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金色ほうき星と紅き月

作者: Azuk

東方紅魔郷ノーマルノーコンティニュークリア記念作品。眠らせるのが忍びなかったので投稿してみます。

捏造っぽいもの多し。微かにレイマリの臭いがするかもしれません。それから、魔理沙は強くてかっこいい女だよ、という方には非推奨かと思います。

レッドマジックマジこわいという方は共感していただけるかも。ハードシューターやルナシューターの方は鼻で笑ってください。

粗いところがあると思いますが、どうぞお願いします。

霧雨魔理沙は己の肌が粟立つのを感じた。

「永遠に紅い幼き月」が、最後の一枚を取り出した瞬間のことである。

何の変哲もない、ただの契約書である筈のものが死の具現と見えたのは、弾幕決闘の専門家たる魔理沙をして初めてだった。

恐るべき魔技。

古今そう呼ばれたものの中でもこれは最悪の部類であろうと、魔理沙は理由もなく確信した。

決斗を始めてから此方、ずっと己が脳内で鳴り続けている警鐘はとうとう頭痛の域に達し、思考を白く染め上げる。

脈拍の上がり続ける心の臓は既に破裂しそうな勢いで脈動していた。

逃げろ逃げろと本能が泣き叫び、肺腑が怯えて酸素の補給を放棄する。

本来はそれらを落ち着かせるための理性すらも恐慌状態に陥り、最早泣いて喚いて命乞いをするべきだと体中が総動員している始末だった。

だがそれらをねじ伏せ、敗北寸前の身体に眼光のみを炯々と輝かせて魔理沙は空を飛ぶ。

ひとつだけ、たった一つだけの賛成を条件に、魔理沙は未だ彼の悪魔の前に立つ。

己の意志だけを芯に据えて、魔理沙は未だ闘争の場に身を置いている。

魔理沙はその不退転の意を示すかのように高く飛び、戦場を見下ろす。

くっ、と笑みの形に――というには随分と不恰好に――口端を歪め、口を開く。


「……冗談じゃない、私はまだ死にたくないぜ」


吐き出したのは正真正銘、心の底から出てきた台詞。

しかし、故にこそ魔理沙はささやかな胸を張り、それがただの軽口であるかのように振舞おうとしていた。

それは恐れに呑まれまいとする魔理沙の矜持の為させた行為。

もっとも、その試みの成否はといえば、恐らくは今生でもっとも情けない声だったと魔理沙自身が自覚できてしまっているほどに救いようのない有様だったが。

脳は未だ真っ白に染まったまま。背筋に悪寒が走り、全身が震えているのが自覚されている。

ややあって、眩む視界の向こう、魔理沙の様子を面白げに眺めながら、目の前の悪魔が――レミリア・スカーレットが言葉を返すのが見えた。

その言葉すら、今の魔理沙には遠く、ぼんやりと聞こえるが。


「死にたくないなんて言う割に、そんな顔をするのね」


ただ辛うじて聞き取れた単語を口の中で反芻する。

「そんな顔」。

その言葉だけがやけにはっきりと知覚できた。

果たして自分はどんな顔をしているというのだろうか。


「笑ってるわよ、あなた」

「――笑ってる?」

「ええ。まるで吸血鬼みたいに素敵な笑みだわ」




――ワラッテル。わらってる。笑ってる。


――……ああ。


――笑っているのか、私は。




何度も脳内で繰り返し、噛み砕き、ようやく理解したその言葉は、魔理沙自身をして理解し難いものだった。

水面に落とされた異物のようなその言葉は、魔理沙の思考をひどく乱す。

その一方でその言葉にひどく納得している自分が居て、そのこともまた魔理沙を狼狽させた。

「笑っている」とはどういうことなのか。

その問いで頭の中が埋め尽くされ、その片隅で「ああ、やっぱり」と肯く誰かがいる。

訳が、分からない。


眼前の悪魔/少女は、私が笑っているという。

冗談ではない。こんなにも私は震えて/震えているというのに。

どうしようもないほどに、救いようもないほどに恐怖して/歓喜しているというのに!

二つに割れた思考が、感情が魔理沙を蹂躙する。

怖れと悦び。

何故だ。なぜ、なぜ、なぜ、なぜ。

なぜ、わたしは。


「――ああ」


問いの果て、不意に魔理沙の脳内を過ぎったのは過去の光景。

それを基点に、白く焼き切れそうだった思考が透明化していくのを感じる。

それは霧雨魔理沙の「今」を形作る原初の記憶。

全ての始まりこそが、全ての理由。「なぜ」の答え。

何故、私の意志は私の撤退を許さないのか。

何故、私はこんなところにいるのか。

何故、私は戦うと決めたのか。

全部、思い出した。


「今度は悟りでも開いたような顔。百面相ね。何かあったのかしら?」

「ああ、いや。うん、……うん。そうだな。

 一言で言うなら。辿り着いたんだ」


はじまりは、ただの感情だった。

たった一人で空を飛び、並み居る妖怪たちを次々打ち落とす巫女服の少女を見た。

そのとき果たしてどんな気持ちだったか、魔理沙自身にすらもう思い出せない。

けれどあの子を追いかけたいと思ったのは本当で、それは今でも忘れられなくて。

ようやく辿り着いた、あの子の居た場所せんじょう。あの子の見た景色。

あの子の隣に立つ最低条件まで、霧雨魔理沙はやっと飛んで来られた。

歓喜に打ち震える。男言葉が剥がれる。

今の魔理沙は、あのとき弾幕色の空を見上げた少女だ。


「辿り着いた、ね。この私の下に――というわけではなさそうね。もっと遠くを見てる」

「うふふ。そうね、そう。そんなに分かりやすいかしら」

「ええ、とっても」


はじまりはただの感情だった。

しかして感情は積み重ねられ、やがて思いと願いになった。

思いは意思へと変わり、そして意志へと鍛作されて。

意志を鏃に、この身を箆に、願いを矢羽にして。

そうして霧雨魔理沙は一本の矢になって。

たった今、望んだ戦場に突き立った。

ああ、喜ぶ筈だ。

自分の駆けた道が、空が、間違いでなかったと証明されたのだから――!


「あら。いい顔になったわね、あなた。さっきまでとは大違い。

 人間はこれだから面白いわ。たった数分、数秒で別のモノになる」

「お褒めに与り光栄ですわ」

「他人行儀ね、つれないこと。あなたのお相手は決まっている、ってことかしら。

 でも、忘れないでねレディ?

 あなたの本命は別のひとかもしれないけど――今あなたと踊っているのはこのわたし。

 緋の悪魔の前で余所見なんて、いつまでもそんな無粋な真似をしていたら。


 ――すぐに死ぬことになるよ」


「それは失敬!」


ぞっとするような殺気と共に、レミリアが最後のスペルカードを高く掲げる。

先ほど姿を見せただけで魔理沙を恐慌に陥れた魔性は、けれど二度魔理沙を縛り付けることはなかった。


身体が動く。

ややぎこちないが、筋肉は己の意志の通りに収縮してくれる。

魔力がある。

十全、とは言えないものの、弾幕ごっこができる程度には残っている。

何より脳が働く。

魔理沙はいつ何時、如何なるときにも思考し続けることを己に課している。

それは妖怪と戦うための手段。

妖怪と人間とはそもそもの地力が違う。無闇にぶつかっても踏み潰されるだけだ。

勇気と無謀は違う。正々堂々と無策は違う。正面きって戦うためにすら、人間には思考が必要だ。

矮小な人間が妖怪と戦うには――弾幕ごっこという遊びに於いても――知恵が必要になる。

それを思い出す程度には、魔理沙の白く塗りつぶされた思考は恢復し始めていた。


宣言されたスペルカードは「レッドマジック」。

迫り来る壁のような弾幕を確認して、けれど魔理沙は敢えてその中に踏み込む。踏み出す。

真っ赤な弾幕に染まった空を、黄金色の少女が一直線に突き進んでいく。

それはまるで、夕焼けに光る流星のようだった。

スポーツに近い弾幕決闘といえど、生身の人間が6ボスに挑むというのは実際はこんな心境なんじゃないかなぁと思いながら書きました。

……巫女服の少女はいつでもどこでもどんなときでも泰然自若としてそうですが。

なお、最初の最初だけ表現が歴史小説風味なのは仕様です。


気に入っていただければ幸いです。感想・ご指摘等あればどうぞお願いします。

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