第一章五話『ユダの訓練 1』
「体力もある程度ついたことだし、今日からは午前は剣術の訓練を、午後からは引き続き体力づくりをしていくぞ」
そう言われたのは、訓練が始まってから一週間が経った朝であった。
今まで午前から午後までぶっ通しで、体づくりという地獄を体験していたユダにとってそれは嬉しかった。午前だけは、剣術の訓練に逃げることができるのだから。
しかし剣術の訓練の方が、体力づくりよりも地獄なことにユダはすぐに気づくことになる。
「まずは剣術の流派について説明をしようか。剣術は今から1000年ほど前の『三界戦争』の時代に、初代『剣帝』によって確立した技術だ」
もともとこの壮大な世界には、『人族』『天使族』『魔族』の三つの種族がいた。そしてその三つの種族は相容れることはできず、どの種族が世界の覇権を握るかの戦争を起こした。それが『三界戦争』である。
『三界戦争』の開戦当初、『人族』には『天使族』や『魔族』のように強靭な肉体を持たず、さらには彼らの使う特異な術──剣術や魔術を使うことができず、一方的に蹂躙されるしかなかった。そんな中、後に『剣帝』、『魔帝』と呼ばれる存在が『人族』でも扱える魔術と剣術を確立した。
それらは『剣帝』と『魔帝』が術について書いた蔵書や、教え子たちによってより多くの人に伝えられて今日まで伝わっているのだ。
人間にも戦う方法が確立されると、戦争は泥沼状態になり、最終的に世界が『人間界』、『魔界』、『天界』の三つに分かたれ、三種の種族がそれぞれがそれぞれの世界に閉じ込めれる形で、無理やり終わったのである。
そして今のユダが生きているのが三つに別れた世界の中の一つ、人族が生きる『人間界』である。
「そして剣術には三つの流派がある。それぞれ刀剣流、俊剣流、列剣流だ。刀剣流が受け流しやカウンターを用いた剣戟を、俊剣流が素早い剣戟、そして列剣流が威力の高い剣戟を得意にしている。……ここまでが流派についての説明だ。これから階級についての話をする」
「剣術を使う剣士には六つの階級に分けられる。それぞれ初級、中級、上級、豪級、王級だ。例えば俺なら『刀剣流王級剣士』、もしくは『刀剣流剣王』と呼ばれる」
(流派の名前に流派での階級を付け足して呼ぶのか。あれ……今のところ階級は五つしか言われてなくないか)
そう考えが至った時、常世が口を開いた。
「そして流派を超えた剣士、その時代において誰も右に出ることができない剣士に与えられるのが『剣帝』というものだ」
「ユダ君に三つの流派の内どれを教えるかを、今から模擬戦をして適性を見極めて決める。君には中級剣士を目指して頑張ってもらう」
「模擬戦……って、俺は剣なんて振ったことはありませんよ」
「安心してくれ、手加減はちゃんとする」
手加減をする──そう言っても、血反吐や胃酸をぶちまけてしまうようなことをしてくるのが、この常世という男だ。常世の訓練の厳しさもユダの成長を考えてのものだと分かっているため、ユダは常世を恨むようなことはしていない。だからといって、訓練を楽しいものとは絶対に思えないが。
「時間がない。ユダ君剣を握ってくれ」
そう言いながら木剣をユダに渡すと、ユダに有無を言わせずに常世は構えを取った。
なったのだ。




