お買い物
剣は馴染の妖街に着いた。
黒梟妖の所で貨幣に替え、白梟妖の所で、薬と花蜜を買い、目当ての絢音の着物を買うため、猫妖の三叉のお玉の呉服屋に来ていた。
「あら、剣の旦那様、いらっしゃいませ」
お玉の明るい声に迎えられ、使用人のお小夜にお茶を出された。
「夏向きのお着物のお誂えでございますか?お早いですね」
お玉は疑問に思いながらもうれしそうな声で尋ねる。
「いや、急に必要になったので、上がり品でいいんだが、このくらいの女子用の着物がいるんだ」
剣が自分の胸くらいに手をかざして応える。
「おや、まさか、心霊をお娶りなさいましたか?おめでとうございます」
これでもかという程目を見開き、声も大きくなった。
「急に、な、なので、準備が出来ていなかったから、急いできたんだ、よくわからないから見繕ってくれ」
剣は図星なだけに、戸惑いもあったが、頼み事でもあるので、率直に応えた。
それにここは馴染だ。
「それは、それは、ほんに、おめでとうございます、そんな寿事に関わらして頂きまして、この上なく有難い事です、お任せ下さいまし、直ぐにお召しになれるものをご用意致します」
お玉は満面の笑みを剣に向けた。
「まずは普段お召しになる、綿の着物を3枚と、他所にお出かけになるちょいと良いものを1枚と、寝間着にする浴衣2枚は必要でございますね、それと、手ぬぐいもちょいとあった方がようございましょう、お小夜、ちょっと手伝っておくれ」
お玉がお小夜を連れて奥へと向かった。
ほどなく、二人で両手に抱えて持ってきた。
「・・・んん?・・・」
その量の多さに剣は少し引きつっていた。
「剣様、こちらが普段使いの候補で、珊瑚色地に白の撫子模様、紺地に桜模様、浅葱色地に水面模様、若菜色地に花菖蒲模様、半幅が菜の花模様と水玉模様、熨斗模様、こちらが外出着の鴇色地の花織着物と躑躅の花模様帯、寝間着が紺地に藤花模様と白地で梅模様のものでございます」
お玉が、お小夜が持ってきたものも全て、一気に広げながら説明した。
「で、どれが良いんだ?」
剣は模様が違うのはわかるが、細かな違いがわからなかった。
「いえ、どれも、剣様にはお勧め出来るものを選んできましたので、大丈夫でございます、心霊様のお好みはどの様なものでございましょうか?」
「好みなぁ、それは落ち着いたら連れて来るから、その時に選ばしてやる、今は当座必要な物を用意してやりたい」
剣も絢音の好みはわからないので、今回は仕方ないと思ってもらおうとしていた、ただ、出来るだけ気にいってもらいたいとは思っている。
「そうでございますか、剣様の心霊様だから、きっと可愛らしい方でございましょう」
「まだ、少し幼い」
「では、珊瑚色地に白の撫子模様、紺地に桜模様、半幅は二つ、外出着と、寝間着も二つともで、手ぬぐいも5枚程入れておきましょう、女子用の草履も一ついれて、あ、これはこっそり女子の必需品ですから」
お玉が必要な物を選んで、お小夜に風呂敷に包ませた。
剣は、これを着たら絢音が喜ぶかと思いを巡らせていた。
「あ、ついでに、お銀姐さんのところでお菓子をお土産にお持ちになりませんか?」
「ああ、そうだな、腹を空かせているだろうし、頼む」
「あら、お腹もお空きで」
剣は絢音がお腹を空かせて待っているだろうし、お菓子は幼いので喜ぶかと思って答えた。
「お小夜、お銀姐さんのところで、お菓子とお持たせお願いしておいで」
お玉がお小夜に言いつけ、隣の狐妖のお銀のところへお使いに出した。
「剣様、こちらの風呂敷に全部入れましてございます、他に何かお買い物は?」
「いや、ここで最後だ」
お玉の問いに剣が応える。
ほどなくして、店にお銀が手に風呂敷を抱えて、お小夜を連れてやってきた。
「剣の旦那様、この度は心霊様お迎え、おめでとうございます」
お銀も満面の笑みで祝辞を述べる。
「ああ、少し早いんだがな」
剣は真顔のまま応える。
「こちらに、上生菓子と鶏の肉焼きとお結びをご用意致しました、お持ちください」
「ああ、助かる」
お銀の差し出した風呂敷を剣が受け取り、それぞれ代金を支払うと、大きな荷物を抱えた。
「今度は是非、心霊様をお連れ下さいませ、お待ちしております」
「ああ、また頼む」
剣が急ぎ絢音の待つ屋敷に戻っていった。
日が傾きかけているがまだ、僅かに明るい。
絢音は畳の上でころころしていた。
聞こえて来るのは川のせせらぎと鳥の囀り。
父様や母様の事を考えると、涙が溢れてくる。
一人でいると寂しさが溢れてくる。
何をどうする事も出来ない。
心霊って何だろう、心が揺れるのである。
庭先で物音がした。
箪笥の陰に急いで隠れた。
「絢音、戻ったぞ」
「あ、はい」
剣の声がしたので安心して、縁側に向かった。
「大丈夫だったか?」
「はい、んん?」
剣がずいぶん大きな荷物を部屋に降ろした。
絢音が驚いているうちに、手足を濯いだ剣が部屋に上がってきて、荷物を広げる。
「わぁー、たくさんあります」
綺麗な着物に絢音は目を輝かした。
「腹も減ったろ、ほら、飯も菓子もあるから」
剣は風呂敷を解いて、適当に広げたら、お銀が持たせた飯を膳にのせた。
そう言われると、絢音は急にお腹も空いた事に気が付き、剣の方に歩いた。
転がった方が早いかもしれないが、着物をひきずりながら、歩いた。
「飯を食ったら、風呂に入って、新しい着物に着替えればいい」
「はい、ありがとうございます」
新しい着物に心が躍り、お腹も空いていたので、お結びもお肉も食べきれた絢音の顔は明るく笑みが零れていた。
それを見ている剣は内心、大層喜んでいた。
剣が広げてくれた風呂敷の中身を仕分けして、箪笥に仕舞い、風呂上りに着る寝間着を抱えて、石風呂の所へ抱えて連れていってもらった。
当然、今日も一緒に石風呂に入る。
「・・・ん」
夜半、寝床について昨日の様に眠るように剣に言われて、一人布団の中に入った絢音は静かな闇の中で涙が溢れてきた。
「父様、母様・・・」
囁くような小さな嗚咽が漏れ聞こえてくる。
一人で留守番していた時もそうだが、一人になると寄せてくる波の様に悲しみが溢れてくる。
剣と話している時も、先程着物を見ている時も意識は向かないのだが、一人になると、一人きりになった実感に押しつぶされてしまう。
器用に襖を前足で開け、狼が絢音の寝床に入ってきた。
絢音の枕元に寝そべり、大きな尾を絢音の上に置く。
尾の先で絢音の顔を撫でる。
「山神様?」
「・・・」
剣から返事が無い代わりに、無言の間があったと思ったら、たしたしっと、尾でお腹の辺りを軽く叩かれた。
「?」
絢音は剣から漏れ出た機嫌の悪い空気を感じた。
「あ、剣様、剣様」
絢音が慌てて、2回繰り返すと傾いた機嫌が治ったようで、尾で顔を撫でられた。
「ここに居るから、側に居るから、安心して眠れ」
優しい声音で剣に言われると、絢音はこくりと頷き、尾を握りしめて、眠りについた。
如何でしたでしょうか?
お気に召して頂ければ幸いです。
色柄豊富に揃えてみました、、、
暫く続きますので、よろしければお付き合いください。
よろしくお願いします。
☆も良ければ・・・




