俺と君の関係
ストックしてあって忘れてたやつです。
そういえばX始めました。
「はぁ」
桜が咲き誇るこの季節、俺、霊架はあの日のこと思い出す。十年経った今でも、鮮明に光景が蘇る。
「……か。ねぇ、霊架! 話聞いてるの?」
琴葉に肩を掴まれる。俺と琴葉は幼馴染だ。家も隣で小中高と同じ学校。高校まではクラスさえずっと同じでいつも一緒だった。高校生になった今でもその関係は続いている。俺は琴葉のことが好きだ。でもこの関係を壊したくない自分がいて今でも告白することができない。さっきも新しい制服姿に見惚れていて、話を聞いていなかった。
「ごめんごめん。ぼーっとしてた。それで? なんだって?」
「放課後、部活動見学に行くからどこで集合するって話だよ。高校が始まったばかりなのに、そんなんで大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。放課後は俺が琴葉のクラスに行くから待っててくれればいいよ」
「オッケー。じゃあまた放課後ね!」
「おう。また後で」
いつの間にか高校についていた。琴葉とは正門近くで別れるようにしている。中学校の時に一緒に教室まで行っていたが、クラスメイトからいじられることが多かっため、これはその対策だ。でもここまで一緒に来て、放課後も一緒に行動するとなると意味ない気もするが……。かといってバラバラで登校しようとか、高校では極力話さないとかそういったことはしない。それほどまでに琴葉と一緒にいるのは心地よい。
「おはよう」
「おはよう。今日も彼女と登校か? ったくリア充が」
自分のクラスについた俺は隣の席の静人に挨拶をする。静人は俺達と同じ中学校出身で、すごくチャラい。正直物静かなタイプの俺とはかなり性格が違うが、中学時代から結構仲がいい。だから俺と琴葉のことをよく知っているためこうやっていじってくる。
「ウザ。付き合ってないって。高校ではあまり目立ちたくないからそれやめろって」
「ごめんごめん。でも本当に付き合ってないのか? 側から見たらただのカップルだぞ?」
「中学校からの仲なんだから知ってるだろ? 付き合ってないって。やめてくれって」
「はいはい。わかりましたわかりました」
「本当かよ。はぁ」
静人は終始ヘラヘラ笑っていた。俺もそんな静人との会話が嫌いじゃない。その後は当たり障りのない話をしているとHRが始まり、ガイダンスだけの今日の授業はあっという間に終わった。
「霊架は部活決めた? 俺はサッカー部にしようと思ってるけど一緒にどうだ?」
放課後、静人に誘われる。
「ごめん。今から琴葉と部活動見学行ってそれから決める。でも多分サッカーはやらないな」
「そうですかそうですか。お二人でねぇ。楽しんでください。じゃあまた明日!」
流れるように笑顔でいじって走り去っていく。
「ウザいって。また明日な!」
そんな静人の後ろ姿に声をかけると、俺は琴葉のクラスに向かった。
「琴葉、行くぞー」
琴葉のクラスには高校が始まったばかりで、まだグループができていないためなのか、クラスに残って話している人はおらず、琴葉以外誰もいなかった。
「ごめん。ちょっと体調悪いから部活動見学明日にしていい?」
「それはいいけど大丈夫か? 歩いて帰れそう?」
「なんとか」
「ならさっさと帰ろうか。鞄持つよ」
「ありがとう」
琴葉は少しフラついていた。琴葉は何かイベントがある日に限って体調を崩していたから、俺達にとってはいつものことではあった。
「ごめんね。明日はちゃんと部活動見学行こうね」
「そうだね」
「なんの部活入りたい? 中学校の時みたいに美術部? 霊架はスポーツ万能だし運動部?」
「うーん。運動部は別にいいかな。多分文化部の何かだよ」
「そうなんだ。じゃあ同じ部活に入れるかもね!」
「かもね」
そう言って俺達は笑いながら正門を潜った。俺はこんな日常がこれからも続くと思っていた。この関係が終わらなければいつまでも隣には琴葉がいると思っていた。でもその時は突然訪れた。
「危ない! 避けろ――!!」
突然背後から静人の叫ぶ声が聞こえた。
「きゃあ!」
ドン! 俺が静人の声がする方を向いた途端、隣で琴葉の悲鳴と何かが当たった音がした。慌てて琴葉の方を見ると、琴葉は道路に飛び出していた。
「琴葉!」
琴葉には猛スピードのトラックが近づいていた。トラックの運転手は脇見運転でもしていたのか琴葉に気づいていない。俺はすぐに走り出す。
「霊架……バイバイ」
ドンッ! グシャッ! キ――!
最後に聞いた琴葉の言葉はそれだった。琴葉は笑っていた。自分の運命がわかっていたようだった。俺は間に合わなかった。琴葉の体が吹き飛んでいくのをただ見ていることしかできなかった。
「琴葉! 琴葉! 琴葉!」
琴葉に駆け寄り声をかけるが、琴葉はもう動かなかった。俺もわかっている。もう死んでいるということを。
「「「キャ――!」」」
「救急車! 早く救急車を呼べ!」
辺りが騒がしくなったようだ。俺は放心状態だったため琴葉が運ばれていき、静人に声をかけられるまで俺は何もわからなかった。
後日、琴葉の葬儀が終わり、ようやく琴葉が死んだことを理解した俺はなぜか静人に呼び出された。
「どうしたんだ?」
琴葉が死んだ日から静人はずっと暗い顔をしていた。話しかけられても上の空だった。でも今は辛そうな顔をしている。
「ごめん! 俺のせいなんだ! 俺の蹴ったボールが琴葉に当たったんだ! 琴葉を殺したのは俺だ! 本当にごめん!」
静人がいきなり頭を下げ、俺にとっては衝撃的な告白をする。俺もなんとなくそうじゃないかと思っていた。琴葉に駆け寄る時に近くに跳ねているサッカーボールがあったのが見えた。だからそういうことなんだろう。
「……静人のせいじゃない。誰も、琴葉も恨んでないよ」
正直、静人に対する恨みがないと言えば嘘になる。でもこれは運が悪かったとしか言いようがない。
「ごめん。本当にごめん」
「もう謝らなくていいって。な? 元気出してくれって。静人は笑顔の方がいいから」
「ありがとう……ありがとう!」
俺は静人の肩に手を置く。静人は泣いていた。罪悪感からか、許されたからか、それはわからない。でも笑顔にはなった。
「これでいいんだよね。琴葉」
俺の小さな独り言は誰にも聞こえていない。でも確かに伝わったようだ。
「十年経ったんだよ」
俺の周りをフヨフヨと浮かんでいる琴葉に声をかける。琴葉が死んだ次の日から、俺には琴葉の姿が見えていた。何かを伝えるのでもなく、ただいつも目の前にいる。
「愛しているよ。琴葉」
琴葉が見えるようになったその日から、毎日言っている。俺達は多分これからも一緒なんだ。この関係はいつまでも続く……