★人物紹介【キュアン編】
思ったより時間が掛かってしまった!
ホントは一度シャルロード視点で作ったんですけど、オマケ部分を外すとどうしても物語をも一回辿るだけだったので、自分がつまらなく感じてしまったのもあり、ボツになりました。
キュアン視点で作ってみたりはしましたが、本編のキュアンのイメージを壊してしまったら申し訳ないです。単なる面倒見のいいお兄ちゃんではないですね、ハイ。
何でもいーよとおっしゃっていただけるならどうぞご覧くださいませませ。
読了お願いします。
一応名乗っておく。
現在の俺は、キュアン・レーモグラス。年は21。性別は男。
先日冒険者ギルドに登録したばかりの剣士で、出身はコーシィルティル皇国。
他に特筆すべき点は無い。どうせ今後分かる事だ。
・・・今回、初回の人物紹介を押し付けられた。
非常に面倒臭い。
「おにーちゃん!」
「シャルか。どうした?」
独りでぼやいていると、白金色の髪に紅眼をした少年が声を掛けてきた。
少年の名前はシャルロード・キア。
明確な年は聞いていないが、見た目から十代前半だと踏んでいる。今は簡素な服を着ている為、体のラインで男だと辛うじて分かるが、コートやマントなんかを着こんだらパッと見では性別の判断がつかないくらいに中性的な顔立ちをしている。
そして髪と眼。今まで見た事の無い色だ。初めて会った時も目を奪われ、一瞬ではあるが見入ってしまったのを覚えている。それだけ印象的だった。しかし、本人はそうは思っていないらしい。出身はド田舎らしいが、その地域では普通なのだろうか?人種に関する見分は広くない為、聞いてみたい気もするが、そうなると自分の事も芋蔓式に話さなくてはならないだろうから聞けずにいる。
「今回人物紹介の担当でしょ?初回は僕だと思ってたのになぁ。何でだろ?」
「書き手がシャルの内面を打つのに飽きたらしいぞ。」
「ひどっ!!何その理由!?横暴だっ!断固抗議するっ!」
シャルロードは頬をうっすら朱に染めて、憤慨したように言った。同時に手足もパタパタ動かしている。表情や声音がクルクルと変わるので見ていて飽きない。『始まりの樹海』で初めて出会った時からそうだった。
「むむぅ・・・、じゃあおにーちゃん、自分と僕の紹介お願いします。」
「もう終わったが。」
「えぇっ!?何も聞こえなかったよ?」
「ほら、今回は俺視点だからな。モノローグで終わらせた。」
「な、なんとゆー。それじゃあ、おにーちゃんの事とかおにーちゃんが僕の事どう思ってるとか、僕には分からないじゃんかぁ・・・。」
シャルは項を垂れてブツブツ言っている。・・・俺の事とか、俺からどう思われてるとか、そんな事知りたかったのか。殆ど聞いてこないのは気を使われていたのか?
何だか・・・ムズムズするな。
俺は自分の頬が僅かに緩むのを感じた。が、表には出さない。同時にシャルへのささやかな反撃を試みる。
「シャルの事は女の子みたいだなとは思ってるぞ。」
「んなぁっ!?」
俺の言葉に心底ショックを受けたと全身で醸し出すシャル。
「おにーちゃんのバカバカっ!もう少し大きくなれば僕だって縦にも横にも伸びるよ!きっと!・・・多分。・・・・・・うん。」
始めは勢いのあった発言は尻すぼみとなった。声量が落ちていく毎に目が虚ろに泳ぎ出し、最後の『うん』には哀愁すら込められていたように思う。ちゃんと自分の限界は理解しているようで安心した。
「シャル、頑張れば何でもできるなんてのは所詮お伽噺の中だけだ。如何に己の限界を知り、それに合わせて精進していくかが大事だと思うぞ。まっ、俺の考えだから強制はしないがな。」
「んーん、肝に銘じときます。」
そういってシャルは困ったようにふにゃりと笑った。
見た目と内面がとことんかみ合わない奴だな、と思った。もし、同様の事を他の奴に言えば、多少はムッとされる。
最近の俺はシャルのせいでおかしい。以前の俺はこうではなかった。たまたま法術を使うから興味が出て話してみただけだったが、そのままズルズルと面倒を見てしまっている。
・・・そういえば法術師だったな。俺の知っている『法術師』独特の感じが全くしないから時々忘れるが。
「じゃあ次は他の人の紹介だね。誰からする?」
「は?これで終わりじゃないのか?」
「えぇっ?まだリュイ・・・地竜の事とかオッサンとかカチュアさんもいるよ?」
「・・・ああ、そういえば居たな。」
「おにーちゃん・・・。」
シャルに呆れた様な視線を向けられたのは心外だ。俺にとってはどうでもいい事なので仕方ないと言い訳の一つもしたい。
「じゃあシャルが紹介人物の名前を言ってくれ。それについて説明する。」
「説明って・・・。わかったよ。」
シャルはがっくりと肩を落とした。その反応はちょっと傷つくんだが。
という訳で、以下は大まかダイアローグ形式の人物紹介になりそうだ。
「じゃあ地竜ゴリオガ。」
「地竜の中でも特上級種に当たり、『神獣』にすら分類される竜だな。『始まりの樹海』の守護者とされている。」
「お、おにーちゃん、そーじゃなくてえぇ~。」
「シャル?何か間違った事言ったか?」
「いやいや間違ってはないケド、折角おにいちゃんが紹介するんだから、出会いとか自分との関連も加えて欲しいよぅ。」
「あぁ、成程な。」
今まで向こうから勝手に名乗ってくるパターンが多かったから、他人を紹介するとか慣れていない。逆にシャルはその手の事には詳しそうだ。聞いてみたいが・・・まぁ追々情報収集しようと思う。いつもと立場が逆になってしまっているので、何だかシャクだしな。
「冒険者ギルド登録の為にクロロフィルンに向かう途中、近道の為に『始まりの樹海』の端を横断していた時に偶然会って追いかけられた。どうやらゴリオガ自身にも分からない巨大な力の余波で混乱していたらしい。シャルとはそこで会った。」
しかし、最上級竜にも理解が及ばない巨大な力とは一体何だったのだろうか。まさか地竜が嘘をつく訳もないし・・・まぁ、シャルを介して得た情報だから信憑性は五分五分だとは思ってはいるが。竜と喋れるとか嘘だろうとか思ったが、地竜の行動を見る限り会話がインスピレーションによるモノだとしても大方合っていそうだった。
シャルはその知力の足りてなさそうな行動と裏腹に謎が多い。昔から知識を身に着ける事が結構好きな方だったし、観測対象と見てしまっているのか。
「おにーちゃんは初めて会ったのに僕を守ろうとしてくれたよね。とってもカッコ良かった!あ、後、・・・ありがと。」
「あ、ああ、気にするな。」
照れたように言わないで欲しい。こっちにも伝播してしまうだろ。
俺は視線をシャルから僅かに逸らした。その紅眼で見上げられるのは落ち着かない。
・・・こういう裏のない言い方をするし、一緒に居て苦にならないのもあるのかもしれない。一応地竜の縁で独り立ちするまでと名目を打ってあるが、元々俺は面倒見がいい訳でもない。特に誰かと一緒に行動するのは好きじゃないから。
シャルを守ろうとしたのは目の前で子供が死ぬのは寝覚めが悪いし、死ぬなら最後だけでも誰かの為でありたいと投げやりな気持ちだっただけだ。
はっ、シャルには絶対に言えない内容だな。
俺は、自分も、そして人も、大嫌いだ。
「んと、次は・・・受付のおねいさん、とか?」
「それはシャルのナンパ相手だろ。俺にはそれ程関係ないが。」
「い、一応だよ!知ってる事だけでいいからっ!」
釈然としない。何だかイラっとする。
「名前は確か・・・ララ・シフォーヌだったか?クロロフィルン初心者特化型の冒険者ギルドの事務受付員。眼鏡を掛けた年齢は二十前後の女性だ。シャルのナンパを間に受けてしまっていたが、今後はどうするつもりなんだ?」
「どうもしないよ!だーかーらーぁー、ナンパなんか一切してないってばっ!」
「ふーん?」
俺は如何にも信じてない風に返事をする。実際にシャルにその気は無かった事は理解してるからポーズだけだ。しかし、心に一度湧いた暗雲は晴れない。だからこのポーズには八つ当たり的な意味が強い。自分でも大人げないという自覚はあるが、シャルになら許される気がするのだ。普段だったら絶対にしない事だ。
「つ、次はカルアのオッサン!」
「ああ、カルア・ヴィータスっていうオッサン。ギルドパーティ『ゴッドブレス』のリーダー。年は40前後か?見た目に寄らず狡猾なオッサンだな。まっ、グール討伐を買って出た事だけは称賛に価するか。」
「僕の事『嘘つき法術師』とか呼ぶし、何であんなに固執するんだろ?」
「大体予想は付くがな。」
「えっ!?教えておにーちゃん!」
「こればかりは本人に聞いた方がいいだろ。俺のは単なる予想だ。」
「うぅ~、はーい・・・。」
渋々返事するシャル。変な先入観植え付けるのはいい事ではない。理由が何にせよ、オッサンの行動は行き過ぎているようには思うが。
「それじゃ、メアリーさんは?」
「メアリー・マグリア。年についてはあの年代になると不詳だが、30くらいか?ギルドパーティ『守護の刃』のリーダーらしい。身分の高い知り合いの呪い病を治療できる人物を探しているとかで、シャルにちょっかい掛けてきた奴だな。」
「おにーちゃんも掛けられそうだったよね。」
「元より乗る気はない。・・・しかし、呪い病自体はグライド教の長でも治せなかった程強い呪詛だぞ。大丈夫なのか?」
「んー、わかんない。可哀想だし、僕で治せるんなら治してあげたいだけだから。」
「・・・そっか。」
あのグライドの守銭奴が治せなかったとはいえ、内容によっては契約金として相手は多額の出費を伴ったはずだ。身分が高い奴らしいが、もしシャルが治せたら、果たしてその報酬を払う事ができるのか?シャルは金銭について疎いようだし、騙されないか心配だ。まぁ、自分もついて行くと約束したし、出来るだけフォローはしてやろうとは思ってはいるが。
しかし、つくづく俺の知っている法術師とは違う考え方をしている。こういう奴ばかりだったなら、俺も少しは違う思考でいられたのだろうか。
「んっと、次は・・・ミルルちゃん、とか?」
「シャルのナンパ相手の説明はもう遠慮したいんだが。」
「だから違うってばっ!」
「はいはい。俺達が泊まる安宿『太った猫』亭の従業員らしいな。年はシャルより少し上ぐらいだろう。とにかくシャルに好意があることは明白だ。」
「・・・そう。」
あまり嬉しそうではない様子のシャル。ミルルという子には悪いがシャルの好みではないようだ。・・・シャルの好みか。機会があれば聞いてみたいとは思う。
「後はカチュア・ランバートか?ギルドパーティ『地竜の咆哮』のリーダーで年は、・・・うーん、20代ではありそうだがよく分からん。疾走魔法を使える風魔術師。そういえば、始めは俺たちの後方で存在感を薄くして探ってきていたな。カルアの差し金だって事はシャルのナンパにも似た話術で自白していたが。」
「・・・・・・。」
「シャル?どうした?」
目の前のシャルが黙ってしまった。その表情が少し悲しげだったので慌てて声を掛ける。急にどこかが痛くなったのだろうか。
「おにーちゃん・・・カチュアさんの事はちゃんと覚えてるんだね。」
「・・・疾走魔法を使うからな。」
俺は疾走魔法、つまり風魔法の移送系魔術と相性が悪く、必ずと言っていい程に酔う。だから苦手なモノには成るべく関わらないようにする為にも覚えておく必要があるのは必然であろう。それがどうかしたのだろうか。
「おにーちゃんはカチュアさんみたいな胸の大きい女の人が好み?」
「はっ?」
シャルは何を言っているんだ?
好みとかそういう話をした覚えは無い。
「いや、その、カチュアさんの事だけは自分から紹介したから。」
「そういう場だろう?」
「うん、まぁ。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
紅い瞳がこちらをじっと見てくる。居心地が悪い訳ではなく、妙な充足感が俺の心中を満たす。シャルはどうやらカチュアに対して嫉妬の感情を抱いているらしかった。それに充足感を感じるとか、・・・。
俺は無意識にシャルに手を伸ばした。その不思議な色をした柔らかな感触の髪ごとシャルの頭を撫でる。始めこそビクビクしていたシャルだが、最近少しずつ慣れてきたようだ。それを心の隅で嬉しく思ってしまう自分がいる。悪い気はしない。
「おにーちゃん?」
「別に最後の紹介くらいは自分から言っておこうと思っただけだ。深い意味はない。」
俺の言葉にシャルが驚いたような顔をした後、はにかんだ。百面相なシャルの中でも結構好きな表情だ。こっちまで嬉しくなったような錯覚に陥ってしまう。
しかし、直ぐ後にシャルが恐る恐る俺を伺うように言った。
「・・・いや、そのですね、・・・まだダリアさんがいます。」
「・・・・・・そーか。」
締まらない。
「えーと、ダリア・マルガリッタだったか?赤い髪は炎系の先祖返りの類だとは思う。炎術の魔法剣士だしな。年は、・・・10台後半だろうか。」
「ダリアさん、おにーちゃんより年上の24だよ?」
「!?」
・・・人は見かけによらないようだ。
「取りあえず紹介終わったか。」
「まぁ、セクハラお爺ちゃんと眉間皺のナイスミドルさんもいるけど、結局名前知らないしねー。」
「あぁ、あのエロジジィはいつか潰しとかないとな。今後の為にも。」
「そうだね!新人イビリとか最低だしっ!」
シャル・・・、本気で理解していないんだな。
俺は無言でシャルのこめかみへと狙いを定める。
「うにょわっ!お、おにーちゃっ、にゃ、なんでえぇ!?いにゃにゃあぁ~~~!!」
拳で両こめかみをグリグリするとシャルはよく分からない悲鳴を上げた。数秒で直ぐに解放してやるが、シャルにはそれでも大ダメージらしい。手を離した後、地面にへたり込んで涙目で俺に恨みがましい視線を送ってくる。
その表情に満足する自分がいる。頬がまた緩み掛けるのを引き締めた。
「いい加減自分が他人にどう見られているのか考えろ。」
「う、『嘘つき法術師』?」
「それ以外で。」
「子ども?弱そうな奴だなーとか?」
「少し掠ってはいる。」
「うぅ?・・・うーん・・・。」
シャルは本気で悩み始めた。これは全く理解の範疇外だという事だろう。
これが分かってないから11話であんな目に遭う訳なんだがな。
俺は盛大に溜息をついた。
■人物紹介・キュアン編終了■