メアリーさんが勢いよく入ってきた。そしてたじろいだ様に一歩下がる。
???どーしたのかな。
ああ、確かに部屋の雰囲気悪いデスヨネ。
「真に申し訳ありませんでした。我が主の不肖は深くお詫び致します。」
「それで済むと思っているのか?」
「下手すればシャル殿の命が危うかったのだがな。貴様では無く、当の本人が謝罪するのが筋であろう?」
深々と頭を下げるメアリーさんに、さっきまで無言で視線を彷徨わせていた二人が辛辣な言葉を叩きつける。
うわっ!キッツー!
私だったらこんな美形二人にそんなに辛口な言葉を吐かれたら泣いてしまう。
メアリーさんは顔面蒼白で震えながらもさらに頭の位置を下げる。このままいってしまったら女性に土下座させてしまいそうな勢いだ。
それはヤ・メ・テ!私の良心が死ぬっ!!
「いやいや顔を上げて下さいメアリーさんっ!僕は無事だし、大丈夫だし、平気ですから!」
「シャル・・・」
「シャル殿・・・」
そんなジト目で見られても困る。
さっきの事を含め、こっちが泣いてしまいそうだ。
「キア様、この度は本当にありがとうございました。後程姫様よりお礼と、・・・女王より謝罪がございます。直ぐに知らせて参りますので、今暫く待っては頂けないでしょうか。」
「いや、それよりメアリーさんに話しておかなきゃいけない事があるんです。」
「な、何でしょう?」
そんな明らかに怯えたような顔をしないで。
何か私が苛めてるみたいだよぅ。
「えと、僕こそ謝らなくちゃいけないんです。皿姫の中にまだひとつだけ『呪い』が残っています。」
「っ!?・・・そ、それは一体。」
「どうしても解呪できないモノがひとつだけありました。原因はそれが持続的な呪詛だからです。」
「つまり、その呪詛の元を絶たない限り姫は今後また病に臥せる可能性があると?」」
「いえ、それについては常時呪いを払う術を皿姫に掛けてあるので大丈夫です。あっ、僕が死なない限りは、ですけど。」
あわわわしまった!この言葉を最後に持って来るんじゃなかった。やっぱりメアリーさんがビクッとなってる。さっきミーちゃんが『下手すればシャル殿の命が危うかったのだがな』とか脅してたからなぁ・・・。
「あーっと、持続的に呪詛を掛けている儀式が行われている場所も特定できています。メアリーさんに教えますので、後はそちらで何とかできますか?」
「本当ですかっ!?」
「はい。場所はブームランの中心街に在る『ドリッド・ドット』っていう人が居る家の地下室です。」
その場所を伝えると、今度はメアリーさんの表情が固く引き結ばれた。彼女を安心させたいが為に情報をさっさと話したんだけど、・・・これ以上どないせーっちゅうの。
「シャル・・・その『ドリッド』という人物については知ってるか?」
「えっ?皿姫に呪いを掛けてる人でしょ?」
「まぁそーだが、・・・・・・このムーア国の有力者でもある。」
「・・・わーお。」
「成程。」
驚く私と、面白そうに頷くミーちゃん。
アレか、物語的に考えると肥え太った悪い貴族様とかそういう系?
「実は、貴方方に頂いた姫様に呪詛を施した者達の名簿にて、何故そうしたかは予測が付いております。」
「そーなんですか?」
「はい、全て姫様が婚約の申し入れを断った家の者ばかりでした。」
・・・わーお。
21名からの結婚の申し入れがあったというコトかい。
皿姫ったら、モッテモテだネ☆
結婚断ったら呪い殺されそうになるとかシャレにもなんない。
相手のヤツはどんだけ狭量なんだっつの。
そして皿姫は・・・逆ハーで後ろから刺されるタイプの主人公かっ!