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12/21

絢音のお出かけ

秋の美味しいものは色々ありますね。


「剣様、先日取って来て頂いた茸はとても美味しかったですね、今度は私も取りに行ってみたいです♡」


秋の豊富な恵みに山は色づいている。

最近、絢音は剣にお強請りする事を覚えた。

大きく瞳を見開き、両手を胸の前で組み、小首を傾げて、下から真っ直ぐに剣の瞳を覗き込む様に見つめる。

見つめる前に少し瞬きを我慢してから、見つめる方が効果的だ。



まあ、強請ると言っても、否と言う必要のあるような事を強請ってこないのが、絢音の控え目で、初めの頃から変わらないところでもあるのだが。

本人は至って、大変な事をおねがいしているつもりだ。



川へ水浴びに行ってから、少しずつ、剣が一緒に外に連れ出してくれるようになった。

まだまだ、行き先も頻度も限られているが、それでも、全く出られなかった事を考えると、絢音はとても嬉しかった。

「絢音、あの茸が取れる場所は危ない、違う茸が取れる所なら、考える」

「ありがとうございます、楽しみです♡」


眉間に深い皺が寄りがちな剣に対して、満面の笑みを向ける絢音、対照的な構図であった。

剣は絢音の一緒に住むようになり、徐々に絢音の様々な表情が見られるようになった。

それは遠くから心霊を見守ってきた時よりも、絢音自身を愛おしく想っている事に気が付き始めた。



山に様々な実がなって来た頃合い、安全を気にしながらも、剣は出来るだけ近場を選んで、絢音を連れ出してやった。

冬を迎えれば、より一層、家に閉じこもる生活になる。

雪深い山へは連れ出せない。

日頃から不満を口にしない絢音だが、今の生活が村に居た時の生活とは比べようもない程不自由ではないかと、剣は危惧していた。

もちろん、貧しかった村での生活に比べれば、衣食住で不自由はさせていない自負があったが、人との関わりは全くない。

愛しい絢音を想えば色々と複雑であった。




「剣様、今日は栗拾いに行けるんですよね」

朝から浮足立っている絢音だ。

「そうだったか?」


本来は出来るだけ外に連れ出したくない剣は、覚えていても、一回は忘れたふりをするようになっていた。

「もうぉ、暦に書いてあります!」

絢音が頬を膨らまして抗議する。

剣が忘れたふりをするようになって、最初は違いましたか?と引き下がっていた絢音だが、何度か重ねるうちに、わざとだと気が付き、暦に書くようになったのだった。

剣にしてみれば、脹れた絢音も可愛いのだが・・・

「そんなに脹れると栗の棘が刺さって破裂するぞ」

片方だけ口角を上げた剣はそっと絢音の膨れた頬に指先を当てた。

「はっ」

絢音は急に頬を引き締めた。


「栗は昼間であれば良いから、急ぎはしない」

「はい、栗も好きなので楽しみです」

剣の一言にあっという間に機嫌が良くなる絢音は台所から大き目な籠を持ってきた。

「それに持って帰って来るのか?」

剣は予想より遥かに大きい籠に驚いた。

「重たくなりましょうか?栗は棘の部分があるので、嵩がはるかと思いましたので・・・」

絢音はきっと自分が担いで持って来るわけではないので、重いのなら剣に申し訳ないから小さい籠に代えてこようかと思って、籠を見つめた。

「まぁ、良い、絢音が好きなら、たんと持って帰った方が楽しいだろう、お前が担ぐわけではないのだから、気にするな」

剣が不安そうな絢音を見て、喉の奥で笑っている。

「いえ、自分で担ぐのであれば頑張れば良いのですが、剣様にお願いするのであれば、重いと申し訳ないと思いましたので」

絢音が眉尻を下げて、すまなさそうな顔を向ける。

「お前より俺の方が、力があるだろう? 心配するところが違うだろう?」

剣が今度は呆れた様に言った。

「それはそうでございますが・・・」

「よしよし、栗をたんと取ってこよう」

剣が絢音の頭を撫でながら宥めていた。




空の籠を背負って、狼の剣の背に絢音が乗る。

以前は出かける時に、地面から剣の背に乗ろうとしたのだが、中々、絢音は剣を登れない事がわかった。

剣が咥えて背に放り投げる事もあったのだが、今では絢音を縁側に待機させ、その側に剣が伏せをした状態で屈む。

安心・安全な狼の乗り方である。


ふさふさな剣の毛に掴まり、早く走る背で風を感じる。

「絢音」

ゆるゆると速度が落ちてきたと思って、顔を上げると、剣が立ち止まった。

「わぁー、すごく遠くまで見渡せます、遠くにもお山が連なっていますね」

山間の切れ目に立ち止まり、眼下に広がる景色を見せた。

「ま、屋敷からも遠くは見えるが、こことは眺めが違うからな」

剣は少しでも絢音を楽しませたかった。

「はい、とても綺麗な景色です、すごいですね、あ、あそこの小さい池がお志乃さんの家の近くの池ですか?」

「いや、あれはもっと後ろになる、ここは家から見える方角ではないからな、絢音が思っているより、今日は遠いところにいる」

「遠く・・・、遠くですか、ありがとうございます」

絢音は遠出を嫌がる剣が遠くまで連れてきてくれた事に驚いて感謝した。

「さて、あまり見える所に居ると良くない、こちらが見えるという事はあちらからも見えるという事だからな」

剣は言い終わらないうちに、すっと、森の中に引き返した。



やや、木がまばらに生えている森の中をゆっくり歩いていると、また少し木が減って広く感じる空間に出た。

「あっ、栗の木です」

絢音が叫ぶとそっと地面に降ろされた。

「剣様」

絢音が得意気に籠の中から、藁で出来た大きな(くつ)を取り出した。

「何だ、それ?」

訝しがる剣の眉間に皺が寄る。

「剣様はきっと栗の棘が危ないからと、歩かせて頂けないかと思って、いつも剣様に抱かれていては申し訳ないので、この前、頂いた藁で作ってみました」

確かに絢音の手には丈の短い藁沓があった。

「どれどれ」

剣は苦笑しながら、屈んで膝に絢音を乗せ、草履から藁沓に履き替えさせた。

「それでも棘には気を付けるんだぞ、藁など刺し通すのだから」

眉間に皺を寄せたまま剣が棘ならぬ釘を刺す。

「はい、ありがとうございます」

嬉しそうな笑顔を剣に向け、見つけた栗の木に向かってそっと歩き始めた。


「剣様、たくさんありますね、栗ご飯が沢山作れますね」

竹箸でつまみながら持ってきた籠に入れていく。

枯葉を踏む音を楽しみながら、大きな毬栗(いがぐり)を次々拾っていく。

剣が遅れて付いていき、途中で籠を持った。


「剣様、随分拾えました、少しお休みしましょう、お結びがあります」

絢音が栗の木を渡り歩く途中で剣に声を掛けた。

「そうだな、少しくらいなら・・・」

外に長く絢音を連れ出すのを好まない剣だが、辺りに怪しい気配はしない場所だ。

大きな木の側に腰を下ろし、片足の上に絢音を座らせる。

「剣様、どうぞ」

絢音が背負っていた風呂敷からお結びを一つ差し出す。

「ああ」

手渡された葉に包まれた結びを頬張る。

「上手いな」

「良かったです、お水もあります」

絢音は竹に入れてきた水を剣に差しだす。

受け取った剣が一口喉を潤す。

隣で小さいお結びを小さい口で食べている絢音を眺める。

「絢音も飲んでおけ」

「はい」

戻された竹筒を受け取り飲み干す。

「ご馳走様でした」

広げた物を畳みながら一息吐いた。

「さて、もう少し拾ったら陽が高いうちに帰るぞ」

剣が辺りを探りながら伝える。

「はい」

来れただけでもうれしいと思っている絢音に不満はない。

今度は大きな栗を狙って、籠いっぱいに集めて、屋敷へ戻った。




「危ないからな」

剣が全て栗を毬から外した。

絢音は申し訳ないと思いながらも、毬は痛いので外してもらってとても喜んでいた。

遠出をして、栗拾いが出来て、たくさん栗が食べられれば、絢音は満足だった。

剣には毬はたいした事が無いらしい、あっという間に毬栗は唯の栗になる。

ちょっぴり羨ましく思った絢音だった。


如何でしたでしょうか?


栗拾い、一番最初に食べた方はどうやって食べようと思ったのかいつ思っても不思議です。

同じ様に、葡萄とか柿とか、茸とか出かけていそうな気がします。


お気に召して頂ければ幸いです。


暫く続きますので、よろしければお付き合いください。

よろしくお願いします。




☆も良ければ・・・

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