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坂の上の雲

作者: 志 隆

 俺は坂を登っていた。

 登り続けていた。

 雨の日も風の日も、登ることをやめなかった。

 俺はそれで、そういった日には登らない者を何人も追い抜いた。

 いつも登っているけれど、歩みの遅いような者もまた同様に追い越した。

 ある時、今まで登ってきた道を熱心に見返している男を見た。

 時々、自分よりも下にいる連中を励ましたりなんかしている。

 そのくせ、いざ前を向くと驚くべき早さで進む。俺が地道に登って稼がなきゃいけないものを、男は軽々と積み上げる。

 そして、いくらか行くと、また立ち止まる。俺たちを振り返って、頷いたり、笑いかけたりする。

 段々、坂の高い場所へ近づくにつれ、男がそうした行動を挟むのが頻繁になってきた。俺の後ろの方で、その男に対して何かしら返事をする者も現れ始めた。

 なんとなく苛々する。

 俺が登り続けると、案の定、よく止まるようになった男との距離は縮まってきた。

 ついに、手が届きそうなくらいまで近づいたとき、男は笑って手を差し出してきた。

 天才様が凡人の俺を慰めてくれるのかい。ありがたくて涙が出るぜ。けどよ、振り返って、下の者たちに自分を誇示するような奴とは組まねえ主義なんだ。

 俺はそう言って、男の横を通り過ぎようとした。

 視界の隅に、悲しげな目をする男の顔が映った。首を振っている。口をぱくぱくと開閉している。

 俺は気にも留めず、先を急いだ。あんな野郎の言うことなんざ知らねえよと切り捨てて。

 その後も俺は登り続け、やがて傾斜が緩やかになってきた。坂の終わりが近づいている。

 それでも進むと、そのうち俺の上半身は地面とほぼ垂直になり、そして完全に傾斜がなくなった。

 頂上に着いたのだ。まだ誰もいない。俺が一番だ、という思いが体中を駆け巡り、一人ではしゃいだ。

 はしゃぎ疲れて横になると、青空に浮かぶ大きな雲が見えた。しばらく眺めていると、また誇らしい気持ちが湧き起こってきた。

 最初に到着した俺を誰かに見せ付けてやりたい。

 そうして坂を少し戻ると、あの男の励ましを嬉々として受け取っていた連中がいた。

 男はどこへ行ってしまったのだろう、とは思わなかった。自分を誇示して、周りからの羨望の眼差しを集めることの方が断然大切なのだから。

 しかし、期待したものは何一つ手に入らなかった。

 賞賛、嫉妬、憧憬、驚嘆。どれもない。

 不思議に思っているうち、何人かが自分の横を通り過ぎた。

 いけない。自分が最初に着いたのに、その事実が埋もれてしまう。そう思って、男は急いで坂の頂まで戻った。

 しかし、先程、ここを目指して俺を追い抜いたはずの幾人かは、そこにはいなかった。

 さらなる疑念に俺が戸惑っていると、後から続々と頂上に到達するものが現れた。

 よかった。俺が急いで戻る間、知らず知らずに追い越していたようだ。

 安堵したのも束の間、その連中は俺の横を通り過ぎようとした。

 ちょうど通り過ぎると同時に、一人が俺に声をかけてきた。

「君は雲を目指さないの?」

 俺が目を丸くして振り返ると、既に連中の姿はなかった。

 まさかと思って視線を上へとずらすと、一番最初に俺の横を通り過ぎた何人かも、そしてさっき俺を追い越した連中も、空へと続く坂を上っていた。

 さらに見上げると、あの男がいた。

 もうすぐ雲へと到達しそうな位置で、連中に向けて手を振っている。

 唇をかみ締め、拳を硬く握り締めて、ならばもう一度追い越してやるまでと意気込んだ直後、俺はその坂の始まりがどこなのかわからないということに気がついた。

ちなみに作者は司馬遼太郎による「坂の上の雲」を読んだことがございません。

タイトル、というより、「坂の上の雲」というひとつの単語から勝手に想像したストーリーを短編に書き起こしてみました。

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― 新着の感想 ―
[一言] すまぬが、全く違うと思うでござる。拙者も本人格殿も、「坂の上の雲」を読んだ事はござらぬが、それでも違うと思うでござる。 まず、その紛らわしき題名を改めてほしいでござる。
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