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あるハンターギルド長の楽しみ

掲載日:2026/08/28

本編「疎まれ少女が幸運をつかまえて成り上がる 」の番外編の短編です。

本編第70話で出てくる、あるハンターギルド長の過去から現在に至る回想話しです。一応話し相手は、従妹のローザンヌが想定されています。話の後半では、本編の主人公の少女ユリアに絡んだお話となります。

 わたくしはスサーナ・フランソワール。そうよ、現皇帝の長女の立場を捨ててハンターの世界に飛び込んだ、じゃじゃ馬皇女と呼ばれたその人よ。


 もっとも、その二つ名も帝都レパルナスでさえ知る人ぞ知ると言う程度で、あんまり有名じゃなかったわね。だってハンターギルド会員登録名はグレースだから本名の欠片(かけら)もないのよ。例え本名で登録したとしても、顔を知らなければあの二つ名の皇女だと特定されることもないわ。


 わたくしが皇女の座を降りたいと考えるきっかけを作ったのは、ローザンヌ、貴女よ。9歳から始まった淑女教育を貴女と一緒に受け始めて2年ほど経ったとき、わたくしは自分の出来の悪さに気付いて愕然(がくぜん)としたの。


 それからしばらくして、わたくしは、こっそりと帝都のハンターギルドに会員登録してハンター資格5級に合格したの。でも、獣の狩りの経験が必要な4級に上がるのは淑女教育が終わるまでお預けになったわ。


 だって、皇帝家の系譜からの抹消(まっしょう)を、教育係の侍女の頭越しに直接お父様に願い出たとき、そう約束させられてしまったの。


 お父様は、わたくしが小さい頃から兄達に混じって棒切れを振り回して遊んでいるのを見ていたのね。それに、教育係の侍女から、ローザンヌに較べて出来が悪くて進度も遅いと報告を受けていたらしいの。それでわたくしを政略結婚の持ち駒とするのは、半ばあきらめていらしたわ。そして、わたくしの願いを聞く代わりに淑女教育に合格するように約束させられたの。


 それからは、わたくしも淑女教育に身を入れて取り組んだのよ、自分でも驚く程真剣にね。4年後には、座学でも礼儀作法でもダンスでもローザンヌに負けないくらいには伸びたと思うわ。そしてわたくしはローザンヌと一緒に淑女教育を合格したの。


 お父様は、わたくしの淑女教育での伸びを知ってか少し惜しそうな顔をしたけど、わたくしを皇帝家の系譜のままで野(や)に放ってくださったのよ。だから、今でもフランソワールの家名を名乗れるの。


 それから数年後には、わたくしはハンター資格1級に駆け上がったわ。国内各地のダンジョンはもちろん、世界各国のダンジョンや魔物の森で魔物討伐をして廻ったのよ。一番の大物はアースドラゴンだったわね。


 そうこうする内に、ハンターギルドからギルド長への就任を打診されるようになったわ。何回か断ったけど結局推薦を受ける事にしたの。最初の街は隣国シングラーツ王国ヴィルダー辺境伯領の街エルブライドだった。少し小さい街だったけど結構賑わっていたわ。


 何回目かの任地に帝都レパルナスを打診されたけど、わがままを言ってこの街アルーゾンにして貰った(もらった)の。だってこの街にはローザンヌ、貴女がいるわ。


 ローザンヌ、貴女も数奇といえばそうかもしれないけど、自分のわがままを通してアリースソン伯爵との恋を成就させたのよね。当時、大公令嬢と一介の伯爵との婚姻は不釣り合いだとかなり反対されたでしょう。


 それから、ソルフィーナが生まれたのよね。小さい頃のソルフィーナは天使のように可愛いと風の噂(うわさ)に聞いていたわ。その頃は貴女も幸せいっぱいだったでしょう。わたくしも会いたかったけど外国にいて無理だったの。


 わたくしが初めてソルフィーナに会ったときには、もう進行毒を盛られてやせ細った姿だったわ。貴女の沈んだ顔を見ると、わたくしも何とかしてあげたくて、世界中のハンターギルドに高額報酬で伝説のエリクサーか超特級ポーションの取得依頼を出したのよ。貴女は知らないでしょうけどね。


 結局、受諾ハンターは一人も現れなかったわ。世界でただ一人超特級ポーションを調合できるという皇帝専属薬師のメリデリンにも打診したのよ。だけど原料調達不能を理由ににべもなく断られたわ。このころはわたくしも万策尽きて落ち込んでいたのよ。


 そんな頃だったか、エルブライド街の旧知のギルド長から、ヴィルダー辺境伯の末弟デイビードがハンター資格2級に合格したと連絡が入ったの。なんでも弓矢の一発必中かつ百発百中の凄腕を引っさげての合格らしいわ。そのギルド長が、わたくしも弓矢の凄腕だから知りたいだろうと気を利かせて元気づけてくれたのよ。


 その1年後くらいに、珍しく甥のアルチュール・ドゥ・ガスゴーシュから手紙が来たのよ。所用でシングラーツ王国ヴィルダー辺境伯を訪ねる途中で狼の群れに襲われて危ないところを、そのデイビード2級ハンターに助けられたとね。


 デイビードは、傍目(はため)には無謀な行動に見えるけど、幼児ともいえる6歳の少女を伴って狼の群れに飛び込んだのだって。二人は互いに背中を預けて前側にいる狼をバッタバッタと倒していったそうよ。その少女は戦い終わって、重傷を負った護衛騎士に駆け寄って聞いたそうなの。


 少女は、回復ポーションをたまたま持っていて、治癒が必要と言われれば使うから、早く決めてほしいという。護衛騎士は高価そうなものに躊躇していたのでアルチュールが使ってほしいと回答したらしいの。


 少女は、それを聞いていくつかパックリ大きく開いた傷口にポーションを少しずつ滴下していったのね。すると、白く小さな泡つぶが多数盛り上がるように傷口を覆い、しばらくして泡つぶが消えた後には傷口も消えて完治していたらしいの。


 アルチュールはその様子を目の当たりにして、まさに伝説のエリクサー並みの治癒力に驚愕したそうよ。それに比例して高額のポーション代金の予想に慄いた(おののいた)けど、少女が代金は不要だというのを聞いて内心ほっとしたようね。


 それと同時に、アルチュールは、このポーションがソルフィーナの治癒にも使えると確信したのね。そこで、デイビードの素性を確認した上でソルフィーナの婚約者としてアリースソン伯爵に紹介したのよ。そうすれば、あの少女がもれなく付いてきてポーションもただで手に入るという筋書きね。


 まったく、彼奴(あやつ)の根性は見上げたものだわ。こっちは全財産を投げ出す覚悟でエリクサーか超特級ポーションの取得依頼を出したのよ。それなのに彼奴ときたら、ソルフィーナの全快も、お婿さんも、ポーション付きお子ちゃまも、全部ただで手に入れようとするなんて腹黒さの極みだわ。もっとも、全部を手に入れるのは貴女方だけどね。


 それでも、お子ちゃまだけは手に入らなかったわね。思ったよりもスケールが大きくて流石の彼奴も囲いきれないのよ。


 アルチュールがデイビードと少女を使って画策した筋書きの結果は、本人さえ驚くほどの好結果と波及効果であったようね。二人は、本来目的のソルフィーナの全快を実現し、悪徳の前筆頭執事の毒物投与と石化の呪いを暴き、彼を買収して操っていた縁戚の子爵のお家乗っ取り策謀を暴いたのよね。


 ある日、そのお子ちゃま、ハンターギルド会員登録名クロエことユリアがハンター資格3級の受験希望を出してきたのよ。副ギルド長シルツビーによって即日受理されて、その3日後には3級受験資格の討伐経験数5回を達成したの。即日で能力確認試験を受けて、筆記試験満点、実技試験1級レベル判定で合計しちゃったわ。


 それから数日後、クロエ3級ハンターが今度は、1級を飛び級受験させてほしいとわたくしの部屋に申し込んできたの。1級受験に必要な討伐経験数は、ワイバーン5体で達成したからというのよ。いくらなんでも早すぎると思わない?普通の3級ハンターじゃ一人でワイバーン1体を倒すなんて無謀すぎるもの。


 しょうがないから、副ギルド長が揃えた受験書類を確認したのよ。すると、能力確認の筆記試験は3級受験時に満点でクリア済み、同じく実技試験も1級判定でクリア済み、残る対魔物接近戦を模擬した対人接近戦は、対応可能な命知らずの試験官が皆無で無試験合格。なんてことよ、前代未聞だわ。


 このままで合格させると、うちのハンターギルドの沽券(こけん)に関わるから、わたくしの得意な弓矢で打ち負かして増長を抑え込むことにしたの。条件は100mブース2つをラウンドごとに交互で使い、1ラウンド10射を10ラウンド、合計100射の勝負よ。


 さすがに、100mブースは、6歳の子供には長すぎてかわいそうかなと思ったわ。だけどクロエ受験生は平然として弓もラウンドごとに交互に交換するのかと聞いてきたのよ。大人用の弓では100mも飛ばせないかもというのよ。


 見てみると、クロエ受験生の弓は小さいけど最強クラスの強弓じゃないの。クロエ受験生が引けるストロークでは、この小ささでもまだ最適ではないけど、大人用では緩すぎだわね。しょうがないから弓は個人専用としたわ。


 さて、合計100射300点満点の実射結果はどうなったと思う?わたくしの点数が自己最高の284点、クロエ受験生の点数が300点。どういうことなのよこれ、理解不能だわ。ま、とにかく、文句なしのハンター資格1級に見事合格です。さすが、元祖一発必中かつ百発百中の凄腕デイビードの一番弟子でした。


 わたくしも、このままやられっぱなしでは、いられませんわ。


 クロエことユリアは、ハンター資格1級のギルド会員証保有者として、貴族対応の礼儀作法の講習受講が必須ですの。その講習形態を、ローザンヌ。貴女とのお茶会での作法とすることにしたの。ユリアはまだ子供だから、わたくしとローザンヌとソルフィーナが同席するお茶会では、自発的な発言が認められないでしょう。そこがユリアを困らせる狙い目なのよ。

 

 一応、役どころとして、わたくしは貴女と久しぶりに会う古い友人で、ユリアは貴女の末娘でソルフィーナの妹という設定よ。この設定の下で、ユリアはお茶会での話題を主導してわたくしを飽きさせないようにすることが課題ですの。要は、お茶会で、自主発言権を認められない中で、どのように話題を自分に振ってもらうかという難問よ。


 ところが、難問のつもりだったのに、ユリアにあっさりと返り討ちにされてしまいましたわ。ユリアは事前に、貴方たちに、初対面のわたくしに対する自己紹介の機会を振ってもらうように頼んでおいたのね。しかも、そこで自分が数年前に攫われ(さらわれ)て最近生還したばかりだというショッキングな経歴の持ち主であると宣言するなんて、わたくし考えもしなかったわ。そんな面白そうな?お話、聞かざるを得ないでしょう。お茶会が始まる前にわたくしの目論見(もくろみ)は崩れ去ってしまいましたのね。


 わたくしは、後で、ユリアに聞きましたの。お茶会が始まる前に話題が自分に向くような仕掛けをどうやって思いついたのかとね。そしたら、何と答えたと思う?騎士団のお友達に教えてもらったと言ったのよ。わたくし、びっくりして、ユリアを上回るような機転の利く優秀な騎士がいるなんて信じられないとユリアを問いただしたの。


 そしたら、ユリアったら、騎士団だけじゃない、メイドさんたちもみんな優秀で、面白いことがないかと常に気を張っているようだと言うのよ。特に、ある騎士さんが特定のメイドさんと親しくなると、そのメイドさんの名前を冠した作用効果が表れるそうよ。たとえば、お茶会の前の仕掛けを教えてくれたお友達だという騎士にはメラニー効果が表れているとね。何だか訳が分からない作用効果のようで、わたくしはもうお手上げでしたわ。


皇族にもいろんな人がいるようですね。この物語世界では貴族令嬢は政略結婚の駒とされがちですが物分かりの良い親も少しはいてもいいでしょう。

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