第一章三十話『最大級の祝福を君に』
──『アアルの目』の捕縛作戦から数日後、ユダの体調は元通りになり休日を楽しむ──否、やるべき事を行っていた。それはテロで亡くなった者たちへの追悼だ。
「……終わったな」
黙禱をしばらく捧げた後、記念碑を眺めながらユダは呟いた。
記念碑──なんて言っても誰の骨も入っていない。だけどもこの追悼はきっと無駄でないとユダは思いたい。
テロを引き起こし、その後の復興を邪魔し続けてきた『アアルの目』、その構成員全員を捕らえた今、ユダの中でのテロはもう終わった。もう後ろを──昔起きた出来事となったテロのことを振り返ることはないだろう。
「無理に終わらせなくてもいいんだよ?」
確かにユダは前を向いて走り出すために、無理に心の中でのテロを終わらそうと思っていた。だがそれはギルドで大罪教と戦ううえで必要なことだったとユダは考えている。
そんなユダの考えをよそにリンは言葉を続ける。
「別に前ばっかりを見る必要もないんじゃないのかな? 後ろを──過去をたまにはを見てもいいと私は思うよ」
「そんな未練がましいことできないんだ。俺は」
一度後ろを見てしまったら過去に囚われ続ける。そのことをユダは分かっていた。故に心の中でけりをつけようとしているのだ。
「大丈夫だよ! もしも……ユダが過去に囚われることになっても私がこの手で引っ張りだしてあげるから!」
そう言って決意を見せたリン。彼女の瞳にユダは引き寄せられた。
(……全く、俺って情けないな)
内心苦笑しながらユダは頬を赤らめる。
「ありがとうリン!」
ユダはリンに助けてもらってばかりだ。
テロの直後のギルドに入隊すると決めた時、『アアルの目』の捕縛作戦の直後、そして今のさっきの出来事。
助けられるばかりのユダは、彼女に何ができるのかを小さな頭を回転させながら考える。
「……なぁリン、テロの日にケーキを食べに行く約束したよな」
それはテロが起きた当日に交わした約束。もしも過去を振り返ることをやめていたのなら、もう二度と思い出すことがなかった代物だ。
「もし……リンが良かったらさ、この後行かないか?」
「うん! そうしよ!!」
いつかの果たせなかった約束、それを果たすためにユダとリンの二人は王都の街を歩き出した。
自分には世界の神と呼ぶべき──『管理者』の座を廻る戦いの渦中にいることを知った。
世界は自分に、大きな者を救う『勇者』になることをもとめていることを知った。
だがユダは、世界なんて大層なもののためではなく、今は目の前の大切な少女──リンとお互いを共に守り合うために戦う。
それがまだちっぽけで弱い『勇者』としてできることと信じて。
リンと共に歩く中、ユダは空を見上げた。
空を渡る純白の雲。普段なら意識することもなかっただろう風景、それが今のユダには何故だか、自分とリンを祝福しているように感じたのだった。
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本作は作者の気が向いたらまた続きを書くかもしれませんが、当分その予定は無いので完結とさせてもらいます。




