第一章十一話『ユダの訓練完!!』
「それじゃぁみんな!ユダの『第一部隊』の正式入隊を祝して!乾杯〜!!」
「「乾杯!!」」
フェリスとの戦いを終えた後、ギルド本部の一室でユダの正式入隊を祝う宴会が行われていた。溢れんばかりの歓喜が場を温め優しく包み込む。ユダはまだ十六歳で酒を飲むことはできないが、この場を十分に楽しむことができた。
『ユダの第一部隊への正式入隊を祝う』という名目で行われているが、実際のところユダに挨拶をしてくる人たちは少ない。本来ならこの宴会の主役ともいえるユダは、色々な人と話すべきなのだろうが、生憎とユダにはそのようなコミュ力はない。そんなユダの元に、一人の黒髪長髪のイケメンがやってくる。 一ヶ月間何度も見たその男は、第一部隊隊長の常世だ。
「ユダ君、この一ヶ月よく頑張った」
常世に労いの言葉をかけられると、ユダは頬を少し赤らめる。
「ありがとうございます!」
一ヶ月間の長いようで短い思い出──主に血と胃酸を吐きながら打ちのめされた思い出──が脳裏にちらつく中、ユダは感謝の言葉を述べてジュースの入ったグラスを交わす。
「正直に言って君がここまでやるとは思っていなかった」
「常世隊長でも見誤るものなんですね」
常世のことを全知全能の神──とまでは思っていないが、珍しいこともあるものだとユダは考えた。
「…やはり君には悪い癖があるな」
「癖…ですか?」
「ああ、君は自分のことを低く見積もり過ぎている。確かに謙遜は美徳かもしれないが、戦場において自分のことを低く見積もる人間は真っ先に死んでしまう」
常世の言葉を受けてユダは背筋が凍る思いをした。しかし──、
「お気遣い感謝します。ですが…なかなかこの癖は抜けないんです」
この性格になったのは何か要因があったわけではない。ただ中々自分のそういった意識は変えることができずにいる。
常世と友好を温めていると、野太い言葉と共に肩を捕まれて、ユダは後ろを向く。
「おー!フェリス──って!酔っ払いすぎだろ!」
まだ宴会が始まってから少ししか経っていないのに、完全に酔っ払っているフェリスを見てユダは驚愕して、常世の方を見る。
「せっかくだ。少しくらい羽目を外させてあげよう」
「少しくらいなんですかね…? というか、酒を飲んでいいんですか?」
それにフェリスは──16歳の未成年、アアル王国では未成年の飲酒は禁じられているはずなのだが、この場にいる誰一人として気にしてないことをユダは指摘する。
「ギルドには色んな国の人間を雇っているからな、まだアアル王国の法律に慣れていない人もいるんだ。まぁ、あまり気にしない方がいい」
(王都を警備する組織がそれでいいのか…?)
「そうだぞユダ、あまり細かいことは気にしないほうが良い」
ユダが真面目な性分なだけなのか、返ってきた問いに戸惑っていると、後ろから聞き馴染みのある声がかけられる。
「…って、お前もベロベロじゃないか!」
フェリスに続いて、アルスが酔った顔をユダに見せる。普段アルスは、知的で真面目そうな顔を見せているだけに、そのギャップにユダは驚く。
「おい」
「何なんだよ!!」
二人の酔っ払いに絡まれユダは困惑する。ユダは酔っ払いの扱いについて一切知らない。故に──、
「常世隊長、ちょっとこの二人をどうにかしてください」
目の前の常世に救援を求めるが、首を横に振って常世はユダを見捨てる。
「っちょと!常世隊長!!」
必死に救援を求めるが、無情にもユダは常世に見捨てられる。そしてユダは二人の酔っ払いに囲まれる。
「うぎゃぁぁ!!」
ユダが声にならない悲鳴をあげた。
──宴会はまだ始まったばかりだった。




