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『本日最終話まで投稿!!』世界の悪に全てを奪われた少年、絶望の果てに勇者となる  作者: おう
第一章『アアル王国編』

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第一章二十一話『戦いへ』


 「コホン、みんな静かにしてくれ」


 常世の一言によって、声が入り乱れていた会議室は一気に静かになる。ギルド『第一部隊』の隊員全員が会議室に集まっていた。


 (どんな要件なんだ……?)


 ユダを含めて多くの隊員は今回の召集の要件を知らない。


 「急な話になって申し訳ないが、昨晩、ギルドマスターから『アアルの目』の捕縛作戦を実行するように命令が下った。故に本日それを実行する」

 「……!」


 常世の話を聞いてユダは瞠目した。ようやく回ってきたのだ。テロの復興を邪魔してきた犯罪組織を殴れる機会が。


 (昨晩っていうことは謁見の後か。国王陛下にギルドマスターが命じられたのか?)


 ユダも捕縛作戦が実行されるようになったことを、皆と同じようにここで知った。恐らくユダが城を後にした後の話なのだろう。今のユダたちには知る由もなかった。これがアアル王国の内通者を探すものであることを。


 「詳細は副隊長にお願いする」

 「そういえば『副隊長』って誰なんだ……?」

 

 『副隊長』、その単語を聞いてユダは疑問を口にする。アルデバランや常世から聞いたギルドの説明によれば、部隊は隊長と副隊長とその他の隊員で構成される。 例えば『第一部隊』ならば、隊長は常世で、他の隊員はユダやアルス、フェリスだ。                                    そこで疑問になるのが副隊長だ。ユダは第一部隊の副隊長の顔を知らない。以前の宴会の時には一切顔を合わせていないのだ。だからこそユダは、『副隊長』がどんな人なのかをワクワクしながら前を向く。そして絶望する。


 「ん、それじゃあ、話をするね」


 マナ・イハート、ユダがよくお世話になった桃色の幼女が壇上に立っていた。そしてそれが意味することは、副隊長はマナ・イハートであることである。


 (マジか...幼女を副隊長にするなんてギルドはどうなってんだ?)


 「今回は内通者を探すために、『大罪教』と結託して先日のテロを起こした『アアルの目』と呼ばれる犯罪組織の構成員を捕縛してもらいます」

 「「――っ!!」」


 (内通者がいたのか……!)


 未だに事実を受け入れないユダに反して、他の隊員はその事実を受け入れていた。その様子を見てユダは、驚きを忘れて先達と同じようにその事実を飲み込んだ。


 「なんで内通者を探すために、その組織の構成員を捕縛する必要があるんだ?」


 どこからかマナにそう疑問がかけられる。それにマナは待っていたと言わんばかりににっこりと笑顔を見せて――、


 「今までの大罪教の動きを考えると、恐らく内通者は大罪教と『アアルの目』の連絡係を兼任しているはずなんだ。大罪教の動向が掴めていない以上、内通者と接触したことがあるだろう『アアルの目』の構成員を捕縛してもらいたいの」

「と言っても接触したことがあるのは、恐らく『アアルの目』長、ディアブロだけ。だからといって他の構成員もテロに与した犯罪者。どのみち捕まえることになるから情はいらないよ」


 その幼女の見た目に反して、理知的に説明をするマナ。その姿にユダは、微かながら恐怖を覚えながら話を聞き続ける。


 「それで、捕縛をするために本拠地に突撃する訳なんだけど、それは常世隊長ちゃんに説明をお願いするよ」


 マナがそう言って常世にバトンを渡すと、「コホン」と少し咳払いをして――、


 「第三部隊の調査によって『アアルの目』の本拠地は分かっていて、王都郊外にある森林地帯に『アアルの目』の本拠地はある。そこに俺と副隊長、それから他の20人を含めた合計22人で作戦を行う。その

メンバーについてはこれから名前を呼ぶ」


 そうして常世が作戦メンバーの名前を読んでいく。

その中にはユダと仲良くしているアルスとフェリスの者もあったが、ユダにとっては関係ないものだ。そう思って聞いていると驚くことに常世は、ユダの名前を呼んだ。

あまりの突然のことで頭が追いつかないユダであるが、そんなのはお構いなしに常世は話を続ける。


 「……以上の二十人だ。呼ばれなかった者も、王都に構成員が逃げてくる可能性もあるために十二分に注意しろ。今さっき呼ばれたものは、後ほど作戦内容を詰めるため残ってくれ。それでは解散だ」


 常世がそう話を切り上げると、隊員が続々と会議室から退出してゆく。その中で会議室に残ったユダは、近くにやってきたアルスとフェリスに声をかけられる。


 「良かったじゃないか、ユダ。君の願いが叶って」

 「そうだぜ、王都の復興を邪魔してきた組織をぶっ飛ばしたかったんだろ!」

 「確かに嬉しいけど、本当に俺でいいのか?」


 言葉に多少の誤差はあれど、アルスとフェリスの言っていることは本当だ。


 「ユダはフェリスを倒したんだ、そんな風に考える必要はない」

 「盗み食い野郎を倒しても自信はつかないよ」


 格上のフェリスを倒したことは十分に誇れることであるが、ユダは一切それを良しとはしない。謙虚ではなく、ただ本当にそれが誇れることとは思えないだけである。


 「ここにいる全員、贔屓などで選んだわけでない。理由があって選んだんだ。自信を持っていい」


 あくまでもこの場にいる全員に発した言葉であるが、明らかに自信のないユダに自信をつけさせるものだ。しかし尊敬している師匠にそう言われても、ユダの中の憂いは消えない。憂いが残った状況のまま、常世の作戦内容を聞くのであった。

 

 「……以上だ。本作戦は明日行われる。各々武器の手入れなどを済ませておくように!」

 「「はい!!」」

 「それでは解散だ!」






 ユダは自室で、明日の作戦に備えて剣の手入れをしていた。隣には使い慣れた剣が置かれ、その刃は月明かりを反射して鈍く光る。彼の心の中には、訓練中に常世から教わった剣術の型が何度も繰り返されていた。


 (俺は、本当に戦えるのか……?)


 不安がよぎった。これまでの訓練は、あくまで常世との模擬戦であり、実戦とは全く異なる。相手は人を殺すことを厭わない犯罪者集団だ。


 「大丈夫なのユダ?」


 不意に、部屋の扉がノックされ、リンの声が聞こえた。


 「ああ、大丈夫だよ、リン」


 ユダは剣を鞘に収め、扉を開けた。青髪の幼馴染の少女リンは心配そうな顔で立っていた。


 「眠れないのか?」


 リンを寝台に行くように促して、彼女を寝台に座らせたユダ。万が一が起きないように鞘に収まっている剣を安全そうな場所に置いた。

 すると少し距離を開けてリンの隣に座り、隣に部屋にいる隊員に迷惑にかけないように静かに訪ねた。


 「うん……ちょっとね。明日、大丈夫かなって私が心配なっちゃた」


  少女は微笑した。


 「女の子に心配されるなんて情けないな俺は……」


 ユダが乾いた声で自嘲したのに対してリンは、「そんなことないよ!」と全力で否定した。


 「ユダは凄いんだからさ。もう少し自信を持ちなよ」


 リンの言葉に、ユダは少しだけ心が軽くなるのを感じた。リンの瞳には、かつての弱々しさはなく、強い意志が宿っていた。

 

 「なぁ、俺って本当に戦えると思うか?」

 

 強い意思を持つリンに対して、ユダはまだまだ脆弱な意思を持ってリンに訪ねた。

 

 「私はあんまり詳しい戦闘のこととかあまり言えないけど……きっと大丈夫だと思う。だってさ! ユダはあんなに訓練を頑張ってたんだもん! 常世隊長にボコボコにされながらも!」

 

 誇らしげに語るリンにユダはどこかむず痒さを感じながらも、そっと唇を釣り上げた。

 

 「リンって俺の訓練を見る時間があったのか? リンと俺の訓練の時間は被っていたはずだろう?」

 「べ、別に何でもいいでしょ!!」

 

 ユダの率直な疑問にリンは顔を赤らめた。

 その様子にやってしまったと、後悔をしているとリンが背後に周りユダの首に何かをかけた。

 まさか縄で窒息死させられるのか、そんな笑えない可能性が一瞬だけ思い浮かんだが次の瞬間それは跡形もなく消えた。

 

 「これは...」

 「私からのプレゼントっていうかお守り!! 昨日露店で見つけたんだ! 私は部隊が違うから現地で助けて上げれないけど、これを見て私のことを思い出してがんばってね!!」

 「...ありがとうリン!」

 

 首に掛けられたネックレス。それに美しさとリンの想いをユダは感じ取った。そして、


 「リンも、頑張ろうな」


 ユダは、そっとリンの肩に手を置いた。二人の間には静かな連帯感が生まれた。


 「うん!」


 リンは力強く頷いた。


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