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夏のお買い物1

お買い物♪お買い物♪

買えなくても見るだけでも楽しいと思うのですが、思うのですが・・・

 「絢音、そろそろ、夏着物の用意をしなければならないだろう」

剣が夕餉の後、のんびりと居間でくつろぎながら目の前に座っている絢音に何の脈絡も無く声をかける。


「あ、そうですね、確かに、これでは夏は暑いかもしれないですね、でも・・・」

「でも、なんだ」

「いえ、何だかまた、剣様にご迷惑をお掛けしてしまうので・・・」

絢音が少し俯きかけた。

「お前は俺の何だ」

剣呑な空気を纏い眉間に皺を寄せ、一段低い声の剣に膝に急に乗せられて、鼻を自分の鼻につけられ見据えられた絢音は小さく震える。

「こ、心霊です」

「そうだ、で、」

「夏の浴衣が欲しいです」

剣の望みそうな答えを言う。

「そうか、そうか、よしよし」

途端に、剣の眉間の皺が取れて、鼻を離して、頬を緩ませて答えた。

その手は、絢音の頭をゆっくりじっくり優しく撫でている。


絢音は、着物は高価な物と思っているので、買ってもらう事に抵抗があった。

ここへ連れて来られた時には着る物が無いので、有難く頂いたのだが、余所(よそ)行きまであったのだ。

始めは無邪気に喜んでいたのだが、余所行きは明らかに普段着ている物と手触りが違い、一瞬顔が引きつった事は剣には知られていなかった。

着物は自分が着る物なので、二人で使うものではないという事も引っかかっていた。

絢音のためだけの物を買ってもらうのは、まだ気が引ける。

この前と違って、絶対必要な物ではない。

しかし、心霊である絢音が剣の手を煩わせる事を躊躇うと、途端に剣の機嫌が傾く。


剣は心霊に甘えられたい、頼られたい、良い思いをさせたいと日頃から想っている。

なので、何かをしてやろうとして遠慮されると、今みたいな剣吞な空気になる。

絢音がまだ、心霊の自覚が足りない、剣を受け入れていないと思ってしまうのだ。

「絢音、お前が遠慮するのは、何に不安があるのだろうな?」

膝に乗せたまま、剣が優しく問いかける。

剣の腕は絢音の腰に回されたままだ。

「不安?」

剣の意図が見えない絢音は小首を傾げて問い返す。

「そうさな、俺がお前を大事にしている事がわからないから、遠慮するんだろう」

「そうでしょうか?十分大事にされていて、有難い事と思っております」

絢音はいつも剣に感謝しているので、きっぱりと答える。


「うーん」

剣は絢音に伝えきれていない事を感じたのだが、説明できる言葉が見つからなかった。

「何だか、二人で使う物は良いのですが、自分が使う物は贅沢な気がして、特に着物は、村に居た頃は着ている物と替えの物くらいしかなかったので」

絢音は剣の誤解を解こうと説明し始めた。

それはそうだろう、村での暮らしは貧しかった。


「うーん」

やっぱり言葉が思い浮かばない剣だった。

「なので、夏物も2枚あればと思ったのですが・・・」

絢音が遠慮したのは、ここに来た頃の様にまた、沢山買ってきてもらっては悪いと思ってしまったのだ。

以前も、自分の気に入った着物を買い足しに行こうと言われて、慌てて首を横に振り、十分ですと断ったくらいだ。

その時は、剣もまだ、絢音を外に連れて行くのは気が進まなかったので、そのまま、なし崩しにしたのだった。


女子(おなご)はもっと着飾りたいものではないのか?」

剣は漸く言葉を思いついた。

絢音の話を聞いていて、それでは足りないだろうし、つまらないのではないかと感じたのだった。

前の件もあるので、もしかして・・・と想像した。

「着飾る? 貧しかったので、そう言った経験がほとんどなくて・・・」

やはり、知らないのである。

着飾る事自体、経験がなく、両親からも質素にと、躾けられていたのだから、欲しがらない訳である。

剣は自分との思いの違いに頷けた。

まだ、幼さが残る絢音に楽しみを教えたい。

村での暮らしが楽ではなかったのは剣も知っている。

だから時々『援助』をしていたのだ。


心霊には良い思いをさせたい。

心霊には笑っていて欲しい。

「絢音、ではこれから覚えろ、お前が楽しむのは俺にとっても楽しい、悪い事ではないのだから、もっと楽しめ」

「楽しむ?今でも、楽しい事あります、剣様の尾はもふもふして、とても良い手触りです」

絢音が泣いていた夜に、狼として剣が添い寝をしてくれた。

それ以来、時々悲しみに襲われて泣いてしまう夜は、狼剣が添い寝をしてくれる。

その時にしっかりもふもふな尾を抱えて眠っている。

朝になって目が覚めると、もふもふな尾で顔を撫でられるのが、この上なく気持ち良くて仕方ないのである。

剣も繊細な尾など他の者には決して触らせないが、心霊の絢音には無条件で触らせている。

何なら、自分から撫でに行く。

絢音が喜ぶから、尾なんか勝手にぶんぶん振っているので、止められない。

「それはお前の特権だから、楽しめば良い」

心なしか剣の頬に朱がはしっている。

不思議そうな顔で覗き込んで、何か言おうとした絢音の唇は、剣の優しい口づけで塞がれていた。





今朝から絢音はそわそわしていた。

「お前の着物を買いに行くぞ、一緒に」

最後の一言は少し小さい声だったのは気のせいだろうか?

「え?連れて行ってもらえるのですか?」

だから、念のため聞き返してみた。

「ああ」

聞き間違えではなかったらしい。

絢音は剣の言葉に驚いた。

山の中ではなく街の方が、妖が多いだろうし、人である自分が紛れるのは難しいのではないかと思ったからだ。


「これを被れ」

そう言い渡されたのが大きな布きれだ。

術が施されていて、妖から人であると見えないらしい。

店の中は大丈夫だから、物を選ぶ時は外して良いとされた。

この屋敷に来てから、初めて出る。

しかも、“その辺”、では無い。

街だ。


「剣様、お出かけの時はどちらですか?」

絢音は素朴に疑問に思った事を尋ねた。

「ああん?」

しかし、剣は何を聞かれたのか、その意図が全くわからなかった。

「だって、お買い物に連れて行って下さるって、でも、わからないように、これを被るって言われましたので、剣様が人で行かれるのか、狼で行かれるのかに寄っても、違うと思うのですが?」

絢音は布を頭から被り、両端を鼻の下で結んで背に布をたなびかしていた。

「ああ、人だ、街にお前を抱えて行くから」

その姿を見て、泥棒でもあるまいしと、絢音に聞こえないように、剣はため息を付きながら、そっと結び目を解いた。 

頭からすっぽりと布を被った絢音は、片手で抱き上げられて出かけた。

剣に抱えられているので安心だ。

絢音は不思議な気がした。

何故、こんなにも早く剣を信じる事が出来たのか。

何故、妖であり、山神様である剣が怖くないのか。

答えはまだ見つけられていない。


如何でしたでしょうか?


知らない事は平和なのかもしれませんが、知ってしまえば・・・

大丈夫、剣は財力もあります。


お気に召して頂ければ幸いです。


暫く続きますので、よろしければお付き合いください。

よろしくお願いします。




☆も良ければ・・・

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