剣と絢音の想い違い4
たまのお買い物なのでたくさん買うものがありまして。
一通り、お玉の店で買い物を済ますと、恒例で、内通路を通り、お銀の店に入った。
「ようこそ、お待ちしておりました、心霊様、春先より、お顔がしっかりなさってきましたね」
お銀が絢音の顔を覗き込みながら、言葉を掛ける。
「こんにちは、お銀様、そうですか、夏場は少し疲れが多かったのですが、最近は色々と秋の実りが多くて、沢山食べているせいでしょうか?」
絢音は小首を傾げながら、答えた。
「そうさな、よく食べるようになった」
剣も頷きながら言い添える。
「それは、それは、ようございました、まだまだ、心霊様は成長期ですから、たんと召し上がって頂きませんと」
お銀が嬉しそうに、微笑む。
お銀の店では、台所の小物が少しと絢音の鏡台を買う事になっていた。
春先は目先の台所で沢山買う物があったので、あまり気が回らなかったのだが、夏前に絢音の着物を剣が取りに来た時に、お銀達に言われ、それは自分で選ばせたいと剣が願ったので、今日になったのだ。
「心霊様、こちらに幾つかあるのが、皆さんお買上げ頂く物となっていますが、もちろん、お急ぎで無ければ、お誂えも致します」
お銀が、庶民が広く買い求めるような物を見せてくれた。
「いえいえ、これでもとても立派に見えます」
絢音は首を横に激しく振った。
「なんだ、さっきと随分勢いが違うな」
剣が不思議そうに、絢音を覗き込んだ。
「剣様、こちらにあるのも、丈夫そうで、良い物に思ったのですが・・・」
絢音も格別思い違は無いので、こちらも不思議そうに小首を傾げながら剣の顔を見た。
「そうか、ま、鏡は同じっちゃぁ、同じだな」
剣が鏡台を見比べながら言うと、隣で絢音がこくこくと大きく頷いていた。
「そうでございます、鏡は同じですが、付いている小引き出しに飾り彫りが入っていたり、小引き出しの数が違ったりします」
お銀の説明に、二人で驚きの顔を示す。
「例えば、鏡台の小引き出しの大きな引き出しの前面に牡丹の花を彫ったり、桜の花を彫ったり、この2段目の引き出しを小さな引き出し2つに替えたり致します」
見慣れない鏡台という物の違いをお銀はわかりやすく説明した。
「ああ、それは良いな」
剣は先程、絢音が着物を選んでいた時に、牡丹を選んでいたのを思い出したので、言い添えた。
「凄いですね、そんな所にも飾り彫りがあるなんて、小さい引き出しも便利そうですね」
絢音は以前、剣からもらった櫛が仕舞える小引き出しに魅かれた。
「今更急がないんだから、好きな物誂えれば良いんじゃないか」
剣が絢音に言うと、絢音は小首を傾げて少し眉間に皺を寄せていた。
「はい、急ぎはしませんので、良いのですが、そこの飾りや引き出しの数をどうしようかと、考えております」
絢音が似合わない眉間に皺を寄せたまま、剣の顔を見上げて答えた。
「そ、そうか・・・、そんな、顔するほど考え込まなくても・・・」
剣があまりの絢音の皺皺顔に、呆れて溜息を混ぜながら応える。
絢音の皺を指の腹で撫でて伸ばす事も忘れない。
「そうですか、んんーん、んんー、うん、では、梅の花を彫って頂いてもよろしいでしょうか、後、大きな引き出しの上に小さな引き出しを3っつに区切った2段の引き出しはお願いできますでしょうか」
意外に具体的な絢音の注文に、剣もお銀も驚いた。
「皺寄せて迷っていた割に具体的に出てきたな」
皺皺顔で唸っていた絢音があっという間に晴れやかな顔になっていた。
「はい、如何様にもお造り至しますよ、梅の模様は如何致しましょう」
お銀は梅の花は意外だったので、確認した。
「梅の花とは庭にある梅か?」
剣も聞き返した。
「はい、梅の花は厄除けにもなると母様から聞いた事がありますから、私のために折角買って頂くなら、出来るだけ災いを除けて、剣様と恙無く暮らしていきたいと思いました」
「よしよし、よしよし」
真っ直ぐにきらきらした瞳で剣を見つめる絢音は薄っすらと頬に色を乗せてはにかんでいた。
絢音の言葉に目を見開いた剣が、絢音を抱き寄せて、その頭に頬ずりをしている。
その腕の中で耳まで赤くなった絢音が見悶えていた。
「ほんにお優しい心霊様でございます、では、引き出し前面に枝付きの梅を彫りましょう、細い枝に大ぶりな梅の花がよろしいですね」
お銀は大きく頷きながら、決めていた。
持って帰る上生菓子を選ぶ段になって、またもや菓子棚の前で眉間に皺を寄せて絢音が唸っていた。
「今度はなんだ」
剣がお銀と話していたが、一向に絢音から声が掛からないので、心配になって絢音に声を掛けたら、振り向いた顔がまた、皺皺顔だったのだ。
「この紅葉と白兎さんがとても可愛らしくて、良いなと思ったのですが、中身がさや豆の餡のようなのです、私は今小豆餡が食べたいと思ったので、そしたら、こちらの大福になるかと思ったのですが、白兎さん可愛いです・・・」
絢音が切々と語る。
「なら、二つ買えば良いだろう、何をそんな顔するまで悩む?」
剣は今日何度目の溜息かと思いながら、応える。
勿論、絢音の皺を指の腹で撫でて伸ばす事も忘れない。
「いえ、二つ食べたら、夕餉が入りません、それでもよろしいでしょうか?」
「いや、それは駄目だな」
「ですから、悩んでいるのです」
「ううんん・・・」
剣も返答に困った。
絢音が買ってもらう事に悩んでいるのでは無いのは良い事だが、確かに、1日くらい夕餉を抜いても良いっちゃぁ良いが、唯でさえ食の細い絢音を気にしていた。
その様子を見て、後ろでお銀が笑っていた。
「心霊様、そんな事でお悩みなら、早くお申し付けくださいませ、今作らせますんで、お待ちくださいませ」
そう言うと、虚を突かれたような顔の二人を置き去りにして、奥の厨房へと消えた。
「剣様、お銀様は何を為さるんでしょうか?」
「さぁな」
剣も絢音も想像がつかず、しばし佇んでいた。
「まぁまぁ、お二人ともちょっとお掛けになってお待ちくださいませ」
お千代がお銀の後ろからお茶を運んできて、奥座敷に腰掛けた。
他愛もない話をしながら、待っていると、お千代がお銀のところに小さい盆に何かを載せて持ってきた。
「心霊様、こちらでよろしゅうございますか」
盆に載せられていたのは、黒兎が紅葉に乗っている上生菓子だった。
「可愛い、お銀様すごいです」
見た瞬間に裏返った声で絢音が歓喜の声を上げた。
「おお」
剣も驚いた。
確かに、黒兎なら小豆で出来るが、流石にわざわざ作ってもらう事は考えなかった。
「ありがとうございます、とってもうれしいです、剣様、これ買うてくださいませ」
弾んだ声で絢音が剣にお強請りする。
「ああ、良いぞ」
剣も満足げに応える。
「はい、職人も喜んでおりました、心霊様が悩まないように、お召し上がり頂けるようにと、お作り致しました」
「ありがとうございます、このくらいなら、全部頂けます、嬉しいです」
奥の暖簾の向こうに微かに人影が見えたので、絢音は身を乗り出してお礼を言った。
「また、暫く絢音は来られないから、欲しい物は全部買うていけ」
「はい、ありがとうございます、剣様」
素直に応える絢音に満足そうな剣だった。
今日も中々な量を背負って、絢音を片腕に抱えて剣は屋敷へ戻った。
屋敷に着くと、早速、お茶と黒兎の菓子をほうばって、嬉しそうにしている絢音と楽しそうにその姿を見ている剣が居間に居た。
一休みしたら、買ってきた物を、嬉しそうに片づけている絢音をごろりと横になった剣が耳だけで見ていた。
如何でしたでしょうか?
大事な暮らしを守っていきたい、じぶんの出来る事で、そんな祈りを絢音は持っています。
見た目も含めて食べたいもの、なんですよね。
お気に召して頂ければ幸いです。
暫く続きますので、よろしければお付き合いください。
よろしくお願いします。
☆も良ければ・・・




