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「点と点を繋ぐ時」

…その後教室には、いつものざわめきが満ちていた、いや、「いつもの」ではないざわめきか。


陽射しが窓ガラスを通して床に揺れ、騒がしい会話が行き交う。ノートを広げ、頬杖をつきながらも、綾人は耳に飛び込んでくる会話の切れ端に集中していた。


「……なあ、昨日の東棟での事故、やっぱおかしくね?あれってさあ、やっぱさあ、あれじゃね?」

「え、100%ポストヒューマン繋がりだろ?能力の暴走だって、じゃなきゃあんなのありえないでしょ?」

「あんた達まーたそーの話?ただの設備トラブルだってー。先生もそう言ってたじゃん。」

「いやでもよー。」

「はい、この話はおしまい、どのみち私達には関係のない話なんだからさ、学園にも大きなダメージなかったし…っていうか工事早いよね。もうほとんど修復してるし。」


「まあ実際何も見てねーからどっちかーとかそんな事どこかのタイミングで「どうでもいいかも」ってなるんだけどさ。あーでもっ!それって絶対やばくってあいつらって本当にいるんだろ?しかも学園内でこのところ頻繁に事件とか起こして、何かヤバくね?俺ら大丈夫なの?」


"ポストヒューマン"、"能力"、"暴走"―そんな言葉が、学生たちの会話の中で当たり前のように飛び交っている。けれど、今のところそれはあくまで「他人事」だ。どこか好奇心と娯楽の延長線上にあり、心のどこかで「自分たちは関係ない」と信じたいのだろう。でも、皆が感じ始めた様に「他人事」だったことがある日急に「自分の中に入ってくる」恐怖、なのか不安なのかわからない感情に切り替わっていた。


(……何もなかったことにしたいんだろうな。都合悪いことはそうするしな…)


数日前の"事件"は、教職員の説明によって「火災装置の誤作動によって予想以上の被害が出た事故」としてあっさり片付けられた。だがその説明に本気で納得している生徒などいない、と思う。このところ頻繁に起こる不審な出来事を鑑みると当たり前だ。それでも、平穏を装うことで不安を皆遠ざけているのだ。綾人自身もまた、そんな平穏に自分を当てはめようとした。だが——。


ザワ…


胸の奥で小さな「ざわめき」が鳴り続けている。何かが引っかかる。それは日常に溶け込む異物のようで、見えない違和感が綾人を苛んでいた。


---


屋上:リリアンとの邂逅


昼休み、綾人は自然と屋上へと足を運んでいた。窓の外には風が気持ちよく吹き抜け、階段を上がるたびに少しずつ騒がしさが遠のいていく。


「……...また君か…」


静かなはずの屋上には、やはり彼女がいた。金髪を風に揺らし、手すりにもたれかかって空を見つめるリリアン・アストラ。


「……一人でいたくて、静かな場所が欲しかったんだんだけどね、またもや先約か。」


「ふふ、偶然ね。私もよ。」


彼女はくすりと笑い、風に髪をなびかせながらこちらを振り向く。彼女の微笑みにはどこか猫のようなきまぐれ、相手を考えない遠慮なさが感じられるが、反面、どこか人を試すような雰囲気がある。


「……君、何か考え込んでるでしょ。」


「別に。」

綾人はそっけなく答えつつも、彼女の言葉に内心驚く。自分の中にある違和感を、まるで見透かされているかのようだった。


「隠さなくていいわ。君、相変わらず?と言いたいけど最近ちょっと特に変だもの。」


「……何が言いたいんだよ。」


「……ざわめき。」


その言葉に、綾人の心臓が一瞬止まる。


「……なんだと?」


「ほら、当ててみせたでしょ?」

リリアンはふわりと笑い、手すりに肘をついた。その瞳が、まっすぐに綾人を見つめる。


「なんなんだよ?なんでお前がそんなことを知ってる、じゃなかった、言うんだよ?」


綾人は少し動揺し、声を荒げたが、彼女はむしろ予想してたかのよう、動じない。ただ、ほんの一瞬だけ、刹那の瞬間彼女の表情が変わった。何かを言いかけたような、痛みのような表情——だが、それはすぐ元の明るい笑顔へと戻る。


「……知りたい?それはねぇ……あなたが気になるからよ。」


「は、えっ、な、な何を…?」


あまりにも自然に放たれたその言葉に、綾人は思わず動揺する。


「転校してきたばかりの君が、どうにも"普通じゃない"って私の勘が言ってるの。」


「……っ。勘?」


「そう、私の勘は鋭いのよ。」

リリアンは笑う。だが、その笑顔には何か隠されたものがあるように見える。


「前から、というか初めて会った時からだけどこの際…君は、何者なんだ?僕の何を知ってる?」


問い詰める綾人に、リリアンは一瞬だけ視線を外し、そして再び彼を見つめた。


「さぁてね、今は、ただのクラスメイトよ。」


「……。」


彼女の言葉は真実なのか、それとも偽りなのか。綾人には分からなかった。ただ、その視線が妙に心に残る。


「話を戻そう。綾人君、ねえ、君は何を見つけようとしているの?」


そういえば名前って教えたっけ?まあ同じクラスだから名前知ってて当然と言えばそうか....


「……何も。」


「嘘ね。君は気づいてる。点と点が繋がり始めてることに。」


彼女の言葉に、綾人は言葉を失う。ポストヒューマンによるこのところの事件、僕の能力の変化、何よりも公安と学生という二面性を持った生活が始まってからの周りの状況....何かがいつもと違う、おかしいと思いながら、ただそれぞれは単なる「出来事」であり「事故」であって、それらには何のつながりもない、と思っていた。リリアンはその「繋がり」のような何かを知っているのか?……だが彼女はそれ以上何も言わず、手すりから離れて屋上の扉を開き走り去った。


(……何なんだ、あいつ。)


残された綾人は、風に吹かれながら彼女の言葉を反芻する。点と点、線でつなげるための何か——何かが繋がる予感が胸のざわめきをさらに強くしていた。


---


封鎖された扉


放課後、綾人は学園内を歩きながら思考を巡らせていた。

リリアンの言葉が脳裏にこびりついて離れない。


(点と点が繋がる……。どういう意味だ?)


特に目的地を決めず歩いていたからか、気が付けば校舎の隅にある、普段は誰も通らない西棟の廊下に辿り着いた。その時、綾人の胸のざわめきが突然強まった。


「ここって……。」


目の前には錆びた鉄扉があった。普段は目にすることもない場所——しかし、今は確実に何かが"そこ"にあると感じる。


(……なんだ、この感じ。この扉の向こうには何がある?)


扉に手をかけた時、後ろから声が響いた。


「おい!」


振り向くと、そこには暁星レオンが立っていた。彼の目は冷ややかに綾人を見つめている。


「何を探している?」


「お前こそ……なんでこんなところにいるんだよ。何かあるのか?ここには?」


レオンは口元に笑みを浮かべる。だが、その笑みには挑発的な何かが滲んでいた。


「ははっ、わからないでここに来たのか……まあいい、お前には何の意味、知る必要はない所だ。だが、一応忠告はしておく。深入りするなよ。」


それだけ言い残し、レオンはその場を去っていった。


(?深入りって、何言ってんだあいつ。でも、やっぱり……何かある。)


綾人は静かに息を吐き、胸のざわめきと向き合う。何かが、確実に動き始めている。


---


エピローグ:「点と点はまだ繋がらない」


夜。リリアンは誰もいない校舎裏で一人、通信デバイスを手に取る。連絡先はわからない。


「……彼が気づき始めたわ。」


相手の声は聞こえないが、彼女の表情は複雑だった。


「ええ、でも……まだ早い。彼を巻き込みたくないの。」


通信を終えたリリアンは、静かに夜空を見上げた。


「綾人……君は何を見つけるつもり?」


そうつぶやく彼女の表情は、さっき綾人に見せた刹那の表情そのものだった。


---


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