夏のお買い物3
お買い物♪お買い物♪
ちょっと長いです。
「それと、手ぬぐいなのですが、大きさは一つでしょうか?」
今度は少し離れて、絢音がお玉に問うた。
「いえ、大中小とございます」
「見せて頂けますか?」
お小夜が色々と持ってきたものを、反物と同じように広げて、手に取り、絢音はお玉と相談していた。
「この大きな手ぬぐいを合わせて、お風呂上りの簡易巻きを作りたいのですが」
絢音は剣と暮らす中で、剣がとても綺麗好きな事に気が付いた。
そして、良く湯あみをするので、暑くなるともっと多くなるのではないかと思った。
暑い時に湯あみは気分が良いのだが、その後、しっかり着物を着るのは少し辛いのではと危惧していた。
自分が居なかった時はもしかしたら何も着ていなかったのかもしれないが、今はそうはしないだろう、とも、思った。
それは、また一つ、剣に窮屈な思いをさせる事ではないかと心配していた。
なので、屋敷に居る時に色々思案していて、それを実践する布が欲しかったのである。
「ようございますね、心霊様は縫物がお得意でございますか?」
「いえ、それ程でもないのですが、母様とはよく一緒に繕い物をしておりました」
「良き母様でしたね」
「はい、優しい、綺麗な母様でした」
突然亡くなってしまった母を思い出して、少し俯きかけた絢音だった。
「そうでございましょう、心霊様もお綺麗ですから」
絢音の様子を気遣いお玉が声を掛ける。
「いえいえ、そんな・・・」
意外な言葉に驚き顔を上げた絢音であった。
また同時に、剣に褒められるのと違い、お玉に言われると少し面映ゆかった。
「こちらの大きな花模様でお作りなさいますか?」
お玉が手ぬぐいを一枚持ち、広げて見せてくれた。
「わぁ素敵なお花!」
華やかで大きな花が描かれていて、絢音は見たことも無い花に目が釘付けになった。
「芍薬でございます、お着物ですと心霊様にはまだ大人びておりますが、手ぬぐいの模様としては、よろしいのではないでしょうか」
「はい、剣様はお気に召して頂けるかしら」
お玉に“大人びて”と言われると少し気になる。
剣と居ると最近、怖い訳では無いのに心の音が気になる事が多いのだ。
「大丈夫でございますよ、こちらの手ぬぐいの生地は他と違いまして、水を吸い取りやすいので、ご用命によく合いますし、心霊様にもお似合いです」
「手触りが違いますよね、ぎゅっとしやすいです」
広げた手ぬぐいを持って、撫でたり握ったりしていた。
「中くらいの大きさですと、こちらになります、先程の芍薬はこちらで、これと合わせてお作りになれますでしょうか」
お玉が目の前で合わせて見せてくれた。
「わぁ、同じ模様ですね、これで前合わせができます、こっちの流水も綺麗!」
絢音も手ぬぐいを持ち組合せてみると立体的にイメージが出来た。
その陰から出て来た別な柄の手ぬぐいも目を引いた。
「そうでございますね、季節的にも、流水も合わせてお作りになれますし、無地のこちらの色合わせも楽しゅうございますね」
「藍も綺麗、桃色が可愛いですね」
布の風合いに合った染め具合で、しっくりとする色味だった。
「はい、染めの段階で分けておりますので、ぐるりと色合わせができます」
お玉が次から次へと広げて見せてくれる、まるで手ぬぐいが流れてくるかのようだ。
「面白そうですね、簡易巻きにも使えるかもしれない」
「そうでございますね、新しいお使い方で素晴らしいですね」
お玉は絢音の発想が斬新で面白いと思っていた。
「小さい方も普段使うので、少し買い足したいと思います」
絢音が忘れないうちにと、付け足した。
「あ、でしたら、季節ものと無地の物とこちらにご用意がございます」
「あ、金魚さんがたくさん、紫陽花もある」
「はい、少し多めにお持ちになった方がよろしいかと」
「そうですね、折角なので、頂きます」
だいぶ手元に購入するものが溜まってきた。
着物はあんなに遠慮していたのに、何故だろう。
「剣様、なんだか、たくさんになってしまいました・・・」
気が付いたら、心配になってきたので、思った事を口にしてみた。
少し離れたところで、呆れてこちらを見ている剣に向かって声をかけた。
「着物と違って、随分、たくさん欲しがったもんだな」
剣が目を眇めて、低い声と共に返事をした。
「申し訳ありません、やっぱり多いですよね、減らします」
絢音が赤くなって俯き、縮こまって、減らす物を選ぼうとした。
「好きなだけ買うてやるから、気にするな、着物は遠慮するのに、そっちは多くても平気なのがわかんねえと思っただけだ」
剣は口の端を上げ、悪い笑顔を絢音に向けた。
「剣様、ありがとうございます」
絢音は赤くなったまま、剣に微笑んだ。
あれやこれやと大きな風呂敷に入れてもらっている間に、隣のお銀の店に行く事にした。
「剣様、心霊様とご一緒でしたら、こちらの内通路をお使いください、外の通りに出ずにお銀姐さんのお店に向かえます」
お玉が店の奥に見えた暖簾を手で除けた。
「ああ、悪いな」
剣は出しかけていた大きな布をまた、懐に収めた。
「ささ、心霊様も、こちらへどうぞ」
お玉に勧められて絢音も暖簾を潜る、手はしっかり剣に握られていた。
暖簾の向こうにはお銀が待っていた。
お玉は先にお小夜に、お銀に剣が心霊様と来ている事を伝えさせたので、今か今かと待っていたのである。
「ようこそいらっしゃいませ、剣の旦那様、心霊様、お待ちしておりました」
満面の笑みでお銀が二人を迎えた。
「ああ、お銀、絢音だ」
剣が絢音の肩を抱えながら、お銀に引き合わす。
「お狐さん?」
絢音はまた違う妖を見て驚き剣の腰に縋った。
「絢音、お銀は5叉の狐だ、お玉より強いぞ」
絢音が怯えているのを知っていて、更に吹き込み、悪い笑顔を見せる剣だ。
「まぁまぁ、剣の旦那様、人聞きの悪い事を、ちょぉっとございますよ」
手を振りながら、妖艶な笑みを見せるお銀に、絢音の剣を握る手に力が入る。
「大丈夫だ、絢音に悪い事はない、お銀は宿屋と色々な物を扱っているから、暮らしに必要な物も言ってみれば揃えてくれるぞ」
剣は絢音の頭を撫でながら、頬を緩ませた。
「ほんとにですか?怖くないですか?」
絢音が不安そうに剣を見上げた。
「ああ、お銀は色々と物を知っているから、聞いてみたら良い、この前のむすびをくれたのもお銀だ」
剣は絢音の頭を撫で続けていた。
「わあ、お銀さん、美味しいお結びをありがとうございました」
絢音はお銀の方に向き直り、深々とお辞儀をした。
「いえいえ、造作も無い事でございます、お気が晴れてようございました」
今度は穏やかな笑みを向けた。
「絢音、桶がいるだろう?」
剣が思い出したように問いかける。
「はい、今あるのは私には少し重いので、小さいのがあるとうれしいです」
絢音も思いだしたようで、答える。
「はい、心霊様用のですか、ええと、あ、こちらの物くらいでしょうか?」
少し離れた所にあった、小さくて、軽い桶を絢音に差し出す。
「軽いです」
絢音が嬉しそうに声を上げる。
「そうか、ではそれを」
桶の棚に、笊やら籠なども並んでおり、絢音が繁々と見始めて、台所の道具など、お銀から説明を受けていた。
軽い桶に菜箸やら、小皿やら、匙やら、笊も大小重ねてあり、重くなっていた。
「あの、剣様、こちら・・・」
絢音がすごすごと剣の側に物を抱えて戻ってきた。
「お前、ほんとに強請るところが違うな」
剣は、小さい絢音にしては、結構な量を抱えて持って戻ってきたので、半ば呆れてため息をついた。
「買うてやるから気にするな」
剣は呆れながら言い放った。
「ありがとうございます」
物を使用人のお千代に渡し、満面の笑みで絢音は剣に礼を言った。
「後は菓子も選んだらどうだ」
ため息が混じりながらも、緩みっぱなしの剣は絢音に声をかける。
「え、でも、今日はたくさん買って頂いているので・・・」
言い終わらないうちに、剣を仰ぎ見て、後ろの言葉は飲み込んだ。
剣吞な空気が漂う。
眉間に少し皺が寄っている剣から漂ってきている。
「上生菓子を一つだけにしましょう」
そう言って、菓子の前に絢音は向かった。
空気が変わる。
菓子の横でお銀の肩が震えている。
「剣様、この綺麗な燕子花のものが食べたいです」
少し、高そうな上生菓子を選んだ。
絢音にとって、本当に美味しそうに見えたのだが、ここで、遠慮して安い物を選ぶとまた、剣の機嫌が傾く。
「ああ」
ひょいと菓子の置いてある棚を見て、値段で選んでいない事を確認すると、剣も機嫌よくなっていた。
お玉やお銀の店での買い物が済むと、全てをまとめた量を見て、
「結構な量だな」
剣が目を白黒させて呟いた。
「申し訳ありません」
それを見ると流石に絢音も強請り過ぎた気がした。
気まずそうに俯く。
「気にするな」
剣は内心、絢音が強請ってきたことが嬉しいので、満足していた。
剣が気にしていたのは持ち帰り方だけだった。
結局、荷物を背負い、片腕に絢音を抱えて、えっちらおっちらと山へ帰っていった。
屋敷に帰って、風呂敷を広げて、いそいそと浮かれている絢音を見るのは、この上なく楽しい剣であった。
如何でしたでしょうか?
二人で使う物には惜しみなく買えるようですね。
まだまだ”貧しい頃”が抜けない絢音です。
お気に召して頂ければ幸いです。
暫く続きますので、よろしければお付き合いください。
よろしくお願いします。
☆も良ければ・・・




