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『本日最終話まで投稿!!』世界の悪に全てを奪われた少年、絶望の果てに勇者となる  作者: おう
第一章『アアル王国編』

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第一章九話『ユダの訓練5』

 そして迎えた訓練最終日。軽く欠伸をしながら、いつも通り訓練場に向かうと、そこには常世──ではなく、別の男がいた。


 「よぉ! ユダ」


 燃え盛るような赤髪を持つ男──フェリスは特段驚く様子もなく、気さくに挨拶をした。


 「フェリス、何でここにいるんだよ!」

 

 本来いるはずのないフェリスに、ユダがそう疑問をぶつけた。


 「えっとそれはな...」

 

 フェリスが口ごもる。何かを隠すかのように。それを追求しようかと迷った最中、また別の声が聞こえてきた。


  「──それは君たち二人に戦ってもらうためだ」

 

  ユダの疑問は、いつもより遅れてやってきた常世によって答えられた。常世の装いはいつもと変わらないもので、ユダの来ている隊服よりも少し装飾が凝っている服だ。

 

 上の立場を示すためにもっと華美にするべきかもしれないが、そこまですると実用性が著しく下がるために今が丁度いい塩梅なのである。


 「戦う…?」

 

 点と点が一切結ばらず、ユダは僅かに首を傾げた。対してフェリスは大まかなことがわかっているのかユダとは違う色の反応を見せた。


 「ちょっ!! 常世体長あれのこと言わないでくださいよ!!」

 

 隠そうとしていた事実が暴露されそうになって、フェリスは焦ったの焦ったのか、彼は必死に手を振り回していた。

 

 しかし常世にはピンときていないようで──、

 

 「どれのことだ? 君とアルスが女子隊員の大浴場を覗きに行ったことか? それとも君が女子隊員の下着を盗んだことか? 君はバレていないつもりかもしれないが、俺達隊長や副隊長は知っているぞ」

 

 常世は淡々とフェリスの愚行を羅列していった。あまりの内容にユダは顔を引き攣らせる。

 

 「うぎゃぁぁぁ!! 俺の華やかな出世街道がぁぁ!!」

 

 常世の言葉にフェリスは地に伏せて、儚く散っていった己の夢を残念がっていた。

 

 (もともとフェリスに出世街道はないだろ...)

 

 彼の馬鹿さ加減を知っているユダは、今のフェリスを横目にしながら心の中で毒を吐いた。

 

 「...まぁ切り替えも大切だな!!」

 

  フェリスの切り替えは早く。素早く地に伏すことをやめた。

 

 「俺様が夜な夜な食堂の食材を盗み食いしてたのがバレてな。その罰金をお前との戦いに勝ったのなら、常世隊長が代わりに出してくれって言ってくれてな」


 「盗み食いなんてことやっていたのかよ…」

 

 フェリスが馬鹿なことは既に分かっていたが、まさかここまでとはと、ユダは心の底から呆れる。

 

 対してフェリスは二カッといい笑顔を決めてくる。

 

 「そこが俺との差だぜユダ!! お前も俺みたいに沢山食べたら身長がもう少しは伸びているだろうな」

 

 「はいはいそうかよ。そいつはおめでとう」

 

 身長でマウントを取ってきた彼をユダは軽く受け流した。 

 

 「はっ! 負け惜しみだな!!」

 

 大きく鼻を鳴らすフェリス。大いに彼は威張っているが、彼は盗み食いでユダと戦うことになっているのだ。

 

 ユダはフェリスの心情を一切理解することできず、嘆息するとユダは一つのことがひかかった。

 

 (ん? 待てよ...)

 

 「そういや...何で罰金払えないんだ? ギルドの給料って俺達の年代に相応しくないぐらいに多いし、それに今は月初めだよな。そんなにお金を使うことがあるか?」

 

 ギルドの給金は王都全体を見ても非常に高い。ユダの額面を見たときには腰を抜かしそうになったほどだ。

 

 それどころかウェストン領にいる両親の給料を上回ってしまったのかと、心配になってしまった。

 

 フェリスが貯金をしていることは期待できないが、簡単に給料を使い果たすことはないだろう。

 

 「ちょっくら騙されてしまってな、俺の財布はすっからかんだぜユダ!!」

 

 ユダの問いにフェリスは意気揚々と答えた。

 

 「まじか。一体何に騙されたんだ?」

 「あー、ちょっくら女関係で」

 

 少々はぐらかしながらも、フェリスはある程度答えてくれた。深くも追求する気も起きずに、ユダはただポカンと口を開き続けた。

 

 「そっか、うんまぁしょうがないな」

 

 ユダはフェリスの肩に手をポンポンとし、憐れみの目を向けた。フェリスの肩が徐々に震えていくのを手の肌で感じた。

 

 「うるせぇ!! お前もアルスと同じ反応をするな」

 

 「ぶへぇ!!」

 

 右頬に強烈な衝撃。ユダは大きくのけぞった。不意に攻撃の後を左手で追ってみると、赤い血液が付着していた。

 

 (おい! あいつ魔力の強化してんぞ!!)

 

 瞬時の判断でフェリスの拳の位置を予測し、魔力で防御したのが功を奏した。お陰で多少の傷で済むことができた。

 

 流石のおいたのしすぎに常世は口を挟む。

 

 「フェリス君。流石にやり過ぎだ」  

 

 長身の男はユダとフェリスの間に割って入った。ユダの目には綺麗な黒長髪が揺れる様が見えた。


  「これ以上の雑談は無用だ。それ以上をするならこれからの戦いだ」


  「...っ、そうだなユダ。さっさとやろうぜ!!」

 

 「まさか訓練最終日に盗み食い野郎と戦うことになるとは…」

 

 せっかくの最終日、こんな盗み食い野郎よりも常世と戦いたいと思うユダ。それに反して盗み食い野郎──フェリスは随分とやる気を見せている。


 「──フェリス君だけ褒美があるのは不平等だな。ユダ君も褒美が欲しいか?」


 ユダの表情から察したのか、常世がユダに質問すると、「ええ」と返事をした。常世は一瞬考える素振りをして──、


 「ならユダ君、君が勝ったのならその貸し出している剣をあげよう」

 

 ユダのやる気を駆り出すためか、常世は褒美をそう提示する。今ユダが使っている剣は、常世から借りているものだ。約一ヶ月、この剣を使っていたために愛着も湧いていた。


 「いいんですか?」


 ユダが目を輝かせた。その目は新しい玩具を買うことを約束してもらった子供のようであった。


 (流石、常世隊長!!)

 

 物に釣られてユダは賛辞を述べた。


 「ああ、ユダ君には何も無いというのは不公平だろう」


 常世の示した褒美によって、ユダのやる気に拍車がかかると──、


 「全力でこい、フェリス。叩き潰してやる!」

 

 虚勢を張って語気を強めると、おそらくこの訓練を行っていた一ヶ月で。一番のやる気をユダは見せるのだった。


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