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「変わった世界と変わらない日常」

激変した世界、「ポストヒューマン」として新たな力に目覚める物たちの存在。大きく変わった世界の中で「僕」はどう「普通」になれるのか。

2019年以降、パンデミックが世界を覆い包み、結果、僕たちの日常は大きく変わらざるをえなかった。感染症は都市機能、その生活を一変、荒廃させ、日本のみならず地球規模の被害、混乱をさらに広げた。戦争、物価高騰、政治体制の変化という、その後数年、各国間での秘密裏な協議がなされたが、大きな成果は得られず、数年が経った頃、日本はその混乱を自国の努力で「比較的」早く収束させることができたレアなケースとなった。ただしその事で、多くの富裕層が新天地を求めてこぞって集まる国となったのは現在の現実である、つまりもうここは日本人だけの国では無いのだ。


その結果、日本各地、特に東京においては、国際色豊かな都市へと変貌した。昔ながらの「日本語が第一言語、英語は第二言語」なんて言われていた常識は昔話とされ、今では言語の「多様性」に対応することが生活の基盤の一部となっている。当然のことながらこれには一定量の反発があり、特に「日本万歳」を掲げる団体からは「異国の地を神聖な日本に入れるな」とか「日本人の尊厳を」等のデモが所々で起こり、時々乱闘騒ぎにまでなっている始末である。しかしそこは商売が得意な日本人。この言語、生活様式の複雑さを解消するため、日本政府と企業(背景には移民してきた貴族たち除く企業が絡んでいると言われている)はそれぞれの情報、技術次第を惜しげもなく投与、協力して、遂に、耳に引っ掛ける小型翻訳ガジェット「オーロラリング」を開発。異なる言語を話す人々をつなぐこのデバイスは、今や日常生活に溶け込んでいる。


僕が今日から通う「日本橋ネオアカデミー」は、この新しい日本、東京の日常の象徴であるともいえる。かつて「東京都立日本橋高校」という名のもとに、オフィスビルが連なる大手町の雑踏の中にポツンとその「コの字」型の古びた校舎がだれに迷惑をかけるでもなく何十年と存在していたが、近隣に日本支部を構えていたIBMの協力を得てその様子は激変。建物は再編され、多文化対応の教育システムを持つ未来型の学校に生まれ変わった。校舎内では、多民族、生まれも育ちも異なる同世代の学生たちが日本語と英語(時には他のヨーロッパ言語、その他)が自然に飛び交い、様々な言語が交わる教室内はまるで小さな国際都市、ワールドカンファレンスそのものだ。


だが正直、僕はこの新しい環境に馴染むだけで手一杯だった。公安特別対策課からの依頼を受ける為の条件として、高倉さんの元バディでもあったMs. ローラ・オニキスから出された条件「何も能力を使うな。普通を過ごせ」をいうどうやって制御したらいいかまだわからないものに対する能力に対して、それを遂行するためこの学校に入ったものの、僕の「能力」はまだしっかりとした訓練、実戦経験なんて皆無であり、どこでどう発動、最悪何かしてしまう可能性の高い状況で放り込まれた流れで、ここで何をどう成すことで「普通」を達成できるのか、正直未だに結論には至らない状況だ。

---

「今日からこのクラスに入ることになった、真嶋綾人です……皆さんよろしくお願いします。」


自己紹介を終えると、拍手とともに「Hi!」「Welcome!」「よろ~」等々、それぞれ温度感、言語の違う形での歓迎を受けることとなった。僕は軽く頭を下げ、指示された空いている席に腰を下ろした。

教室ではほとんどの生徒が耳にオーロラリングをつけている。これは前にも言ったように、スムースに皆のコミュニケーションに対応するためであり、この学校内では当たり前の光景だ。日本語を話しているように聞こえる声も、多くは英語や他言語が翻訳されたものだ。

理由としては、日本と言う国が、このところ円安、その割に


「あれ?……なんで?」


僕の隣の席、きれいな銀髪の女の子が僕をじっと見ていた。彼女は、僕が耳にオーロラリングをつけていないことに気づいたらしい。


「どうしてオーロラリングをつけてないの?」

「……んー必要ないから、かな。」


僕はシンプルに答えたが、彼女の疑問は消えていないようだった。


「じゃあ、英語とか他の言語、どこで学んだの?」

「いろいろな場所で、かな。」


僕が適当に答えると、彼女はほんの少し眉をひそめて首をかしげた。


「……変わった人ね。」

「私はリリアン、、リリアン・ルナ。よろしく」

「よろしく、真嶋綾人です」


リリアンはそれ以上何も聞いてこなかった。ただ、その冷たい瞳の裏で僕の言葉を彼女のどこかに記録したような気がした。

---

屋上での邂逅:

昼休み、僕は階段を上がり屋上へ向かった。最新技術で翻訳された皆の言葉を聞くことはある意味新鮮で教室の中も活気があり楽しい雰囲気だが、そのあまりにもよくできた機能が、言葉の意味、重さをなくる形となり僕には、どこか非現実的で息苦しい、そんな感じがした。そのせいか、昼のフリータイムは屋上へ、そこで得られる静けさは、そんな自分にとっていいかと感じて足は自然に階段を上っていた。

しかし、屋上にはすでに先客がいた。


「あら……偶然ね」


銀色の髪に月夜のような瞳を持つ少女、リリアン・ルナが手すりにもたれ、空を見上げていた。


「まあ、静かだからね」


僕が答えると、彼女は微かに笑った。


「静かな場所って少ないものね。この辺りは特に」


彼女の視線は近隣の人形町の商店街を彷徨っていた。甘味処の暖簾が風に揺れ、放課後を楽しむ学生や観光客で賑わっているのが見える。


「転校初日、大変だった?」

「?、うーん、転校多かったから、慣れてると思うんだけど……どうかな。」


嘘だと分かっていても、そう答えるしかなかった。正直あまり周りの人間とは関わりを持たないよう過ごしてきたし、今後の為にもそうしたいと思っていたんだけど、思った以上に学校と言う閉鎖的環境はそれを許さないらしく、一人の時間は学校内ではなかなか取れそうにない。

これからマシンガントーク、質疑応答が始まるのかと、念のため昨日考えて降りた過去のシナリオを頭の引き出しから出して用意、と思っていたがリリアンは何も聞き返さず、再び空を見上げた。


「……何か、「変わる」時って理解できる?……感じるのよね。」


その言葉に、胸の奥がざわつく。あれ?いつもの感覚だ。何かが起きる予兆。

刹那、視界の端に、一瞬、映像のようなものが浮かぶ。天井から吊るされた古びた放送用スピーカーが体育館の床に落下する瞬間。それが何を意味するのかは分からないが、放っておけない気持ちだけは確かだった。

リリアンが僕の表情を見て、少しだけ視線を鋭くする。


「……行くの?」

「いや、その……ちょっと。多分行かないと」


言葉を濁す僕に、彼女は少し皮肉った笑みを受けべ「ふうん」とだけ呟いた。

---

胸のざわめきが強まり、僕は無意識に駆け出していた。学校の構造を完全に把握していないため、体育館に辿り着くまでに何度も廊下を曲がり、階段を駆け下りる。


「……間に合うのか?……」


息が切れる、ふりをする。自分がただの高校生だという(事を演じなければいけない)為適当にそれを演じないと今以上に見られてしまう、でも早くいかないと……このタイプのざわつきは、間に合わなければ取り返しのつかないことが起きるという類のものなのは感覚的に理解していてそのおかげで公安にも買われている。つまり急がないと何かが起こってしまう。

体育館の重い扉を開けると、中では数十人のバスケ部員がそれぞれ練習をしていた。ボールを追いかける声、響くドリブル音。だが、僕の視線はすぐに天井へ向かう。吊るされたスピーカーが突然奇妙に不安定に揺れだし、落下寸前の状態になっている。


「危ない!」


咄嗟に大声を上げながらコートへ走り込み、プレイヤーたちを強引に引き離した。


「WTF⁉ 何だよ⁉ 急に!」

「ちょっと、誰だお前?」


練習を邪魔される形で、しかも意味もわからず。困惑する声が飛び交う中僕は皆をコートの端に無理やり追いやる。

次の瞬間、スピーカーを取り付けていた金具から異様な音が発せられ、壊れ、大きな音を立てて床に落下した。体育館中にしっかり声が届くようそれなりの大きさを備えたスピーカーはその重さで破片が跳ね、思った以上に破片が飛び散り、部員含めその場にいた生徒たちが驚きの声を上げる。


「WTF!?……なんで分かったの?」


最初にコートから押しやった部員の一人が僕に詰め寄る。その視線には、不安と疑念が入り混じっていた。


「……ただの……直感だよ。」


苦し紛れにそう答えたが、明らかにその回答は間違えだったようで、その場の空気は凍りついたままだった。それどころか大事故になることを「直感?」「ただの?」で一連の不可解なアクションをした僕への質問の弾丸はむしろ止む事なく、実際囲みインタビューの様相を呈してきた。その時、雑踏が集まる中から「にゅっ」とか細い、しかしシルクのような手がぼくの手を掴んできた。


「That's enough (もういいでしょう)」


リリアンだ。そう言うと彼女は畑仕事で野菜を引っこ抜くように僕の事を一気に群衆から引き抜き、その反動で勢いよく出口に向かうよう走り出し、体育館を後にした。その時の僕は、彼女のか細い手から当たり米のように導かれて進んでいることを、彼女に操られるようだ、と思った。


……数分走っただろうか。廊下を歩きながら、ふと胸が痛む。

——高倉さんのことを思い出すいつものサインだ。


「普通の生活を送れ。」


高倉さんの言葉が胸に響く。彼の死を受け入れるのに時間はかかったが、その後、彼のバディであったローラ・オニキスに出会ったことで、僕は前を向けるようになった。彼女は僕に、高倉さんの遺志を引き継いで生きることを求めた。

そして今、この学校にいる。まだ自分が何をすべきか分からないけれど、1日目の今日に関しては少なくとも、僕の描く「普通の学園生活」はかなり離れた結果となってしまっていて、正直この「普通」をする事は本当に可能なのか?と断トツにネガティブテンションで絶賛トボトボ歩行中であった。


ただ、ある一点から変わっていないのが、体育館を出てからもずっとリリアンが僕の手を握り締め、引き続き廊下から教室の方に歩みを進めている。コツコツコツ。教室に入り荷物を取ると今度はげた箱へ。彼女の基礎機的なローファーの歩行音を聞いていると何故だか僕の中の胸のざわめきが収まっていく。

校舎を出てから少し、彼女に聞いてみた。


「あの……ありがとう。何か助かった……というべきだよな、でもどうして来たんだ?」

「見てたのよ、屋上から。君が体育館に駆け込む姿を」


彼女の答えには妙な静けさがあった。


「それにしても、危なかったわね。君の動き、まるで新人が何も見当なしに現場に突っ込みに行ったみたいで……ヒヤッとしたわ」


彼女のそのフラットな軽い言葉のトーンに、僕は思わず普通に買えそうになったが、何か引っ掛かる。だから何も言えなかった。実際、今日の僕の言動、動きは途中までは「普通」を完璧に装っていたのに……何があるかわからない。僕の右手はまだ彼女の左手につかまれたまま、でも次に何があっても良いよう呼吸を整えることに集中し始めた、彼女の言葉の意味は一体……思考が追いつかない。


「君は……」


何かを聞きかけた時、リリアンが僕の腕をグッと引いて言った。


「綾人くん、いや彩人、このままじゃ、また同じことを繰り返して、結果周りに色々勘繰られるわよ、最悪「ポストヒューマン、能力者」として……とりあえず行きましょう。」


リリアンは半ば強引に、学校を逃げるように後にすることになった。

---

人形町の商店街は活気に満ちていた。甘味処やもんじゃ焼き屋から漂う香りが、疲れた体を少しだけ癒してくれる気がする。

学校の近く、浅草に並ぶ昔ながらの江戸の街として人々に知られている人形町。ここは、江戸時代から続く歴史ある街だ。名前の由来は、かつてこの場所で人形芝居や歌舞伎が盛んだったことにある。人形師や職人が多く住み、文化の中心地として賑わっていたらしく、時代が進むにつれ芝居は衰退、その代わりに飲食店や商店街が栄えるようになったそうだ。

戦後の復興期には、多くの人が地元で再び商売を始め、庶民的な食文化が根付いた。特に人気が高かったのが、手軽に作れてみんなで楽しめる「もんじゃ焼き」。もともとは「文字焼き」として子どもの遊び食べ物だったらしいが、大人も楽しむ料理として定着したとか。

今では商店街にはいくつものもんじゃ焼き屋が並び、放課後の学生や観光客で賑わっている。学校近くの老舗「月見や」は、地元で愛され続けている店で、もんじゃ焼きの定番メニューからちょっと変わったトッピングまで幅広く楽しめる。


僕は今日までの事務作業、引越しやら諸々、あってまだどのお店にも入ったことはないけど、歩いていてもわかる甘いソースの香りが通り中漂ってくる、正直ちょっとだけ覗いてみたくなる。きっとここで焼かれるもんじゃ焼きには、昔から続く街の温かさが詰まっているのだろう。


「綾人君。いや、綾人と呼んでいいかしら」


手を繋いでいる反対の手で起用にスマホをいじりながら、彼女が名前を呼ぶと、胸のざわめきが再び小さく響く。マルチタスクとはよく言うが、携帯で色々入力しながら反対の手で今日会ったばかりの男子人を引っ張るのはいかがなものかと思い思わず口走ってしまった。


「何やってんの?ってどこに向かってるの、僕ら」

「・・・記録しているのよ。」


スマホの書き込みに集中している彼女は現代病でもある「歩き携帯」そのものだがどこに第二の眼があるのか知らないが、向かってくる人、物、全てをするするかわして行く。

数分後、スマホへの報告?を終えた彼女は信号手前で立ち止まり、僕をじっと見つめた。


「転校初日なのになんだか色々と危なかったわね、体育館で。」


彼女がその場で色々と助けてくれたことは確かだし、転校1日目の僕にここまで付き合ってくれる事は怪しさを感じつつも不思議と嬉しさもあるんだけど。でも、それでも拭いきれない気持ちが思わず言葉に出てしまった。


「なんでそんなに僕の事を色々聞きたがるの?」

「え、だって君も感じるんでしょ?何かが変わる時のざわめきを。この感覚ってなんていうんだっけ・・・あ!そうだ、”ポストヒューマンの恩恵”!」


・・・帰宅後。今日の、僕なりの「普通の生活」を過ごしてみて色々と思い返す、それは訓練のときに学んだ同じミスを繰り返さないための「ルーティーン」の一つとして毎日やっていることだ。ただ今日のあれは、思ってた学園生活?普通の生活?とはどこか違うような、胸のざわめきがさらに鮮明になるような日だったんじゃなかったんじゃないの?リリアンって誰?彼女もまさか・・・?あの時の言葉が、その感覚をさらに揺さぶる。会うから数日学校へ。週末は公安でローラとの1on1セッション。・・・正直何から話せばいいんだろう。「普通」なことが少なすぎる、その上で彼女の存在。あれは僕の力や未来に深く関わるものでないか、と本能的に感じ始めていた。

第一話でございます。今回近未来ということで直近に起こったパンデミック。これが原因で一旦世界崩壊を起こしたとしたら、またその混沌とするなかで特異として生み出された人に付与された能力。あまりの数、感染率のため、通常のヒューマンビューイングとは同列化出来ないことから新たな「ポストヒューマン」という言葉をうみ、それらとの新しい世界的な共存をはじめる人類。「普通」を綾人は守ることが出来るのでしょうか。。。ご興味があればまた続きをご覧ください。

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