夏のお買い物2
お買い物♪お買い物♪
長くなりましたので2です。
街に着くと、絢音は暫く声を出さないように言われた。
大通りを剣が足早に歩いて行く。
目当てのお玉の店に着いた。
「いらっしゃいませ」
店の中に入れば使用人が挨拶をしてくる。
「まあまあ、剣の旦那様、ようこそいらっしゃいませ、もしやそちらの方が・・・」
奥から主のお玉が出てきて、剣に声をかける。
「絢音だ、今日は自分で選ばせたい」
剣が腕から降ろして布を取ってやる。
「絢音、この中では話しても大丈夫だ」
剣が絢音の肩を抱きながら、そっと耳打ちした。
「はい、ありがとうございます」
目を輝かせて絢音が応える。
「まあまあ、心霊様、ようこそいらっしゃいました、お玉と申します、これからどうぞ御贔屓によろしゅうお願い致します」
お玉が深々と頭を下げた。
「え?猫さん・・・」
剣以外の妖は見た事ないので、まず、猫がしゃべる事に驚いて、剣の腰に縋りついてしまった。
剣の様に耳と尾が残っている人ではなく、猫の部分が多めの人、に見えた。
「大丈夫だ、絢音、お玉は猫の妖で尾っぽが三つ又になっているだろう、強いぞ、この呉服屋の主だから、何でも聞くと良い、良い物を選んでくれる」
剣はなんだか嬉しそうにお玉を紹介してくれた。
「猫さん、お玉さん、お強いのですか?」
不安そうに剣に聞いてくる。
剣はそこではないのだが、と、眉尻が下がった。
「いや、絢音の好きな物を選ぶのを手伝ってもらえば良いのだ」
絢音の背をぽんぽんとそっと叩いて促す。
「心霊様、私、妖猫としては強いかもしれませんが、剣様の足元にも及びませんから、大丈夫でございます、本日はお身足をお運び頂きましてありがとうございます、ささ、こちらへお越しください」
満面の笑みで奥へと誘うお玉に、剣の方が強いと判ると安堵したのか絢音は付いて行ったが、3歩も進むと後ろを振り返り、剣が付いて来てくれているか確認する。
その姿に、締まりのない顔の剣が付いてくる。
店の使用人の目が見開かれて驚かれているのに剣は気が付かない。
「心霊様、これからでしたら夏物でございますよね」
お玉が優しい声で絢音に問い掛ける。
「はい、たくさんではないのですが・・・」
奥の上がり畳に座って話を始めたら、後ろから剣呑な空気が漂ってきた。
「あ、いえ、いくつか欲しいと思っていて、剣様に買って頂きたいのです」
絢音が空気を察して、言葉を付け足す。
当然の様に空気が変わった。
その事にお玉の肩は笑いを堪えるためか、震えていた。
「大丈夫でございます、きっと心霊様にお気に召して頂ける物をご用意いたします、少し、こちらでお待ちを」
お玉は堪えきれない笑いをかみ殺していた。
お玉がお小夜を伴って、店の更に奥に姿を消した。
「剣様、この前のお着物類はこちらで全て買われたものでございますか?」
お玉の居ない隙に、少し離れた所に座っていた、剣に小声で確認する。
「そうだ、何か気になる事があるのか?」
剣も何事かと、小声で答える。
「いえ、風呂敷の中に入っていた一緒にあった物が便利だったので、今日はそれも買って頂きたいと思ったので・・・」
「おお、そうか、そうか、まとめて買っておけ」
絢音から物が欲しいと言われて、気分が良くなった剣の頬は更に緩む。
奥からお玉とお小夜が戻ってきたが、小さいお小夜は姿が隠れるくらいの反物を持ってきた。
「心霊様にふさわしいお召し物を選んで頂きたいので、まず、普段着の綿のお着物から、薄萌葱地に甚三紅色の鳳仙花の花が描かれているこちら、空色地に移色の朝顔、呉須色地に向日葵色の向日葵模様、天色地に金魚の模様、半幅は岩群青に蓮の花、真朱色に桔梗の花、お出かけ着には、こちらの麻絹の月白地に青や瑠璃紺、壁瑠璃の流水、花色に赤い金魚の絵柄の一重帯、花萌葱地の花織に柚葉色に白い蓮の花が描かれた一重帯、こちらを候補とさせて頂きましたが如何でございましょう?」
お玉達が持ってきた反物を、次から次へと流して広げていく。
幾重にも広がる反物は、見る者の目を奪い、色取り取りで、華やかだ。
「綺麗です、こんな色もあるのですね」
絢音は反物を手に取り、見比べながら、見た事もない様な色や、模様に心が躍った。
「鳳仙花や金魚も可愛い、朝顔も綺麗、向日葵の大きいお花も鮮やかで、萌葱色もたくさんあって、綺麗、こちらの流水は見ているだけで涼しそう」
絢音が手に取り喜んでいた。
暫くすると、絢音は眉間に皺を寄せ始めた。
「どうした、絢音、具合が悪いのか?」
絢音の変化に目ざとく気づいた剣が声を掛ける。
「いえ、何だか、どれも素敵で選べない気がしてきました」
絢音の言葉にお玉も剣も意外過ぎて、思考が止まった。
「いや、ならば全部買っても良いんだぞ、そんな難しそうな顔をするな、何事かと思うだろう」
剣はそう言うと、絢音を膝に抱えて、眉間の皺を指の腹で撫でて、のばしてやった。
「いえ、剣様はきっとそうおっしゃると思ったのですが、体は一つですから、気に入った物を着られる分だけ買って頂きたいのです、折角買って頂いても着られないのでは着物がかわいそうです」
「・・・まあ、そうとうも、言うか・・・」
剣は絢音の頭を撫でながら、着られない程持っている輩もたくさんいるだろうに、と思ったが、優しい絢音に『かわいそう』と言われると強く返せなかった。
「では、心霊様、こうしては如何でしょうか?より、“幼く見える模様”からお買い上げ頂くという事で、他のお着物はお年を重ねられた時に、お買い上げ頂いて、お召になっては如何でしょうか?」
お玉が予想外の展開にも動じず、提案してきた。
「はい!そうします」
絢音は剣の腕に掴まったまま、元気に応える。
「普段着の綿のお着物は、呉須色地に向日葵色の向日葵模様、天色に金魚の模様、お出かけ着には、こちらの麻絹の月白地に青や瑠璃紺、壁瑠璃の流水、花色に赤い金魚の絵柄の一重帯、このくらいになさいますか?」
「はい、普段着る物は洗い替えも必要ですが、外出はほとんどないので、1着でも十分かと思います」
この構成は今持っている着物と同じで、絢音は考えやすかった。
剣は少なく感じて、少し不満そうに片眉が上がっていた。
「剣様、この着物の他にも色々と買って頂きたい物があるのですが・・・」
絢音が腕に掴まりながら剣を見上げた。
「おお、何だ、何でも良いぞ」
剣は買う着物が少ないので、少し機嫌が傾きかけていたが、絢音の方から強請てきたので、直ぐに機嫌が治った。
「お裁縫道具と、手ぬぐいを少々多めに欲しいのですが、よろしいでしょうか?」
「なんだ、そんなものか、好きなだけ良いぞ」
着物より安いのでちょっとがっかりした剣だが、欲しがる物を買ってやるのだから良いかと思いなおした。
絢音は剣の腕から外れて、お玉に近づいた。
「あの、先日、こっそり入れて頂いたものが欲しいのですが・・・」
「ああ、お役に立ちましたでしょうか?」
「はい、ああいう物があると知らなかったのですが、もしやと思って使ったらとても楽でした、なので、今回それも少し頂きたいと・・・」
「ようござんす、たんとお持ちください」
絢音とお玉は小声で話しながらお互い微笑みあった。
如何でしたでしょうか?
着物に関しては読みにくいのでルビつけてみました。
色柄豊富にご想像して頂けましたら良かったです。
お気に召して頂ければ幸いです。
暫く続きますので、よろしければお付き合いください。
よろしくお願いします。
☆も良ければ・・・




