過去からの追手 回想
短いの続きます。
前回よりは長いです。
いつもよりは短いです。
「ねぇ、こっちに来て、気持ち良いわよ」
「深みに嵌ると溺れるぞ」
「大丈夫よ、もう、貴方に溺れているもの」
暑い日差しの中、緩やかに流れている山の中の川の水は冷たくて気持ちが良い。
2頭の若い狼は仲が良さそうだ。
「掴まえた!」
雌の狼が雄の狼の背に前足で縋る。
バシャンっと水が跳ね上がり、雄狼の耳にかかりぴくぴくと震えた。
「こら、耳に水が入るだろう」
不機嫌そうな声で雌狼を窘めるが、前足で凭れかかっている雌狼の体を支えてやる。
「だぁってぇ、なかなか来てくれないんだもん」
甘ったるい声で鼻に皺を軽く寄せて答える雌狼は、殊更、自分の胸を雄狼の背につける。
「ここは初めての場所なんだから、辺りをよく確認しないと」
「貴方がいれば大丈夫よ、強いんだもん」
「強いやつはどこにでもいるよ」
「はぁ~い」
ぎゅっと縋っていた手を首に移動させて、川の流れを利用して更に雄狼に体を寄り添い付ける。
二人はそのまま川の流れに身を委ねて寄り添っていた。
かさかさと不規則に落ち葉を踏む音が聞こえる。
2頭で歩いているが、雄狼の側を跳ねながら雌狼が歩いているので、不規則になる。
喜びが雌狼の全身から溢れ出ている。
「美味しそうね」
「おお」
実りの秋らしく、あちらこちらに熟れた実がなっている。
見上げて隣で強請ればひょいと、採って口に入れてくれる。
「う~ん、美味しい!」
食べる度に体を雄狼に摺り寄せた。
「そうか」
雌狼では難しい実も雄狼が簡単に採って食べさせてやると、判りやすく雌狼は嬉しそうに喜びを全身で表す。
それが、若い雄狼には、自分がしてやったと、優越感と達成感を感じさせ誇らしかった。
「ほら、これも美味そうだ」
「あ~ん」
口に含めば喜びに目が輝いた。
「どうして?」
「んー、心霊という感覚が未だに無いんだ」
「そ、そんな事、もう、もう少し一緒にいたら、わかるから、ねぇ、一緒に居ればいいのよ」
「否、そう言ってもう随分一緒にいるけど、やっぱり違和感しか無いから、違うんだと思うよ」
「そんな事無い!私にはわかるの!」
「俺にはわからない」
外は冷たい風が吹き荒れている。
そろそろ、山は荒れる季節を迎える。
そんな時、暫く悩んでいた様子の雄狼を雌狼が問い質してみたら、意外な答えが返ってきた。
「そんな事、聞きたくない」
「聞いてきたのはお前だろう?」
「違う!」
雌狼はそんな事など夢にも思っていなかった。
初めて会った時、雌狼は全身の毛が燃えている様な熱さを感じた。
「こんなに全身に熱を持ったことなんてないもの、これがきっと心霊との出会いなんだと思うの、だから貴方が私の心霊」
雄狼に心霊の話をして、傍に居る事にしたのだ。
ぎゅっと雄狼に雌狼が抱きつけば、若い雄狼は、戸惑いながら受け入れてくれた。
同種族の心霊ならば互いにその感覚が分る筈だった。
違和感を持ち、信じてくれていない様な素振りも雄狼から感じていたが、まだ、一緒に居る期間が短いからと自身も相手も納得させながら、ここまできた。
だが、雌狼に『心霊』と言われてから、いつまでたっても雄狼にはその感覚が湧かなかった。
この寒くなる時期にきて、雄狼はいつも以上に狩りをしていた。
食料もこの岩穴の住処に多くあり、この冬はずっと籠って二人っきりで過ごすために雄狼が張り切ってくれたのだと、雌狼は楽しみにしていたのだ。
心霊と一緒に二人きりで過ごす。
そんな喜びに溢れていた雌狼。
「体を大事にして、今度こそ本当の相手を見つけるんだ」
だから突然言われた雄狼の言葉は、
雌狼には聞き入れられるものでは無かった。
雌狼の心が、悲鳴を上げて、音を立てて崩れた。
縋りついた手を振り解かれて、妖の術で気を失わされた。
そして次に目が覚めた時には、傍に雄狼は居なかった。
住処にしていた岩穴の入口は妖術で塞がれていた。
その間の食料は十分中にあった。
岩穴の中には、片手が入る程のぎりぎり小さな川が流れており、生活は出来た。
春になって漸く外に出られた時には、もう、自身の心霊だと想い込んでいた剣の匂いは何処にも無かった。
唐突だとは思いますが、前置きみたいなものだと思って頂ければ。。。
暫く続きますので、よろしければお付き合いください。
よろしくお願いします。
☆も良ければ・・・




