第一章八話『ユダの訓練4』
それからの訓練は順風満帆そのものだった。
今までも「大罪教の撲滅」、「リンとお互いを守り合う」という目標はあった。そこに更にもう一つが追加されることによって、ユダの心を支え強くしてくれた。
それが顕著に現れたのが最終日をもうすぐ迎えようとしているときだ。
『守りを極めるには攻めを学ぶ必要がある』。そんな常世の持論からユダは攻めてとして常世と戦っていた。
「──っ!」
ユダが常世を視界に入れると同時に、ユダは常世が攻撃するであろう場所を予測してそこに剣を構えた。そして次の瞬間、ユダに強烈な衝撃が迸った。
ユダの読みは見事に当たっていた。予測地点に常世は突撃し、攻撃が来ていたのだ。衝撃が腕に伝って全身に響く。
(絶対に剣は離さないぞ……!)
覚悟通りにユダは決して剣を離さなかった。常世との訓練で何度も打ちのめされる中で、ユダは自身がすぐに剣を手放してしまうことに気づいていた。ゆえにユダは決めたのだ。例え腕がもがれようとも剣を手放さず、戦う姿勢を崩さないと。
「見事だ」
常世とユダの剣が激しくぶつかり合い、凄まじい鍔迫り合いが起きる中、常世は剣を離さなかったユダの姿勢を評価した。
(…けど、足りない!)
常世の称賛は確かに嬉しかった。しかし大罪教と戦うには今のままでは何もかも足りない。故にユダは、守りの姿勢から一気に攻めの姿勢へと転換した。
「──ぐっ!!」
手に魔力を込めて筋力を高めたユダは、常世を押して均衡を崩した。魔力で高めた精一杯の力で常世を押し出す。
「…っ」
常世は後ろに後退し、カウンターの構えを取る。毎日戦う中で、その構えをくぐり抜けて攻撃を与えたことはユダには一度もない。だからこそユダはここを超える必要があるのだ。
「──」
隙の無い完璧な構えに対し、ユダが取った行動は至って単純だった。
「うぉぉ!!」
猪突猛進。
「──愚かだ」
愚直に突撃してくるユダに対し、常世は叱責ではなく落胆した。
(確かにこのままだと、受け流されて終わりだ。だけど…!)
眼前に常世が迫ると、ユダは姿勢を低くした。そして完全に常世の間合いに入り、鋭い剣線がユダを捉えた。
「ここだ!」
ここが正念場だとユダは、常世の前を勢い良く滑った。その最中、常世の足を木剣で攻撃し、姿勢を崩す。
無駄な動作を控えて立ち上がり、攻撃を繰り広げようとする。
「ぬぉぉ!!」
「…良かった。しかしまだまだだ!」
姿勢を崩されても尚、常世の剣戟は衰えることを知らない。
(また…負けた!)
通算100回目の敗北を喫しても、ユダは落ち込むことはなかった。
日陰に移動し、思考を直ぐ様に次はどうすればいいのかと、未来に向けたものに切り替えて何が必要かを考える。
乱雑に額の汗を手で拭って思案浸っていると、常世は水の入った木筒をユダに渡す。「ありがとうございます」と、白銀の髪を揺らしながら感謝を伝えると──
「少し休憩を挟もう」
「はい!」
その時、常世の視線がユダ以外に向いていたことをユダは感じ取った。




