【10】自己紹介なんてもんじゃなかった
うーむ、楽しい話はやっぱり楽しい気分の時じゃないと書けないですね。自分は簡単にシリアス路線に突入しちゃうタイプなので、その辺成るべく注意しながら話を作ってます。
ってか、急いで思うままに文字を打ったらまとまりが無いうえにエラく長くなってしまいました。大変読み難いかもです。申し訳ないのですが、自分に悔いはなかったり。ゴニョゴニョ。
あっ、でも後でちょっとは直す予定ですよ!・・・多分。
さて置き、遂に十話目でーすーよー!
人物紹介は閑話扱いでなるべく直ぐに投稿しますのでよろしくお願いします。
空は青く澄んでいて、草木が風に揺れる。そして少し離れた所から肉の焼けるいい匂いが漂っている。今いるのが元の世界だったなら、バーベキューな気分だ。
そーいや今日は朝に携帯食のビスケットみたいなのをキュアンに貰った以降は何も食べてなかったな~。そろそろお腹の小人さんが騒ぎ立ててくるよ。つまり腹減った。
そんな事を遠い目をして考えている私の目の前にはカルアのオッサンとカチュアさんの他に、厳つい方が二名程並んでいた。キュアンは当然私の隣だ。うへへっ。
今回のグール討伐部隊の面々をチラチラと見た範囲には、キュアン程スペックの高いBL要員は見当たらなかった。そんな事のみ既に確認済みである。
・・・この世界はBL、いや私に厳しい。
ちょっとはウハウハさせてくれてもえーじゃない。
「『嘘つき法術師』か。ふむ、近くで見るとなんとまぁ・・・。」
厳つい二名の内の一人、ロンゲ白髪のいかにも『老師』なお爺ちゃんが口を開いた。目元をニヤリと細めて何とも失礼な発言内容である。
近くで見るとなんだってんだい!ヒョロッ子だってか!?如何にも嘘つきそうだってか!?どっちも否定できないけどねっ!!
「ああ、そーだ。おい、自己紹介しろ。」
そのお爺ちゃんの言葉を受けて、カルアさんが私達に促してきた。
人に名乗らせる前にそっちが名乗れっつの!
私は心の中でプンスカしながら一応自己紹介した。面倒臭いので姓は簡略化だ。・・・二文字しかないけど。要は気持ちの問題だ。キュアンもその後に続く。
「シャルロードです。よろしくお願いします。」
「・・・キュアンだ。」
私はまだ丁寧語を遣ったけど、キュアンの方はかなり素っ気ない。
「・・・カチュアの事は悪かったが、別に危害を加える気は少しもなかったんだぞ?」
カルアのオッサンが何だか言い訳のように語っている。
この微妙な表情見た事あるなー。そうそう、キュアンが殺気飛ばした時だ。
・・・えっ?キュアン?マジで殺気放出中?
「問題はそこじゃない。・・・アンタ等、今回参加してるギルドのリーダーだろ?下っ端の教育はどうなってんだよ。」
キュアンさんってば、いきなり何の話?
ってか、え?この人達リーダーなの?
さっきから『?』を連発するしかない現状。どうやら私一人だけ話についてけてない様子である。置いてかれた私以外のメンツで話がドンドコ進む進む。キュアンの言葉に二人の内のもう一人、オレンジ色の髪に白髪交じりの眉間皺を刻んだナイスミドルが苦虫を噛み潰した表情で言う。
このお人は攻める方ならなんとかいけそうかな。でもでも、できたらもう少し年は近い方が好ましいなぁ。眉間の皺的に年中胃痛と頭痛に悩まされてそうだし。
えっ?何の話かって?
当然、BL要員たる資格があるかの審美に決まっておろう!
「悪いがそこは管理範疇じゃない。・・・性癖にまで口を出せるか。」
「私のチームは女だけだし、仕方無いわよ。」
「皆が興味深々なのは仕方あるまいて。その容姿に加え、『法術師』となるとのぉ。」
___ふおぉっ?
一気に視線が自分に集まり、私はたじろいで一歩下がった。
今さっきまで蚊帳の外だった筈でわ?一体いつの間に話題がすり替わった!?
「な、何?」
「・・・シャルはシャルで全然気付いてないしな。」
「お兄ーちゃん?」
「いや、お前は何も気にする必要は無いよ。」
キュアンに保護者の慈愛溢れる瞳で軽く微笑まれた。
・・・な、何だこの複雑な気分!嬉しいんだけど、プライドが「子供扱い!?」って悲しくなって、自分に向けられた美形の微笑みに対して心はウハウハしてるのに涎が出るのを自然に抑制しちゃったような変な感じだ。いや、まんまそのまんまか。
「どの道キュアン君が傍にいるなら大丈夫でしょ?」
「・・・まぁな。」
「過保護じゃのぅ。」
キュアンとカチュアさんが最終決定のような遣り取りをしていると、お爺ちゃんがが口を挟んできた。そんなお爺ちゃんにキュアンが眉をひそめる。
「あんたらは役に立たない現状、他にどうしろと言うんだ。」
「法術にそのような心を抑制する術はないのかの?」
「あるわけないだろっ!」
「ふぅむ、では当人に危機感を持ってもらうのが手っ取り早いじゃろ。」
お爺ちゃんがこっちを見た。横長で丸顔がちょっとカエルを連想させるけど、白いたれ眉が人の警戒心を柔らかくさせてしまうようなそんな感じ。白髪のそんな年でもギルドパーティとやらのリーダーだし、まだ現役で戦ったりできるみたいだし、きっと凄い人なんだろうなぁ。
「何をっ・・・」
キュアンの声が聞こえた次の瞬間だ。
___ギュムッ
「ひうぅっ!」
背筋を悪寒が駆け上った。
「ほっほっほ。思ったより肉付きは悪くないのぉ。」
「やっ!」
そんな言葉と共にも一回揉まれた。
尻を。
「おおっと。」
「・・・殺す。」
次の瞬間にはその生理的悪寒を伴う感触もいつの間にか間近にいたジジィも消えた。
取りあえず凄い人なんだろうと思った過去の記憶は抹消しておこう。
そして視界には抜剣したキュアン様が。
「落ち着けい。今のは危機感を持たせる為の行為じゃろうーが。」
「・・・それが遺言か。」
キュアンが低く唸り、剣を構える。
それと共に他の面々が慌て出した。
「マズイ、あいつ本気だぞっ!?」
「おい、坊主!あいつを止めろ!」
「お、お兄ちゃんガンバレ!」
「無論だ。」
「シャル君!?」
自己紹介もまだな見知らぬジジィにケツを揉まれた憤りを、代わりに晴らして下さいキュアン様!新人イビリにセクハラ良くない。ダメっ!絶対!
「お、おい止めねぇか!これからグールとの戦闘だってのに!」
「ほぉ?オッサンもこのエロジジィのお仲間だったのか?」
「なっ!?」
キュアンの返答にカルアのオッサンが絶句する。
そりゃそーだ。
初対面の男児のケツを行き成り揉むお爺ちゃんと同類扱いされた訳だし。
「シャル君!キュアン君の近くに居れば安心よ?変な人には近づかないで、キュアン君の近くに居ればいいのよ。ホラホラ。」
慌てた様子のカチュアさんにキュアンの方へ押し出された。
「にょわっ!」
そのままつんのめってキュアンに寄り掛かる。キュアンは流石と言うか、扱けそうな私に直ぐに気が付いて剣を持つ反対の手で抱き留めてくれた。
ひょええぇぇ~!カチュアさんなんて恐れ多い事をさせてくれるんスかっ!
密着してる今の状況は、嬉しいけど恥ずかしい。心臓が頑張り過ぎちゃっている。
どうしたの?私の心臓、少し落ち着け?誰かさんに似て忙しない子だこと。
「まぁ、先に言い聞かせる手も有り、か。」
そう一言つぶやいて、キュアンは屈んで私と視線を合わせる。
こんな間近にキュアンの顔。つまり、現在進行形で少々心臓に負担を掛けさせ過ぎてしまっています。
だから自分シャイですから。
シャイなシャルが心停止を起こしてしまう。
いっそ名前をシャイロードに変更してもいい。シャイの中のシャイっぽくてかっこいんじゃね?シャイなうえにロードだ。シャイを極めっちゃってるよーな名前で私にピッタリじゃないさ。
「シャル、この変態共には絶対に近づくなよ。他の奴もそうだ。」
「へっ?」
羞恥の許容範囲を超えてオーバーヒート気味の頭は回転能力が著しく悪い。
咄嗟に間抜けな返事をしたら、キュアンが笑みを浮かべて言葉を重ねた。
「返事は?」
「はいっ!お兄ーちゃん!」
形の良い口元は柔らかい笑みを作っているのに、目が笑っていなかった。
先程とは別の悪寒を感じて私は片手を勢いよく上げ、肯定の返事をする。
「ひ、ひと段落ついたかしら?」
「儂の案のおかげじゃな。」
「ジジィは今後背後に気を付けろ。」
「・・・冗談じゃ。」
キュアンの地を這うような脅しに垂れ白眉を苦笑と共にさらに垂れさせて老師風な変態お爺ちゃんが言った。その様子に胡乱な視線を向けながらもキュアンが剣を収める。
カルアのオッサンもカチュアおねいさんも、眉間に皺を刻んだナイスミドルさんも一様安堵したように息を吐いた。
結局自己紹介は有耶無耶になり、私はセクハラしてきたお爺ちゃんと始終崩されない眉間の皺が印象的なナイスミドルについて、ギルドパーティのリーダーだという事以外分からなかった。出来事が酷過ぎてステータス画面を開いて視るのさえ忘れていた。
キュアンの保護者的忠告に一応返事はしたものの、何の話をしていたのか私には分からず仕舞いだった訳でもある。
***
「結局何だったんだろ?」
「・・・・・・。」
「うぎゅあっ!うそうそっ!じょーだんっ、じょーだんですぅ!!にょああぁぁ~!」
「シャル君・・・・。」
要らない事を言うんじゃなかった。
キュアンには両拳でこめかみをグリグリされるという、嵐を呼ぶ5歳児の母上の秘伝技をかまされ、カチュアさんには少々呆れたような視線を投げかけられてしまった。
現在はカチュアさんの『地竜の咆哮』パーティと一緒に食事を摂っている。といっても彼女とダリアさん以外は少し遠巻きだ。なんつーか、『地竜の咆哮』って全員おねいさんだった。遠巻きにしながらも興味深々ってな視線を感じるけど、誰一人として近寄って来ない。
そーいえば、他の冒険者のメンツも『嘘つき法術師』とか揶揄っては来ないなぁ。ちょっと覚悟してたんだけどなぁ。まぁそこまで他人に構ってる暇無いか。
「うー、姉ーさん兄君が怖いよぉ~。」
「キュアン君、あんまりうちの子達を苛めないであげて。」
「このアホシャルが現状を理解したらそうする。」
「・・・はぁ。」
カチュアさんが盛大に溜息を付き、ダリアさんは口数が少ない。
なんだか居た堪れない。なんかスミマセン。よく分からないんですけど。
そんな事を口にしたらまたキュアンにグリグリされそうだったので黙っておく事にした次第である。
もしょもしょと焼き立ての何かの肉を食べるけど、あんまし美味しくない。
昨日はあんなに美味しかったのになぁ。タル鳥の香草焼きまた食べたいなぁ。
***
食事を終えた魔族討伐冒険者一向は、その後も更に北へと行程を進めた。
キュアンと一緒にカチュアさんの地竜に関するお伽噺を聞いたり、ダリアさんのよく分からない武勇伝を聞いたりしながら食事の時と違って結構楽しく進む事ができた。
彼女達にはホント感謝感激雨あられってヤツですな。
・・・願わくば多くの美形(♂)に囲まれていたかったなー・・・とか思う私は本当に駄目な奴です。ハイ。
そうして暫く道なりに進んでいくにつれ、辺りを徐々に夕闇が包んでいった。
さっきまで草木が織り成す大自然にうっすらと残る道なき道を歩いてきてたけど、皆が足を止めたのは地面に石を埋め込んだ造りの簡素に舗装された道がある場所だった。
キュアンによると、私達が今いる国であるムーア国の王都『ブームラン』と、少し前までいた『クロロフィルン』の町とを結ぶ道なんだって。今まで通って来たのは近道らしく、グールはここを通るんだとか。
辺り一面草原で見晴がいい。
成程ー、ここがグールを迎え撃つ場所なんだね。
「ココが戦闘予定地だっ!防護柵と簡易テントを準備し終えたら、夜まで交代で休憩を取るぞっ!」
カルアのオッサンの大声が辺りにこだました。
と、それに呼応して雄叫びが上がる。
「おおおぉぉーっっ!!」
これから始めるであろう戦いに緊張感が一気に高まったのか、皆さんめっさ気合が入っていらっしゃるお返事でした。それに触発されたのか、一回緊張が解れた筈のダリアさんがまたまたおかしくなり始めた。
日が暮れ、辺り一面が夕闇に染まった頃の事だ。
休憩の順番が回ってきたというのに私とキュアンが休んでいるテントまでやって来ては、また自分のテントに戻ったりとウロウロしまくっている。
「わぁ~、弟君弟君、どーしよ~。遂にグールが来ちゃうよぉ。」
とか言いながら私の頭をグリグリ撫で回すのは止めて欲しい。
「ダリアおねいさん、寝ないの?」
「弟君~、一緒に寝ていい?」
「・・・何でそうなるの。」
私自身そんな気は無いが、十五歳といえばお年頃だ。
しかも隣にもっとお年頃なキュアンがいるんですが。マジ止めてくれ。
キュアンに直ぐ戻るからと言い残して、ダリアさんをカチュアさんのいるテントまで送ろうとしたが、キュアンも付いてきてくれるとの事。まったく過保護なお兄ちゃんです。まぁそりゃ、・・・かなり嬉しくはあるけどねっ!
彼女達のテント近くに着いたら、キュアンは近くの木に寄り掛かって待ってると。女性のテントだから、とか言ってた。
キュアン様って硬派なんですな。いやはや相変わらず美味しい要素が多い美形です。
「あら、ダリア。居ないと思ったらやっぱりシャルくんのトコに行ってたのね。」
・・・すでにダリアさんが私のトコに来るのが、定例化認定されているようだ。
「僕もそろそろ休みたいから、ダリアさん頼める?」
「あらら、ごめんなさいね。ダリアもシャルくんを見習いなさい。貴方よりも年下で初参加なのに、落ち着いてるわよ?」
「う~、弟君はグールの事ちゃんと知らないからだよぉ。一回戦ってみたら、次はこうはかないってばぁ。」
これじゃあ埒が明かない。キュアン待たせてるしちょっと法術解禁するか。
「ダリアおねいさん、ちょっと横になってご覧よ。眠るまで付き添ってあげるから。」
「ホントっ!?うっし、そこまでしてくれるんなら、ダリアおねいさんもやぶさかではないよっ!膝枕して!」
「だから何でそう・・・はぁ、分かったよ。」
「わーい!」
ウキウキと私の膝枕で横になるダリアさん。
そんな彼女に私は『睡魔』の術を展開した。程なくして眠りに落ちる。
「・・・えっ?こんなにあっさり眠っちゃうなんて、シャルくんの膝枕って余程寝心地いいのねぇ。」
「さぁ、どーだろ。じゃあ、僕は戻るからダリアさんよろしくね。」
「ええ、ありがとうね。」
「うん。」
どうやら法術師でないカチュアさんには、私が詠唱の無い法術を使った事は分からなかったみたいだ。これで彼女も私を法術師として見てくれるかな、とか思ったんだけど。まぁいずれ分かる事だし先延ばしでもいいか。
因みにどうやら状態異常系法術は自分には使用不可みたいだ。眠剤みたいに『睡魔』を自己行使できないとは、ケチくさいねー。
テントを出てキュアンを待たせている場所まで戻る途中の事だ。
「おい、『嘘つき法術師』。」
・・・今更な展開がやってきたようだ。