【12】後方支援の地魔術師
グール戦がようやく開始されます。
その中でもひと騒動の予定。
目指すのは男らしいシャルロード(!?)。いつかはムキムキっ!を夢見て頑張っていただきたい所存です。
さてさて意味不明な前書きは飛ばして頂いて(忠告遅い)読了お願い致します。
今は闇の時間。
しかし周囲のあちこちに光りを放つ魔具が置かれている為、夕闇程度の明るさだ。
「シャルくん、私達はここで後方支援よ。」
「こんなに後ろでいいの?」
遂にキュアンと離れ、カチュアさんに連れられて前線戦予定地より大分後ろの方へ来ていた。
あの後、昼御飯の残りで軽く夕食を済ませて仮眠を取った。その時に寝汚い私がなかなか起きない為、キュアンのこめかみグリグリが炸裂した記憶がまだ新しい。
・・・キュアンが私のこめかみをグリグリするのが定着しつつあるのが怖い。
確かに、非常に効果的だけどね・・・。
そして、離れる間際までキュアンに絶対前に出てくるな、危なくなったら逃げろ、と再三念押しされた。
私としてはキュアンの方が心配なんだけどなぁ。
できれば直ぐに怪我の治療ができるように近くに居たいのに。
「どの道前線は徐々に後退するでしょうし、この辺りに陣取るのが丁度いいのよ。魔族相手じゃ今回ばかりは魔術もあまり役に立たないしね。」
「怪我の手当する僕は、もう少し前の方がいいと思うんだけど。」
「それは駄目よ。私がキュアンくんに大目玉喰らっちゃうわ。」
裏工作も万全なキュアン。
・・・君ってヤツは何時の間に。
「魔術師は風魔術師の私と土魔術師のザラキィ、そして法術師のシャルくんの三人で後方支援よ。」
「そんなに少ないの?」
「基本、魔術は対魔族戦闘ではそれ程役に立てないからね。手練れを集めてるけど、それでも戦意喪失者が絶対出るからその人達をとっ捕まえて怪我の治療要員に回すのが主な役割よ。」
「へ、へぇ・・・。」
中々に鬼の所業ではなかろうか。
まぁ確かに仲間を見捨てて逃げ出すとか、よろしくないし。そして後々仲間内で禍根を残すくらいなら、比較的安全な後方で怪我人の手当してろって訳かぁ。
実に無駄のない作戦だ。
後方支援って実はリサイクル・リユースなのね、スゲェ。
「おい、カチュア。そのガキ本当に使えるのか?」
「誰?」
「今さっき話した地魔術師のザラキィよ。」
声を掛けられて振り返った先には、黒髪紫眼の三白眼な魔術師が。
魔術師としては細すぎず中々の体格。
性別『男』(ここ、重要)。
こないなBL要員いたっけ?
まさか確認漏れ!?私とした事がっ!
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ザラキィ・ユークリッド(18)人族♂地魔術師
若干18歳でギルドパーティ『女神の剣』の主力を
務める天才肌の魔術師。その為、年上にも不遜な
態度を取る事もしばしば。しかし巨大な防護壁を
いくつも出現させる事ができるその腕を買われて
魔術師であるが今回の作戦に所用で遅れながらも
参加を許されている。
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ほほぅ、天才肌で不遜な態度とな。
有望株ですなぁ。もちろんBL要員として。
やっと、やっと次のBL要員と出会えた・・・っ!
三白眼なので美形とは言い難いが、すっきりとした目鼻立ちは十分見栄えのいい分類だ。
ついに時代が私の方へ流れてきたのねぇ~!神様ありがとうっ!!
「あのねぇ、ザラキィ。遅れてきてその態度は無いんじゃない?」
「知るかよ。大体ほんとに法術師か?嘘くさい。」
「貴方自身で勝手に確かめればいいでしょ。シャルくん、こんなの気にしちゃ駄目よ?」
「・・・仲悪いの?」
「知らねぇよ。そのオバサンが勝手に突っ掛ってくるだけだ。」
「っ!?・・・私は態度のなっていないガキは大嫌いなの。」
うひょえ。中々に険悪な空気です。
しかしザラキィよ。27歳の女性をオバサン呼びとは、今のでてめぇのBLポイント下がったゼ?全く持って失礼極まりないガキですこと。
私の実年齢26歳だし、どうも他人事とは思えない。
不肖シャルロード、今回ばかりはカチュアおねい様の味方を宣言致します。
クックック、今後みっちり調教してあげませう。
ザラキィ、お覚悟願うゼ!!
「さて、こんなガキ放っておいて・・・ねぇシャルくん。」
「なーに?」
「せっかくだし、ローブに着替えない?予備のがあるの。そっちの方が少し加護も掛かってるし、怪我し難いと思うわ。」
「いいのっ?」
「もちろんよ。こっちにいらっしゃい。」
おおぉ~!なんていい人、カチュアおねい様っ!
***
現在場所はグール討伐部隊唯一の馬車の中。
カチュアおねいさんと二人きり。
「・・・カチュアおねいさん。」
「シャルくん・・・。」
私は彼女の周到な罠に嵌められていた。
「やっぱりよく似合ってるわぁ~!絵に残したいくらい!!」
私が彼女に着せられたは真っ白な手触りのいい布地に桜色の刺繍と金色の細かい装飾が施され、腰回りにはキャメル色したコルセットまで装着する仕様の肩出しローブ。
少し儚いような綺麗でも可愛くもあるそれは、どっからどうみても『女もの』のローブだ。
___だ・ま・さ・れ・た!
いやいや確かに『男性用』とは言ってなかったけど・・・、カチュアさんが『予備の』っていった時点で、ザラキィじゃなくて彼女のだって当たりを付けとかなきゃいけなかったかもだけど・・・、これは無いでやんす。
「シャルくんって見た事ない不思議な色の髪に中性的な顔立ちしてるし、絶対似合うと思ったのよねぇ~。いやーん、可愛い~♪小さな女神様みたいっ!」
えっ?中性的?アレ?
一応『性別:男』の中でカスタマイズしたんだけどなぁ?
やはり身体強化を一切してないのがイケないのだろうか。
ひょろっと細くて白い自分の腕が視界に入り、うっかり溜息をつきそうになった。
・・・過去の自分のアホゥ。
まぁ中性的ってのは百歩譲って受け入れよう。
しっかし女神は言い過ぎだし、私に男の娘する気は毛頭無い。
見る側としては楽しめるんだけどね。『男の娘』は。
自分はスーツがビシッと決まるくらいの締まった体型が好みです。
語っちゃったけんども、自分は既にそこから外れてしまってるけんどもっ!
ああ~!初めのポイント振りで遊ぶんじゃなかった!
いやいや遊ばなかったらリュイと知り会えなかったかもだけど、でもでもああぁ~!
あまりの事に心の中でもんどりうっていたら、カチュアさんに白い花を模した髪飾りまで付けられてしまった。
そこでようやく現状を思い出した私は慌てた。
くうぅっ、カチュアおねい様は味方だと思ってたのに!
兎に角早く元の服に着替えなければ!
「ほら、シャルくん。そろそろグールが来るわよ。出ましょう。」
何ですとー!?
そう言われて気付いた。何だか外が騒がしくなってきている。
ちょっ、えっ?この恰好のままで出なきゃいけないんですか!?
誰かに見られる前に是非脱ぎたいんですけど、おおぉぉぉぉ~~~~!?
私はカチュアさんに馬車から無理やり引きずり出された。
___魔術師の、しかも女性の力に負けた私の心はズタズタです。
当然その痛い姿を最初に見られてしまった相手は地魔術師のザラキィだ。
「おい、テメェ等遅ぇ・・・・・・ぞ・・・。」
「・・・笑いたければ笑って。」
「い、いや・・・その、・・・・・・女、神?」
はっ?何言ってんのこのBL要員として有能な地魔術師。
余りにもおかしな私の恰好に正気を失った?
だとしたら大変申し訳ない。男にはやはり男らしい恰好だ。それが私のBL論。
「あらぁ、ザラキィのクセによく分かってるじゃない。」
「・・・カチュアがしたのか?」
「そーよ。文句ある?」
「いや、・・・いい仕事したな。」
グッジョブ!と親指を立てるザラキィ。
それに笑顔で答えるカチュアおねい様。
・・・ここに味方は居ない。
私は虚ろな目でぼんやりと夜空に光る月を見上げた。
今日は三日月だ。
綺麗っていうよりは、何だか嘲笑ってる口にみえるなぁ・・・。
***
___ガキィッ、キイィィンッ
「グアアアァァッ!」
遠くで戦闘音や悲鳴が聞こえる。
遂に始まったんだ。グールとの戦いが。
今更ながらに緊張してきた。
「うわぁぁぁ~!!」
「全く情けねぇなぁ。」
「ひぃ!?」
「はい、確保~。」
逃げ出した最初の人をザラキィの土魔術で足止めして、カチュアさんの風魔法で運んでくる。仲が悪いとの事だけど、中々のコンビネーションだ。
「もう嫌だ!俺は戦いたくな・・・・・・女神、様?」
どうやらあまりの戦いに正気を失ってしまっているようだ。可哀想に。
「シャルくん、取りあえず怪我を治してあげて。できる?」
「任せて。」
見た目戦士のマッチョさんに慈愛に満ちた視線を向け、法術を行使した。
・・・ん?何か法術を掛けた時の感触が変な気が・・・うーん、何か変な靄が法術の妨げになってるみたいだ。治癒術の前にそれを取り除く術を、術過程に組み込んだ方が良さそうですな。
そうして展開した術でマッチョさんの傷は瞬間的に快癒した。
よしよし、イメージ通りに法術の行使はスムーズだ。これでカチュアさんも、ザラキィも、このマッチョさんも、私を法術師だと認めてくれるだろう。
もう誰にも『嘘つき法術師』などとは言わせんどーっ!!
「僕達と一緒に怪我人の手当をお願いします。」
取りあえず今後してもらう事を話して促してみる。
しかし。
「俺は夢を見ているのか?女神に傷を癒された。」
まだ正気を失ったままなのか、このマッチョさん。可哀想に。
マッチョな戦士さんの発言内容をさらっと無視して、私は慈愛に満ち満ちた視線のまま『混乱解除』の法術を行使した。
___だが、しかし。
「いえ、女神様が居るのなら俺はもう一度戦います。ありがとうございましたっ!」
「・・・はぇっ?」
戦士なマッチョさんはあっと言う間に、前線の方へ戻っていってしまった。
私はマヌケな声を出して唖然とその後ろ姿を見送るしかできなかった。
逆に『混乱』を誘う術は一切使っていない。
まさか、別々な効果のある術を連続で掛けると副作用があるとかっ!?
「流石、女神。お見事です。」
「あらら、凄い効果ねぇ。戦闘意識まで回復させちゃうなんて、シャルくん本当に凄い法術師なのね。いえ、女神様って呼んだ方がいいかしら?」
「そんな術は使ってないよ。後生だから苛めないで下さい・・・。」
ザラキィは置いといて、カチュアさんは確実に冗談だと分かる声音だ。
弄られキャラはまだ許容できるけど、神聖キャラは荷が重い。見た目と中身が伴ってないのは転生の副作用なので仕方ない事と許して頂きたい。
そんな遣り取りをしていると次々と脱落者が魔道具の薄明かりに照らされた木々の合間を縫って走ってくる。そして彼らは魔術師達にとっ捕まるわけである。
・・・戦場は過酷だなぁ。本当に。
「嫌だ!俺はもう戦えねぇ!!・・・め、女神様!?」
「俺達の部隊に女神様が来てくれたのか?」
「私、女神様の為にがんばりますっ!」
もー、えーがな。もー、聞き飽きたがな。
始めは可哀想だと思っていた心も女神コールと共に冷めてしまい、慈愛に満ちていた筈の視線も今は幽鬼のように虚ろである。法術を行使する際は腕すら動かしてない。
傷を癒すのはいいけど、このローブ姿を見たマッチョさんアマゾネスさんは次々と戦場へ戻っていってしまう。誰一人として後方支援に残ってくれない。既に諦めた気持ちで、治癒を掛けると同時にガードの術も掛けとく。
・・・ホラ、一応、後方支援の『法術師』、だし?
誰一人、法術師だったんだな!って言ってくれないのを悲しく思う。
うわーって驚かれるの、楽しみにしてたのになぁ。
しかしこれだけは突っ込ませていただこう。
服しか変わってねーっつの。えー加減にせんかいっ!
・・・ん?服しか?ま、まさか・・・。
脳内に某ゲームを捩った展開が。
そうび→むらびとのふく
ピッ
そうび→よびのローブ
ピッ
ドロドロドロドローン♪
シャルロード は のろわれた!
・・・姫様の呪いを解く前に私自身が呪われたっ!?
「ダリアッ!?」
「なわけないか」と、結局皆でグルになって私を貶めて弄んで酷いよと卑屈モードで一昔前のヤンキーの如くう○こ座りでふて腐れかけていると、血だらけのダリアさんが同じパーティメンバーに運ばれて来た。
カチュアさんが顔を真っ青にして駆け寄っている。
「っ、シャル、シャルくん!お願い、ダリアを助けてあげて!」
「わかった!」
私はすぐさまふて腐れていた表情を引き結び、法術の行使に集中した。