お志乃の畑
始めては楽し♪
冬に備えて、秋に収穫出来る物や、冬でも収穫に耐えられるものが無いか、狸妖のお志乃に聞きに行く事にした。
「お志乃さんは狸さんの妖さんなのですよね?」
「ああ、子だくさん狸の妖だ」
絢音は剣に片手で抱き上げられながら、お志乃が住む池側の畔に向かっていた。
絢音は新しい種類の妖になるので、少し緊張していた。
「手土産とか要らないのですか?」
「ああん?特別考えないな、まぁ、最初に何やかんややったからかな」
「そうですか、でも、私はいつももらってばかりです」
「別に、お前は俺の心霊だろ」
「はい、それはそうですが・・・」
剣はまだ、絢音に話していないが、お志乃達がそこに住み着いた時に、剣にしては珍しく世話を焼いたため、お志乃がその時の事を今でも感謝しているので、気にならなかった。
今も、たまに野菜をもらうついでに、力を貸してやる事はある。
お志乃の旦那は、そこに来た時にはもう亡くなっていたから、力が足りなかったのである。
今も未だ、子が成長しきっていないので、力は足りない。
過去を知らない絢音とは嚙み合わない訳だ。
「ほら、もうすぐ着くぞ」
剣に言われて先の方に目をやると、点が動いている。
お志乃が今か今かと迎えに出ていたらしい。
良く見ると点が左右に揺れている。
「おお、お志乃、心霊の絢音だ、いつも野菜を喜んでいる、絢音も来たがってな、子供らもかわりないか?」
「剣様、ありがとうございます、心霊様にお会いできるのを楽しみにしておりました、お連れ頂きありがとうございます、子供らも変わりなくお陰様で元気にしております、」
「は、初めまして、絢音と申します、いつも美味しいお野菜ありがとうございます」
「ああ、心霊様、初めてお目にかかります、お志乃でございます、わざわざお越し頂いて、勿体無い事で、ありがとうございます」
お志乃は絢音と背丈は変わらないくらいだったが、絢音と違って、横には狸らしくふくよかである、その体をゆらゆらとしながら、本当にうれしそうに、懐っこい笑顔が溢れていた。
剣も、お志乃に対しては、気さくに接していた。
絢音も、この和やかな雰囲気に、馴染んでいけた。
「さっさ、手狭い所ではございますが、こちらにどうぞ、お越しください」
お志乃に案内されて、お志乃の家の縁側に剣と座る。
「どうぞ」
中から可愛らしい子狸がお茶を差し出した。
「忍もいたのか」
礼を言いながらお茶を受け取り、剣が子狸に声を掛けた。
「はい、心霊様が起こしになると、聞きましたので、お会いしたかったです」
頬を赤くしながら、絢音を見ていた。
「こんにちは、忍ちゃん」
絢音も目線を子狸に合わせて答える。
「こんにちは、心霊様」
真丸と見開かれた瞳が真っ直ぐ絢音を見つめていた。
「んん」
何故か剣の眉間に皺が寄ってきていた。
「忍、会えて良かったね、後で畑に行くから用意しておいで」
「はーい」
気配を察したお志乃に言われて、忍は下がった。
「心霊様、今日は冬に備えてのお話と伺っておりますが」
お志乃が絢音を見ながら本題に入った。
「はい、どうしても、夏や秋と違って、冬に取れるお野菜は少ないかと思うのですが、少しでも何か出来ればと思って、お聞きしたいと思いました」
今度は絢音が少し眉頭を寄せている。
「そうですね、長芋や白菜、大根等、藁を掛けてやりながら、何とか雪除けすれば、お山の上でも出来るかと存じますが、一番作りやすいのは大根でしょうかね」
お志乃が手振り身振りで応えてくれた。
「大根ですか、それは楽しみです」
絢音も大根であれば、料理が色々作れるので助かると思った。
「葉が大きくなり過ぎると難儀かもしれませんが、実は土の中ですから、土が凍らないように、藁で囲って、被せてあげたらきっと育ちますよ」
お志乃も絢音の笑顔に嬉しそうに応える。
「少し早めに冬支度をした場所がありますから、畑で、実物をご覧になった方がよろしいかと思います」
お志乃が畑を指さした。
「はい、是非、拝見したいです」
絢音が立ち上がった。
「では、参りましょうか」
お志乃が、案内をしようとしたら、妙な声がした。
「ひゃあ」
後ろで、剣が突然、絢音を抱え上げたので、不意打ちだった絢音が驚いて出した声だった。
「何驚いているんだ、畑までは結構道が悪いぞ」
絢音の態度に剣の方も驚いたようだった。
「え、いえ、畑に行くだけなので、まさかとは思ったので、あの、歩けるかと、思うのですが・・・」
絢音がおどおどしながら答える。
「・・・」
無言のまま、片眉が上がった顔を剣に向けられた。
「あ、危ないでしょうか、ねぇ」
明後日の方を向いて、絢音は独り言のように呟いた。
流石に、前を歩くお志乃の肩が震えているのがわかる。
笑いを堪えているつもりなのだが、堪えきれていない。
畑の一角では忍も待っていた。
畝に藁の小さな屋根が出来ている一角があり、目当てはそこの様だ。
漸く、地上に降ろしてもらった絢音は、いそいそと藁に近づいた。
「小さな枝で支えているのですね」
絢音は、藁の中を覗き込んだり、触ったりしてお志乃に尋ねた。
「はい、藁が多い方が温かいですが、その分重くなって、葉が育たなくなりますから、葉が育つ空間を確保してあげています」
「これです」
お志乃が答える間に、忍が支えに使っている枝の残りを、どこからか持って来た。
「意外と丈夫そうですね」
受け取った絢音は手で弾きながら答える。
「そうですね、数が必要な時期になったら、わざわざ木から作りますが、まだ、このくらいだと、薪用に集めた枝から選んで使います」
中々、合理的な事をしている。
話をしている間に、畑で仕事をしているお志乃の子供たちが集まってきて、挨拶を始めていた。
剣も見知っているので、声を掛ける。
今日も畑は順調のようだ。
「心霊様、冬の畑は厳しいですから、あまりご無理はなさらないでください、心霊様がお召し上がりの分は、このお志乃が必ずお揃え致しますから、山の上は雪も多ございますので、一層、厳しい寒さでございましょう」
心配そうなお志乃からの申し出だった。
「はい、ありがとうございます、きっと、お世話になってしまうと思います、少しだけ、挑戦してみますが、私には日々の糧までは無理かと思います」
意外とあっさりと降参した絢音に剣も驚いた。
「なんだ、いいのか」
「はい、お志乃さんに教えて頂いて、一冬分、自分で賄うのはとても無理だと判りましたので、お言葉に甘える事に致します、でも、ちょっとはしてみたいので、ちょっとの分だけ、頑張ります」
晴れやかに応える絢音に剣も満足そうな笑みを浮かべた。
「今、私や子供たちが生きていられるのは、剣様のお陰でございますから、剣様、心霊様のお召し上がり分は何としても揃えさせて頂きますので、どうぞ、ご無理なさらないで下さい、出来る限り種類も多くお揃えさせて頂きます」
お志乃が畏まって言い添える。
「いえいえ、お志乃さんこそ、あまり無理はなさらないでくださいね、子育てもお忙しいのでしょうから」
絢音があまりにお志乃から丁重に言われるので、返って恐縮してしまう。
「大丈夫でございます、お志乃も子らも丈夫に出来ております、それに、春先に剣様に畑も広げて頂きましたから、この夏は収穫が多くて、道具も揃えております」
満面の笑みでお志乃は己の胸を叩き、誇らしげだった。
絢音の畑用に小枝とか藁を調達するのは、どのくらい冬支度にするか、決めてから、後日剣が取りに来る事にした。
お志乃が丁寧に頭を下げ、忍ら子供達が大きく手を振って見送る中、剣達は山へ戻った。
剣に抱えられながらも、絢音も子らに手を振った。
如何でしたでしょうか?
狸の野菜、お志乃は一生懸命ご恩返ししてます。
美味しくなぁ~れ、美味しくなぁ~れと
お気に召して頂ければ幸いです。
暫く続きますので、よろしければお付き合いください。
よろしくお願いします。
☆も良ければ・・・




