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『本日最終話まで投稿!!』世界の悪に全てを奪われた少年、絶望の果てに勇者となる  作者: おう
第一章『アアル王国編』

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第一章十八話『謁見2』


 「やっぱり復興、進んでますね」


 窓から見る王都の街は、復興を進めていた。かなりの数の魔術が放たれて、ぐちゃぐちゃにされたとは思えない。


 「見た目だけはそうだ。だけど実際は違う。建物はすぐに治っても、人の心は簡単には治らない。それに今もなお、アアルの目が復興の邪魔をしている。アアルの目を潰さない限り、復興は終わらない。そしてテロが終わることも……済まない。ここで話すべきことじゃないな」


 どこか虚ろな目をしていたアルデバランは、苦笑いをして話をやめた。


 「そういえば……どうしてギルド本部はテロの影響を受けていないんですか?」


 ユダは今まで気になっていた質問をアルデバランに聞いた。


 「あ、それ、私も気になってた」

 「単純だ。国の要所には結界魔術の防御結界が張ってあるからだ。それもかなり高度なものがな。その防御結界は単純に外部からの衝撃から守るだけでなく、登録している魔力以外のものは入れないようにしている」


 (外部からの衝撃から守るっていうのは分かるが、登録している魔力以外は入れないようにしてるって言うのはよく分からないな)


 ユダの心を感じ取ったのか、アルデバランが口を開いた。


 「どさくさ紛れて、俺たちのギルド本部や国の要所に悪人が入ってこれないようにするためだ。まあ、アアル王国全土には――おっと、口が滑りすぎた」


 馬を引いている常世が一瞬、こちらを――アルデバランを見ると、アルデバランはわざとらしく口を手で塞いだ。その様子に常世は嘆息して、困った様子をユダたちに見せる。


 「ユダ君たちに諸々の所作を教えなくてもよろしいのですか?」


 常世は事故ることが無いように、前を向いて手綱を離さないようにしながら、アルデバランに言った。


 「向こう側も俺たちにそう言う知識がないことは分かっているはずだ。あまりとやかくは言わないだろう。それに――」

 「それに?」

 「もしも気に障るような行動をして、怒りを買ったのなら俺を断頭すれば済む話だ。……心配する要素は一切ない」


 アルデバランはユダを安心させるために言ったのかもしれないが、ユダは一切安心することはできなかった。


 「悪癖が出ていますよ。ギルドマスター殿」

 「ん? ああ、そうだな。俺の悪い癖だ」


 常世の言葉にふと気づいたのか、「悪い悪い」と軽く謝罪をした。


 「本当にいいんですか……?」


 ユダが心配そうな声色をしながら、アルデバランと常世の両者に所作を教えてもらわなくてもいいのかと尋ねた。


 「付け焼き刃だと逆に王様から反感を得るからな。こういうのは割り切ったほうがいい」

独自の考えを展開するアルデバランに、常世は「全く……困った御方だ」と困った様子で呟いた。


 (常世隊長を困らせるなんて、なかなかギルドマスターもやるな……)


 変人奇人の集まりを統率していることもあって、常世はどんな出来事にも華麗に対応している。そんな常世を困らせるアルデバランに、ユダはちょっとだけ感心した。


 「ギルドマスター殿の言うことに俺も一部は賛成だ」

 「……それでも私は心配だな」

 

 リンはギルドの隊服のスカートの裾を握りしめ、今まで言えなかっただろう思いを静かに吐露した。ギルドマスターの執務室で、彼女はユダよりも早く今回の謁見を決めた。そんな彼女を見てユダは彼女は自分よりも強いと思った。だが実際、リンもユダと同じように弱く、怖かったのだ。


 「大丈夫だよリン。俺がついている……」

 

 リンの右手をユダが握った。今の彼女にユダは何ができるのか、そんな単純なことすら分からない。だけども彼女を頑張って安心させようとして、ユダはリンの手を強くそれでいて優しく握った。


 「ならユダにも私がついているよ……」


 今度はリンがユダの左手を握った。そんなユダとリンの中で青春世界が繰り広げられるところを見る者が一人。


 「……全く。若さは嫌いだ」

 

 馬車内の青春の光景に嫌気がさしたのか、アルデバランは窓から王都の街並みを眺めながらボソッと呟いた。

 

 「ギルドマスター殿も見た目は若いでしょう」

 

 アルデバランと常世の軽口は、ユダとリンの耳に入ることはなかった。






 「――ギルドマスター殿、もうすぐ着きます。そろそろ準備をお願いします」


 常世の言葉によってユダとリンの青春世界は崩れた。常世の言葉を耳にすると、ユダは本能的に馬車の外の光景を見た。

 そして映ったのはアアル王城だ。


 (綺麗だ……)


 遠目から見ることはあっても、こうやって間近でアアル王城を見る機会はなかった。

城は壮大で集美であった。それにいて高度な防御能力を持っているのだから、とんでもない代物だ。


 「あれ……城内はギルドの隊員が守っているわけではないんですね」

 

 ちらっと門の内側が見えたユダはアルデバランに言った。アアル王国の王都の警備を任されているギルドであるが、アアル王城を守るのはギルドの隊員ではなく、品行方正な騎士のような存在だった。

 荒くれ者の集まりのギルドと品行方正な騎士、どちらが綺麗に映るかは語るまでもない。王族や貴族が集まるこの場所でそんな存在は置けなかったのだろう。


 (ギルドよりも隊服がカッコいい……)


 別にギルドのことを悪く言うわけではないが、やはり国直々の存在ということもあってカッコいい。


 「さすがにそこまで民間組織に任せるわけにはいかなかったんだ。向こう側の面子もあったしな。それに今の王城を守っている人たち――アアル騎士団が王国に唯一残っていると言ってもいい、王国の軍事力だからな」

「確かアアル王国は恒久平和を目指しているんですよね」

 

 アアル王国に十数年住んでいるユダであるが、あまり国のことを分かっていない。そんなユダでも知っているのは、アアル王国が永遠の平和、恒久平和を目指していることだ。


 「ユダの言葉通りだ。アアル王国は恒久平和を目指す国だ。そのために戦争の火種となる武力を限りなく減らして、本来騎士団なんかがやる仕事を俺たちに任せているんだ」

 

 恒久平和を目指すアアル王国は、国内の市井でも子供の妄言だと揶揄されることもある。しかしアアル王国は、ただ目標を掲げるだけの国ではない。アルデバランの言った通り、軍事力を限りなく少なくし、本来国が負うべき仕事をギルドが担っている。それ以外にもギルドとアアル王国が深い関係にある理由はあるのだが。

 ともあれ、裏では戦争が起きた場合にはギルドはそれに参戦する約束が交わされており、目標と行動が伴っていないのが現在の状況だ。


 「――ギルドマスター殿とその御一行様、到着をお待ちしておりました。どうぞこちらへ」

 

 アルデバランの顔を見せるだけで検疫を通過すると、ユダたちを乗せた馬車は門の中に入った。そして声をかけてきたのは、先ほどまでアルデバランとの会話で出ていたアアル騎士団の人物だ。

 騎士団の男は、物腰が柔らかい態度で話しかけながら馬車の扉を開ける。降りるように促され、アルデバランは「分かった」と短い言葉だけを発して馬車の外に出た。それに対応して流れるようにユダたちは外に出ようと動き出す。

 そして馬車から出ると、一瞬騎士団の男から鋭い眼光が向けられた。まるでここに来るのが身分不相応と言わんばかりの。


 (田舎出身だから馬鹿にされているのかな……)

 

 そんなユダの考えを他所に、アルデバランは手綱を握る常世に声をかけた。


 「常世、ユダたちが先に戻ってきたら先にギルド本部に返しておいてくれ」

 「承知いたしました」


 二人のやり取りを見ると、時間が押しているのか「もうよろしいでしょうか」と急かすような態度で促す。それにアルデバランが軽く応じると、「では……」と言って体をアアル城の方に向けた。


 「ギルドマスター殿、こちらへ。国王陛下がお待ちしております」


 騎士団の人間は、完璧な所作を持ってユダたちを王城へと案内した。






 アアル王国第137代国王との謁見を行うことになったユダたち一行は、アアル王国騎士団の人間に案内され、アアル城の中にある謁見の場――『謁見の間』を訪れていた。どれをとっても一級品の装飾品に囲まれるこの場所の最奥に存在する玉座。そこに鎮座するのは一人の男だ。


 「よく来たな。『ギルドマスター』、それにアアル魔力大学の生き残りの二人」


 言葉の重みが違った。その口から発せられる一つ一つの言葉に、ユダの命が天秤にかけられているような感覚に襲われる。


 (……長男で良かった)


 次男だったらその気迫からユダはちびってしまっていただろう。現実逃避をするかのようにそう考えていると、アルデバランがギルドマスターとして口を開いた。


 「謁見の場を設けていただきありがとうございます。セクメト・アアル様」


 初めて会う国王に臆するユダを前にして、アルデバランは臆せず挨拶をする。


 「先に話したいと言ったのは余の方なのだ。感謝をされるいわれはないよ」


 先ほどの気迫ある言葉から一転して、セクメトが物腰柔らかく答える。正直、ユダにはセクメトがどのような人間か掴めない。ただ一つ確かなことがあるのであれば。それは最初の挨拶の気迫は確かなものだった。現にユダは赤い絨毯に跪きながらひどく汗をかいている。セクメトの為政者の気迫に押されて。

 

 「その二人は余に挨拶もせぬのか?」

 「――ッ!」

 

 ユダは瞠目した。恐らくリンもだ。極度な緊張感に襲われる中、ユダは苦し紛れの一手を繰り出した。

 

 「ご機嫌うるわしゅうございます。国王陛下」

 

 (失敗した……)

 

 一瞬でユダは確信した。自身が失敗したことを。心なしかアルデバランが、自分のことを蔑むかのような目をしているような気がしてきたユダ。今のユダには全ての人の目が侮蔑の一瞥に見えてしまう。

 

 「礼がなってないな。不敬だぞ」

 

 ユダの学がない故の不恰好な挨拶にセクメトが、礼がなっていないと冷徹な判定を下す。それをされたユダの息が止まる。

 

 「――セクメト様、お戯れはそこまでにください」

 

 次いで聞こえてきた声、それにセクメトは口角を少し上げた。

 老人だった。腰は少し曲がっていてどこか気迫にかけており、特徴的なところというと人の髪かと疑うほどに伸びた白い髭だろうか。

 そんな老人であったがユダは一目で気付いた。この男が現アアル王国の宰相であるオットー・トートスであることを。

 

 「どうした宰相殿、よもや胴と頭を二つ分けてほしいのか?」

 

 オットーに対してセクメトは鋭い眼光を放ちながら対抗した。ここには危うげな雰囲気がある。

 

 「その程度でセクメト様の悪戯心が無くなるのでしたら、私も今まで生き恥を晒してきた甲斐があるものですな」

 「忠臣の分際で、余に物申すのか?」

 

 聞く側はヒヤヒヤする会話を続けるセクメトとオットーであったが、そこには確かな信頼関係があるようにユダには見えた。

 

 「只今忠誠心が無くなってますので、『忠臣』というのは訂正していただきたいですな」

 「フハハ!! よく言うものだな宰相殿は」

 

 セクメトは激怒するどころか、寧ろ笑い飛ばした。

 一体何が起きていたのかと、困惑していたユダは大切なことを思い出した。そう、宰相であるオットーはセクメトの教育係だったのだ。

 幼きときからの関わり、それがこの妙な信頼関係を作り出しているのだとユダは感じた。


 「すまんすまん。宰相の言う通り戯れが すぎた。国王冗句はここで終わりにしよう」


 セクメトが頬を緩ませて、少しも申し訳なさそうにそう答える。やはり掴めないセクメトだが、その答えにユダの止まりかけていた息が再び動き出す。


 (国王冗句って何だよ……)


 なんてクソみたいな冗句だと、ユダは心の中で突っ込んだ。笑ったら不敬罪、笑わなくっても不敬罪、どちらにしても極刑は逃れられないクソみたいな冗句だ。


 「コホン、冗談はさておき本題だ。まずギルドマスターのアルデバラン。貴殿に聞きたいことがある」


 冗談を見せたやり取りとは一変して、セクメトがアルデバラン――というより、ギルドの長『ギルドマスター』に威厳を見せて質問を投げかける。


 「どうぞお手柔らかにお願いします」

 「貴殿、否、ギルドは先日のテロをなぜ未然に防げなかった?」


 この謁見の場が設けられた時に、アルデバランはある程度の話の内容は予測できていた。先日、大罪教とそれに与する組織が起こした大規模テロ、それを未然に阻止できなかったギルドの責任問題が追求されることが。


 「――」


 確かにテロを未然に防ぐことはできなかった。しかしギルドは、テロによって大きな被害を被った王都の復興に尽力している。無論、いくら復興に尽力しようとも、王都の警備を任されている『ギルド』がテロを未然に防げなかったのは由々しき問題ではあるが。


 「――すまない。テロの是非を尋ねるのはお門違いだ。テロを未然に防げなかった責任を追求するので

あれば、それはギルドではなく王室の方だ。余が尋ねたいのは――いや、若い二人がいる前ではやめておこう」


 (国王様もまだ二十代ぐらいだろうに……)


 「ええ、そうですね。その話は二人への話が終わってからの方がよろしいでしょう」


 二人の間で、ユダたちには分からない共通の認識が合ったのか、アルデバランとセクメトの話は一旦休止となった。


 「次にアアル魔力大学の生き残りの二人、ユダとリン・フィオーレ」


 アルデバランとセクメトとのやり取りが一段落すると、セクメトの視線はアアル魔力大学の生き残りの二人、ユダとリン・フィオーレに向かう。そして鋭い眼光がユダとリンに向けられる。


 「貴様らは大罪教に与したのではないのか?」

 

 (は……?)


 予想外。

 まさに予想外なことであった。なぜユダが大罪教との関与を疑われるのか、それはユダには到底理解できなかった。

 『大罪教』――先日のテロを犯罪組織『アアルの目』と結託して起こした、『罪人も善人もなく救済する』という理念を掲げている『大罪者』を崇拝している宗教団体だ。宗教団体とは名乗っているが、一国を滅ぼしたこともある巨悪。そしてその認識はセクメトを含めた世界共通である。


 「そ、そんなこと……」


 喉を震わせながら「そんなことはない」と、そう答えようとした時。セクメトが追撃の一撃をユダたちに下す。


 「貴様らが不気味に生き残っているからだ。なぜお前たちだけが生き残っている?」


 (確かにそうだ……)


 ユダは幸運なことに生き残ったと思っていた。きっとそれはリンも同じはずだ。しかし為政者――多くの知恵者にとって、それをただの幸運で片づけるわけにはいかなかったのだろう。


 「なぜだ?」


 たった三文字の言葉、それにユダは気圧されている。

 玉座に立つ王の気配に、喉がひりつく。足は震え、心臓は破裂しそうだった。

ユダは自分がただの田舎者であることを痛感する。国王に言葉を投げかけるなんて、本来あり得ない。

けれど横を見ると、リンがいた。

彼女の小さな手は汗ばんでいて、必死に震えを隠しているのが分かる。


 (……俺だけじゃない。リンも同じだ。それでも隣に立ってくれてる)


 胸が熱くなった。恐怖に押し潰されそうな心に、彼女の存在が灯をともす。


 「……っ、俺は……俺たちは……!」


 震え声でも、言葉を吐けたのはリンが支えてくれているからだった。必死に否定の声を出そうとした時、太い腕がユダの目に入った。


 「待ってください」


 アルデバランがユダの前に腕を差し出してユダを静止させる。


 「僭越ながら国王様。この二人に大罪教との関係性は一切ありません。それは我々の方で確認済みです」

 「ほう……」

 

 玉座に座るセクメトが値踏みするかのような双眸で、ユダとリンをじっと見つめる。

 

 「余が貴殿の言葉を信じると本当に思うのか?」

 「ええ、確かにそうです。ですからもしこの二人が大罪教と本当に関わっていたのなら私は……」

 「どうするというのだ?」

 「この命を持って、その罪を償いましょう」

 

 アルデバランははっきりと言い切った。


 「貴様の命にそれだけの価値があるとでも?」

 「はい。少なくとも私はこの命がセクメト様、あなたよりも重みがあるものだと思っています」

 

 アルデバランの言葉。

 それが導火線になったかのように、今まで武器を構えて見守るだけであったアアル騎士団の衛兵達が、一気にアルデバランの首を剣で囲んだ。

 一触即発の事態になっても、両者は顔色一つ変えずにお互いをじっと見続ける。

 

 「国王陛下!! ご命令を!!」

 

 アルデバランの発言は侮辱罪にあたる。そして国王に対する侮辱は万死に値する大罪である。

 衛兵達は罪人を殺す命令をセクメトに求める。

 

 「――」

 

 セクメトは黙ったままだった。

 それは命令を出すのが億劫になっているのではなく、ただアルデバランを値踏み をしているかのようにユダの目には写った。

 

 「国王陛下!!」

 

 再度衛兵達は叫んだ。

 衛兵達は怒り狂って、今にもアルデバランの首を切り落としそうだった。

 

 「――」

 

 セクメトは依然として沈黙を続けている。アルデバランもそうだ。

 それに対して衛兵達が再び、首を切り落とす許可を貰おうと声を上げようとした時、鋭い声が謁見の間に響いた。

 

 「武器を降ろせ衛兵達よ」

 「ですが国王陛下。この者は陛下を侮辱したのです! それを見逃せとおっしゃるのですか!?」

 「武器を降ろせと言っているのだ! それが分からぬか! 再び予の前で喋ってみろ! その時に切り落とされるのはアルデバランの首ではなく、貴様の首だ!!」


 この短時間でアルデバランがセクメトの信頼を勝ち取ったのか、アルデバランが弁明するとセクメトは納得する。しかしセクメトの心の中の疑いは、完全に消えたわけではないのだろう。しかしここで完全に疑念を晴らす必要はない。


「失礼した。では、此度のテロで大きな被害を被った者として、あの惨劇の様子を話してはくれぬか?」

「も、勿論です」


 そこからユダとリンは、あの日の惨劇をセクメトに語った。

魔術が構内に放たれそれを直撃して、耐え難い痛みを負ったこと。死体が溢れて、芳醇な死の匂いが漂った『アアル魔力大学』の構内から何とか脱出すると、さらなる惨劇に心が折れたこと。そんな聞いたものを不快にしかしない話を。

 リンは彼女の目線でのあの日の地獄を語った。ユダも聞くのは初めてであったが、ユダの変わらない地獄具合であった。

 セクメトは眉を少しひそめるだけで、そんな聞いたものを不快にしかしない話を、嗚咽の声を漏らすこともなくずっと聞き続けた。そして話を終えるセクメトは――、


 「大儀であった」


 その一言だけを残した。しかしそれだけでも、ユダの心はほんの少し救われた。セクメトにユダが経験したテロの惨劇を話すことによって、きっとこの世界は良い方向に向かうような、そんな気がしたのだから。


 「余のような傑物と話すのは、凡人の貴様らにはいささか苦痛であろう、もう去って良いぞ。衛兵よ! この者たちの案内をしろ!」


 言い方はあれだが、セクメトがユダたちが謁見の場から出ていけるようにしてくれる。その言葉にユダたちは甘え、そのままアアル王城を後にした。


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