第一章 殺し屋なんてやってられるか
右手には血の付いたドスが握られて、ダッシュで逃げる黒服の少女がいる。
「待てオラぁ!」
後ろからは黒服の男たちが日本刀や拳銃を手にして追いかけて来る。
少女は庭においてある黒塗りの高級車に乗り込み無免許で急発進した。
車が突っ込むと木製の門は閂がへし折れて開け放たれた。
少女はとにかくアクセルベタ踏みで行く当てもなく逃げ続けた。
この少女の名は偏理ルア、指定暴力団山帝会四条組のヒットマン(殺し屋)である。
彼女は幼い頃に四条組に引き取られ、善悪の区別がつく前にヒットマンとして育てられた。
しかし、あまりにも過酷な任務続きであったため、ルアは嫌気が指して後ろからナイフで喉を掻き切り四条組構成員を7名殺害して逃亡した。
「待たんかいコラぁ!」
後ろからは四条組構成員が車で追ってきている。
しかし、ルアは交差点の信号を無視して通過することで四条組構成員の車と距離を開けた。
車通りが多く、間を通過することが出来ないため、四条組構成員の車は足止めを食らう。
その間も彼女はひたすらにアクセルを踏み続けた。
すると次第に山道に入っていった。
道はくねくねと峠道になっているために無免許のルアには運転が難しい。
そんな時、曲がり角に現れたランドセルを背負った少女を思いっきり跳ね飛ばしてしまった。
ランドセルを背負った少女はボンネットに乗り上げてぐったりとしている。
少女は殺し屋としての経験で一目で即死だと分かった。
が、それと同時にあることに気付いた。
ランドセルを背負った少女は自分と瓜二つの見た目をしているのである。
年齢や背格好もまるで同じである。
そこで少女は咄嗟に急ブレーキを踏んで車を止めた。
そして、自らが着ている服を脱いだ。
少女の死体から服をはぎ取るとそれを着て、少女の死体には自らの服を着せた。
その後、少女の死体を車の運転席へと移動させると、車のシフトレバーをニュートラルにした。
後ろから車を押すとそのまま車は崖へと転落した。
そう、自身の死の偽装工作である。
ルアは近くの茂みに身を潜めた。
しばらくすると四条組構成員の車が到着した。
轍から車の場所を特定すると先ほどの少女の死を確認した。
四条組構成員の一人がどこかに連絡すると少女の亡骸を攫って去っていった。
これでルアは逃げ切りが成功し、晴れて自由の身になったのである。
しかし、ルアは若干12歳、小学6年生の歳である。
殺ししか知らない彼女が1人で生きていく事は難しいため、殺した少女に成りすまして大人になるまでやり過ごそうと考えた。
ランドセルを漁ると殺した少女の名前が分かった。
『偏理ルカ』
なんと自分と同じ苗字に近い名前である。
ルアはその名前を気に入った。
「今日から私は偏理ルカだ」
ルア改めルカはそう言った。
それからランドセルを隈なく探したが住所の分かる書類は入っていなかった。
しかし、珍しい苗字であるから表札を見れば分かるだろうと踏んで山道を歩き始めた。
確か私が殺した少女はこっちの方角に歩いていたからこっちに家があるはず...。
ほどなくすると小さな集落が見えてきた。
「へぇ、きっとこの中に私の家があるね」
ルカはそう言って集落の入口へと向かうのであった。