表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

淫魔2

 家に帰って、僕はお姉ちゃんに相談をした。

「淫魔かぁ。厄介な相手だね」

「うん……」

 保健室で会った女の子の名前は江島留美えじま るみ。一年C組の生徒だった。あれから直ぐ家に帰ってしまったみたいで、会えなくて。でも、彼女をこのまま放っておいたら、絶対に魔族堕ちしてしまう。

「まー、対処法はないこともないけど」

「え? あるの?!」

 僕は顔をぱーっと明るくさせる。

「要は、たまってるのを解消すりゃーいいんだよ。リアルで彼氏作ってやればOK。もしくはセフレを作るとか」

「そっ、そんな非道徳的なこと薦められないよ!!」

「だって、その子はたまたま保健室で寝てたから発見できたけど、このまま学校こなきゃ会わないんだし、また保健室で寝るとも限らないしさ」

「そうなんだけど……」

「そんなに、その留美って子が気になるの?!」

 あれ? お姉ちゃん、なんか怒ってる?!

「だ……だって、もしも魔族堕ちしたら……」

 ふーっと深い溜息を吐かれる。

「そりゃー、そうだけど。淫魔の魔族堕ちなんて実際はそんなに件数ないんだよ。早々簡単に淫魔にはならないさ」



 僕は自分の部屋に戻った。

 カバンを開くと、広樹に無理やり持たされたエロ本が出てくる。

「あ……しまった。忘れてた」

 ぺらっとめくると女の子の水着姿が……。

「うっ……」

 思いっきり反応を示したので、ベッドに転がる。

「ふぅ……」

 超久しぶりにすっきり。でも、女の子もたまる……のか。なんて、昼間の留美の声を思い出して、もう一回おっきくなる。

「ちょ……僕、よっぽど……」

 すっきりして、部屋を出ると、隣のお姉ちゃんの部屋に『立入厳禁』の札が下がっており、嫌な予感がする。

「お姉ちゃん?!」

「ん? なぁに? もうちょっと待って……」

 ぞくぞくっと悪寒がした。まさか。まさかとは思うが……。

 バン! と勢いよく扉が開く。

「はーっ。すっきりした!」

「ぎゃー! もしかして、お姉ちゃん、また盗聴した?!」

「失礼だな。盗聴なんて生ぬるいことしないよ。3つのカメラで生中継だっ」

 ……。

「酷い! 酷いよお姉ちゃん!! 弟の部屋を盗撮するなんてあんまりだ!」

「手助けが欲しかったら言ってくれればいいのに」

「ちょ、人の話聞いてよ!」

「お姉ちゃん、上手いのヨー」

 だめだ。もう僕の手には負えません。



「広樹、これどうも」

 次の日、学校で広樹にエロ本を返した。

「おー、すっきりした顔してんじゃん」

「おかげさまで……」

 広樹の制服ブレザーのポケットから、ピンク色の封筒が顔を出している。

「またラブレターもらったの?」

「あー、なんか昨日の子から貰った」

「昨日の子って江島留美さん?!」

「そうそう。そんな名前の子」

 広樹と付き合えば、淫魔は離れていくけど……。

「それ、返事どうする気?」

「どーするも何も、俺、もう雪花さん一筋にするって決めたし」

「ちょ、待って! お姉ちゃんはダメ! あんな大人と関わっちゃダメ!!」

 必死に止めると、広樹がにこっと面々の笑みを浮かべた。

「裟霧はおこちゃまだから、あの人の良さが分からないんだよ」

 いや、わかってないのは広樹だ。あの人の変態は筋金入りだ。まだ恐ろしさが分かってないんだ……。

 広樹がガサゴソとラブレターを広げて読む。

「んー、放課後、校舎の裏で待ってるって書いてあるから、ちゃんと断ってくるわ」

「う、うん……」

 そりゃー、留美に彼氏ができたら安心だけど、無理に広樹とくっつくのも危険だ。

 遊んでポイってやりかねない。

 つか、どうして僕の周りはこうなんだろ……。


 放課後、気になった僕は広樹のあとをつけた。校舎の裏に行くと、もう留美が待っている。

「広樹先輩……」

「どうも。んで、てっとり早く言っちゃうと返事はノーだから」

 ひ、広樹……いくらなんでも、それ可哀相だろってくらい、ドライな断り方だ。

「そうですか……」

 留美が泣いている。でも、こればっかりは僕はどうすることもできないし……。

「ほらね、言ったでしょ」

 げっ。あれは!!

 広樹と瓜二つの姿。間違いない、昨日の淫魔が現れた。

「こういうリア充って、ほんとムカつくよねぇ、留美ちゃん」

 留美の背中にピタっと張り付く。

「江島さん、ダメだ! そいつの声を聞くな!」

 僕は慌てて飛び出した。

「うわ。昨日の子供か。めんどいなー。こいつの体に取り憑いちゃお」

「え?」

 広樹の体に淫魔が重なる。

「こら! 僕の友達になんてことすんだ!! つか、お前、雄だろ?! 男にも憑依できるの?!」

「んー、長時間は無理だけど、たまに男の体に入ってリアルの女の子を食い散らかしてるよ」

「なんて淫魔だ! やっぱり成敗する!!」

 ヴァジェラを召還すると、広樹の中に入った淫魔が、ニヤリと不適な笑みを浮かべた。

「俺を倒したら、君の親友も死んじゃうけどね」

「くっ……」

 淫魔が留美の肩を抱く。

「さあ、留美ちゃん。人気ひとけのないトコ行こうか。それとも、ギャラリーがいた方がいい?」

「ちょ! 止めろ! その体は広樹のもんだ!」

「この体イイよね。これなら、いつもよりも楽しめそう」

「邪悪に笑うなー! シャレんなんないから!」

 


「なら、私と一発やるかい?」

 んげっ、その声は!

 あえて聞かなくても分かる、お姉ちゃんだ。

「おー、イイ女ジャン。俺、こっちの方がいいや」

 ぽいっと淫魔が留美を突き飛ばした。

「えーっ、広樹先輩! ヤダ! 行かないでー!」

 僕は留美ちゃんの体を引き止める。

「ダメだ! あいつは、今、淫魔に取り憑かれてる」

「うっせぇタコ! 手ぇ離せ! あたしは淫魔でもなんでもいいんだよ!! 邪魔すんな!!」

「……」

 この子、可愛いのに……。


「んじゃ、淫魔は私が引き受けるから」

「う、うん……って、アレ?」

 広樹の体が、ブレている。

「ちょっと、出てって。雪花さんは、あんたの力なんて借りなくても俺落とすから」

「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーっ」

 奇声を上げて、広樹が分裂する。もちろん、もう一体は淫魔だ。

「こっ、こいつ、俺を追い出しやがった」

「ふふん。リア充は強しだね。でも、これでお前、遠慮なく始末させてもらうわ」

「うぎゃーーーーーーーーーーーーーーーっ」

 お姉ちゃんが阿修羅で一刀両断する。

「すごい、一撃ですかっ」

 広樹が、ぽーっと頬を赤く染めた。


 

 またしても、僕の出番なし。



「いいかい、お嬢ちゃん。夢の中に逃げてちゃダメだ。男はリアルでちゃんと捕まえな」

「は……はい」

 留美も大人しく頭を下げる。

「広樹先輩まで危ない目に合わせてしまって、ごめんなさい」

「まー、俺はあんなのに体を支配なんてされないケドね。まあ、君もこれに懲りて、もっと堅実な男つくんなよ」

「……僕達、まだ高校生なのに」

 ボソッと呟くと、広樹とお姉ちゃんが同時に僕の顔を見る。

「やば。今、私、ちょっときた」

「雪花さん、俺もきました」

「な……何が?」



「裟霧、お姉ちゃんと一緒に禁断の扉開けちゃおうよ」

「ぜひ俺も混ぜてください! 三人でOKです!」



「死んでも断る!!!!!」



 僕の周りは変わった人が多い。

 でも、僕は負けない。

 絶対に毒されないからね――――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ