【11】幻だから許される?
夜中にこそっと更新しました。
今回はシリアスを目指してみたつもり・・・です。
それではこそっと読了お願いします。
後ろを振り向こうとした瞬間、大きな掌に口元を掴まれた。
口周りに鈍い痛みが走り、顔を顰める。
「んっ!んーんーっ!!」
「声を出すな。保護者を呼ぼうとしても無駄だぜ?今頃、俺達の仲間と仲良くしてるだろーからなぁ。」
「んんっ!?」
この厳つい悪者マッチョの仲間とキュアンが仲良くだとぅっ!?
脳裏をあられもない想像が過ぎる。が、直ぐに改めた。
キュアンがそんな目に遭うなんてとんでもないっ!無理やり系は二次元だからこそいい(※違います。)んだから!!
大体キュアンはとっても強いし!・・・で、でも確かに多勢に無勢だと可能性はあるのかな?そんなのヤダッ!!助けにいかなきゃっ!こんなワルマッチョなんか無系統魔法でドカーンとっ・・・、ドカーンと・・・どかーん・・・アレ?無系統の攻撃魔法ってどんなだっけ?
今更ながら『無』の系統を攻撃術として使用する場合のイメージが湧かない事に愕然として焦った。必死にアレやコレやのゲームを脳内記憶から引っ張り出し、『無』に当たりそうな魔法を考えてみるが、どれもこれも最終奥義のようなものばっかりだった。代表的なもので言えば、隕石が降ってくる魔法だろうか。
この辺一帯がキュアンと共に焼野原と化してしまうがな。
それは却下っ!
ゲームならば何故か仲間だけスルーできるが、この世界でも同様の事ができるとは限らない。攻撃系法術が人には無効な事を考えると、対になっているような魔術は必然的に有効である可能性大だ。
今現在、頭の中はテストになったら度忘れしてしまう出来の悪い子のようである。
落ち着け落ち着けっ!シャルロード!きっと何か、何かある筈っ!
・・・そーだっ!こうなったらっ!
キュアンの事ばかり考えていたら、自分の現状を忘れていた。
「オラッ!こっちに来いっ!」
「んにゅぅっ!?」
顎を捕まれたまま体を抱え上げられ、不意の移動に私の頭は半分以上パニックになってしまった。ジタバタしてみるが、ワルマッチョには痛くも痒くも無い様子である。
辺りは夕闇に包まれ、視界が悪い。大声を出せない現状、どうやったら助けを呼べるのか分からなかった。もし、キュアンやカチュアさん達以外が発見してくれたとして、果たして『嘘つき法術師』を助けてくれるのか。
パニックを起こした思考は悪い方へと淀んでくる。
「んっ!んんぅっ!!」
「うるせぇぞ。」
「うぅっ!っ・・・やうっ、んぐっ!」
怖くてくぐもった声を必死に振り絞っていると、遂にワルマッチョに口の中へ布を詰め込まれた上に、猿轡をされてしまった。口の中に布を入れられた事で呼吸が苦しくて仕方ない。手慣れてないか?このワルマッチョ。
その直後、乱暴に降ろされたのはどこかのテントの中だった。唯一の出口が閉じられ、密室の出来上がりだ。
___ま、まずいっ!
これじゃあ、ただでさえ夕闇で分かりにくかった現状が、テントの中へ入る事で確実に遮られてしまった。ただでさえくぐもった声なのに、テントの中だと殆どかき消されてしまうじゃないか。
はっ、はやく例の術をっ!!
私は焦りながら、横倒しになったままではあるが術を構築し始めた。
「おっ?観念したみてぇだなぁ?」
「俺としてはもう少し暴れてくれた方が楽しいんだがなー。」
そっちの好みなど知るかいっ!
ニヤニヤしている三人のワルマッチョの顔が、魔具が作り出した薄明かりに照らされ何とも不気味だ。
いーやーだああぁぁぁ~~~~!!
最近キュアンの顔ばかり見ているせいか、そのワルマッチョの顔が気持ち悪くて仕方なかった。口元に締まりが無さ過ぎる。まるで美形を見た時の私じゃないか!
・・・そうして自分の自虐ツッコミに若干凹む私であった。
必死の甲斐あり術が完成したので展開する。と、同時にワープを行使する。
「なっ、何だ!?ガキが消えたぞ!?」
「さ、探せっ!出口が空いた様子は無かったぜ!?」」
「どこだっ!隠れても無駄だぞぉ!?」
ワープでテント内の物がゴチャゴチャ置いてある物陰に移動した私は、近くにあったカーペット状の布を巻いて紐で縛っているものを、マッチョの近くにワープさせる。その巻布が目に入ったワルマッチョは・・・
「いたぞっ!」
「このガキ、逃げられるとでも思ってんのか!」
巻布に群がるワルマッチョはさながら餌に群がる池の鯉か公園の鳩のようであった。
よ、よかった、効いてるみたいだ。ふっはぁ~・・・リンチは免れたぁ~~!
私は緊張が解けて物陰で体の力を抜いた。
私が新しく使ったのは『幻術』みたいな術だ。これも法術と魔術を組み合わせて作った術。今、ワルマッチョ共にはあの巻布がシャルロードに見えている筈。見た感じうまくいっている様子である。
ホントはワープで直ぐに逃げてもよかったけど、それだと後々消えた事とかで面倒くさそうな事になりそうだったので咄嗟に考えた『身代わり作戦』だ。一通りリンチが終われば相手も満足するでしょう。今考えると面倒くさい過程が必要な咄嗟に実行するにしては結構複雑な作戦だが、出来の悪い頭が思い付けたのがそれしかなかった為にやっただけである。取りあえず今後は攻撃魔術が課題だなー。
しかし、所詮は幻術だし、感触でバレるかもとリンチ現場を物陰から覗いた。
そこにはワルマッチョ達が巻布相手に頑張っている姿が。あげな事、そげな事を巻いた布相手に致している。ある意味リンチで暴力だが、・・・性的な方であった。
布相手に何してんのっ!?
あれっ?今のワルマッチョにはアレがシャルロードに見えてる訳ですよね?
れれれれ・・・?ま、まさか・・・そんな展開だったっ!?
キュアンで少しだけ想像してしまった無理やり系BLな展開だったが・・・・・・自分が対象ってのは・・・ちょっと、なぁ。頂けない。
「ホラホラ、ちょっとは泣き叫べよ。」
「不感症のつもりかぁ?オラッ!」
巻布相手に言葉攻めもバッチリっすね、ワルマッチョ・・・いや、ワッチョ達。
これは久々に腐眼を発動させて、巻布擬人化方向で見てみようか。
ふ・が・ん・・・発動!!
腐眼Ver
巻布「くっ・・・っ!」
ワッチョA「ホラホラ、ちょっとは泣き叫べよ。」
ワッチョB「不感症のつもりかぁ?オラッ!」
巻布「やっ、あぁ・・・。」
・・・フッ。お遊びはこれくらいにしておこう。
早くキュアンの様子を確認せねばな。
未だに布相手と気付かずに頑張っているので取りあえず感触とかの点に置いては大丈夫そうだ。ワッチョ達に巻布がどう見えているのか見ようと思えば見れたかもしれないが、なんせ対象が自分なので気持ち悪くなりそうでやめた。
一仕事終えた感な私は、未だに口周りを覆う猿轡を外すべく結び目に手を持っていく。が、外れやしねぇ。どんだけ固結びしやがったんだ。
猿轡の結び目と暫く奮闘してはみたが、後頭部なせいで見えないし、結局外せなくて諦めた。兎に角キュアンが気になるので猿轡したまんまだが地図を展開させてキュアンを探そうとした時、テントの外が騒がしくなっているのに気付く。
「おい、何をしているっ!」
テントに勢いよく入ってきたのは。オレンジ頭に眉間皺が印象的なナイスミドルさんだった。今日の昼間、セクハラお爺ちゃんと共に紹介され損ねたお人だ。
「なっ!?その子はっ・・・」
巻布に群がるワッチョ達を見てナイスミドルさんは絶句した。
「あぁ~ん?リーダーさんかよ。今『嘘つき法術師』を教育してんだから邪魔すんなよなぁ?」
「そうそう、今いいとこなんだからよ。」
「あっ、それとも混ざりに来たのかぁ?リーダーもいい趣味してんなぁ?」
ワッチョ達はゲラゲラと『下卑た』と言うに相応しい笑い方をする。
そんなワッチョにナイスミドルさんは吠えた。
「馬鹿共がっ!!そのような年若い者に寄ってたかって、それが冒険者のする事か!?誇りはどうした!」
「ああん?オイ、小煩せぇジジィが何か言ってっぞ。」
「知らねぇよ、こっちは今いいとこなんだから邪魔すんな。」
「おいおいオッサン、萎えるから何もしないんなら出てってくれるぅ?」
「貴様等・・・。」
聞く耳持たず、巻布への凌辱を再開するワッチョ達に、ナイスミドルさんは怒り心頭って感じだった。握り拳になっている手が震えている。不良VS正義感のあるおじさんの構図を見ているようでこっちとしてもハラハラしてしまう。
「そこに直れっ!その性根、叩き治してやるっ!!」
おっとぉ、正義感溢れたナイスミドルが先に抜剣されてしまった!いやいや、どうやらこのワッチョ達が所属するパーティーのリーダーがこのナイスミドルさんみたいだし、教育の観点からしたら別にいいのかもしれない。
「あー?なんだよジジィやんのかぁ?」
「おい、ズンヌ、腰振ってとこ悪いけど、ジジィやる気みたいだぜ?」
「お前等、で相手しとけ、よ。」
「しゃーねーなぁ。」
ズンヌは巻布との行為に忙しいようなので、どうやら他のワッチョ二人VSナイスミドルさんの対戦になるようだ。この狭いテントの中だってのに、大丈夫なんだろーか。こっちに被害が来たりとか・・・しないよね?
「はぁっ!」
「おっせーよ、ジジィ!」
ギィィン、ガキィ!!
ああぁぁ~~。打ち合いが始まっちゃった!ってか、ナイスミドルさんが押されています!あんな小物臭しまくりのワッチョ達に負けないで!
ワッチョ達の装備は斧と曲剣、ナイスミドルさんのはレイピアだった。素早さでは分がありそうだけど、どうやら実力にそう差がないようで、そのせいか二人VS一人な事からナイスミドルさんは押され気味だった。
レイピアの突きを曲剣で一人がいなしている隙にもう一人がそこを狙う。ナイスミドルさんは一旦引くが、次は追い打ちを掛けるように曲剣の方がひと薙ぎをし、何とか躱せてはいるが見ていて冷や冷やする。ワッチョのくせに中々のコンビネーションだ。ってか、ナイスミドルさんリーダーなのにあんまり強くない?それともグール討伐に選ばれるくらいだし、ワッチョが強いの?
武術の心得が有る訳じゃないので判断がつかない。
うーん、もう一人さえ寝てくれたらナイスミドルさんが勝てそうなのになぁ。・・・んっ?『寝る』って、・・・そーだダリアさんに使った術があーるじゃないですか。
今更だが、『睡魔』の存在を思い出した私は猿轡をしたままその術を展開させた。詠唱が要らないって、こういう時便利だよねー。
「なんだっ?はにゃらへ・・・。」
バターンと派手な音を立ててワッチョの一人が倒れた。もちろん『睡魔』の効果だ。
「お、オイどうしたっ!?」
「そこだぁっ!」
「うぐあっ!」
仲間が行き成り倒れて驚いた瞬間の隙を、見逃さずに的確に突くナイスミドルさん。その攻撃を受けたワッチョさんは肩から血を流しながら膝をついた。
「観念しろ。この事はしかるべき場に露見させてもらう。」
ナイスミドルさんが巻布に覆い被さっているズンヌの方へ歩み寄る。
「オイ、早くその子から離れろ。あの保護者に殺されるぞ。」
そ、そうだ!キュアンだ!こんな展開見られたらどうなるか。・・・恐ろしや。
きっと、こめかみグリグリだけでは済まなそうだ。
「ああ?何だよ。負けちまったのかしょーがねぇなぁ。」
ズンヌは身体を起こし、股間のブツを仕舞った。心なしかスッキリした表情だ。何故かは考えたくない。更にその下にある巻布は、大分もみくちゃにされたようで哀れな感じになってしまっていた。布を結んでいた紐が今にも解けそうだ。
・・・ごめん。そしてありがとう。巻布よ、フォーエバー。
ズンヌが槍を手に取った。槍とレイピアならリーチは槍の方が上だ。と、なるとナイスミドルさんは相手の懐に入り込む必要があるんだろうねぇとか予想してみる。
「おらああぁぁぁっ!」
「ぐ、う。」
ひええええぇぇぇっ!!
なんとズンヌはテントギリギリを上手く見極めて力任せに槍を振り回した。
こっちにも当たりそうだったじゃんかぁ!何すんだこのワッチョめ!
近くの木箱が無残な姿になっており、背筋がヒヤリとした私である。
しかし、私にそうだったようにナイスミドルさんにも同様に不意打ち的な攻撃だったようだ。咄嗟に盾代わりに使ったレイピアを弾き飛ばされ、尻もちを付いている。
ズンヌは槍先をナイスミドルさんに突き付けて言った。
「勝負あったようだなぁ?俺はテメェのように実力も無いのに上についてやがんのがでぇーっ嫌ぇなんだよ。ここで死んどけ。後で勝手にグール戦で死んだ事になってんよ。」
ナイスミドルさんがピンチだ!『睡魔』展開、行使!!
「よかったなぁ?冒険者に誇りある殉職ってヤツだろ、ぉ?」
まだ語り途中だったズンヌに容赦泣く術を行使し、哀れズンヌは先程のワッチョ同様、バターンと派手な音を立てて倒れた。ついでに残りの膝をついて呻いているワッチョにも同じ術を掛けて眠らせておく。
「い、一体、何だ!?」
残されたナイスミドルさんは訳が分からない様子でポカーンとしている。しかし、思い出したように起き上がり、巻布の傍へ歩んでいった。
「シャルロード・キア、といったか?・・・私のパーティーメンバーがすまない事をした。謝って許される事ではないのは承知している。今後、この事を報告し、私はギルドを脱退する所存だ。」
ナイスミドルさんは今にも土下座しそうな勢いで、哀愁を漂わせて巻布に謝罪し始めた。
おぉーい!それ、ちゃいます!シャルロードちゃいますからっ!
『幻術』の有効範囲はこのテント内に設定している。つまりテント内に踏み込んだナイスミドルさんにも巻布→シャルロードに見えていたようだ。
私は速攻で幻術を解いた。
「あの保護者殿には・・・ん?こ、これは!?布???」
「ほほはほほはほ。」
私は物陰からゆっくりと出て言った。「僕はここです。」と。
・・・こ、この猿轡め!『ほ』と『は』しか言えてない!一見、笑っている人みたいじゃないかぁ!
「シャルロード・キア・・・君?」
私は無言で頷いた。
「その猿轡は?」
「あほワフハッホひはへは。」
「ああ、すまない。先に外そう。」
外してくれるとのことなのでナイスミドルさんの傍へ行く。
「ホラ、取れた。ああ、赤くなってしまってるな。痛むか?すまない。」
「ちょっとだけだよ、大丈夫。ありがとう。」
ナイスミドルさんが猿轡の結び目をいとも簡単に外してくれ、赤くなっているらしい私の頬を撫でてくれた。・・・かなり照れるが、ここは我慢だ。
私の中のシャイロードよ、鎮まれぃ!今騒いだらシリアスな雰囲気が壊れる!
「一体何があったんだ?」
「ダリアさんを送っていった帰りに襲われちゃいました。」
「そうか・・・さっきのは幻術の類か?」
「うん。あの布が僕に見えるようにして、その隙に端っこに逃げたんだよ。」
「では実際には猿轡以上の事は何もされてないんだな?」
「一応。・・・幻術の僕ってどうなってた?自分じゃ確認できなくて。」
ナイスミドルさんの剣幕に、幻術の自分がどうなっていたのかちょっと興味が湧いてしまった。自分の眼で見るのはヤだけど、聞くだけなら多分大丈夫だと思う。
私の発した言葉が中々理解できなかったのか、ナイスミドルさんの返答があるまでにかなりの間があった。
「・・・・・・・・・知らない方がいい。」
「そ、そうですか。」
酷い状況だったようだ。
まぁ、巻布の様子を見てもある程度予想はついたけどさ。
その後、ナイスミドルさんに今回の事はグール討伐が終わってから、キュアンに内緒でギルド内で処理して欲しいとお願いした。当然何故そんな希望をするのか疑問の返答がきたのでこう答えた。
「今回、グール討伐に参加したいって言い始めたのはお兄ちゃんなんです。僕がこうなった事を知ったら絶対抜けるとか言いそうだし、参加しなかった事を後で後悔させたくはありませんから。」
これは本音だ。
ワッチョ共に後々ゴチャゴチャ言わせないような面倒くさい手段を選んだのも、結局はこの為だったと言っても過言ではない。キュアンにはお世話になりっぱなしだし、極力迷惑はかけたくないのってのもあるにはあるが。
***
その後、キュアンとやっと合流できた。
「シャル!?遅かったから探したぞ!何かあったのか?」
「何か近くで暴れた冒険者がいるからって、昼間会ったナイスミドルさんに匿ってもらってたんだ。おにいちゃんこそ大丈夫だった?使いの人が知らせに行ってくれたんだけど、会ってない?」
他のワッチョがキュアンを襲ったって話はナイスミドルさんから得ていたので、ナイスミドルさんと作り上げた嘘だ。騒ぎの方は、もちろんキュアンのKO勝ちだったらしいけど。・・・心配してくれるキュアンに嘘をつくのは良心が痛むけど、嘘も方便、ってな事で素知らぬ顔でそれを突き通す私だ。
「そ、そうか。俺もその騒ぎが気になって少しの間外してたからその時かな?兎に角お前が無事でよかったよ。」
「僕も、おにーちゃんが無事でよかったよ。」
そうしてお互い微笑みを躱す。お互いが嘘をついた瞬間でもあった。
取りあえず誤魔化せたみたいだ。
ホッと一息ついた私は気付かなかった。
キュアンが少し悲しそうに私を見ていた事に。
今回も内容がアレなうえに長くなってしまいました。申し訳ないです。ってか初めはもっと酷い目にあっていましたシャルロード。絶対にR指定になるので止めましたけど!
次はグール戦の始まりです。頑張って打っていきますので今後もよろしくお願いします。