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序章:見えない未来、変わる世界

2019年12月。僕が9歳だったあの冬、この世界は終わりの見えない変化を始めた。


中国・武漢で発見された新型ウイルス(コロナウイルス=COVID-19)は、ニュースで取り上げられたとき、どこか遠い国の出来事だと、他人事だと思われていた。最初は原因不明の肺炎として注目され他そのウイルスは、あるところから感染者が爆発的に急増、街の病院、クリニックが次々に埋まり、「ロックダウン」という区域、ある時は都市全体が政府の指示によって封鎖された。「なんかやばくない?」などと毎日ニュースで報道される被害、感染スピードを見ていると、同じアジア圏の人間として、だがどこか遠いあり得ないフィクションなどのように、自分たちがリアルタイムなアトラクションに参加しているような奇妙で恐ろしい、でも少しその空気感に高揚する不思議な感覚に感情が切り替わっていくのが感じられた。


コロナウイルス。その爆発的スピード、特異な性質から未だに決定的なウイルスが見つからない。それはほんの数週間で世界を飲み込んだ。僕たちが住む国もその例外ではなく、2020年1月に初めて観測(人を苗処にして感染、やってきたとされている)。政府も水際対策とし、海路、空港での抑え込みを図ったが結果として完全な対策が取れないまま、様々な感染ルートを使いこのウイルスが徐々に、「今日の感染者はXX名」とどのチャンネルもアナウンスしていた数ヶ月を過ぎ、現在は結果として街からマスクの販売コーナーが無くなり、マスクと防護服を着た人達が週に一度、消毒液を撒き、匂いが満ち、学校、地域は閉鎖され、商店街から人の気配が消えていった。俗にいう「緊急事態宣言」である。

ニュースは連日、世界中で起こっているこのパンデミックを終わりのない情報共有としてアナウンサーの義務として淡々と放送するようになった、もうそこには「感染者」「死亡者」という言葉は無くなっていた。それを証明するように、NewYorkでは、増え続ける死者数を収めておく場所が確保できないと言う報道が飛び交い、YouTube等の規制前の映像で、冷蔵トラックが遺体を運び、これも火葬場が追いつかずない事から穴を掘ってその中で丸焼きする異常な日常が流れ、インドでは、ガンジス川沿いに無造作に積み上げられる遺体の山がモザイクなしに映像として流れていた。


「…大変だな、これは……まあしかし数か月〜もたてばワクチンが開発さて、あっという間にまた元の生活に戻れるさ。」

父は世間一般の言葉を拾い、恐怖を潰して、オウム返しのように繰り返し呟きながら、テレビ画面をじっと見つめていた。


僕には、その言葉が「嘘」だと分かっていた。いや、嘘だと「感じていた」—僕の胸の奥にはその頃から小さなざわめきが広がり、確かに今までの日常が壊れていく音が聞こえるようになった。これは小さい頃からの僕にはよくある「得体の知れない感覚」である。


…その頃の僕たち家族は、浅草の小さな工房で暮らしていた。

父は三代続く革職人で「江戸伝統工芸職人」という立派な資格を持ち、時にはテレビに出るなど表の商店街に対抗するように裏の問屋街エリアで活躍していた、母は大阪出身の父の所有していた皮製品加工工場に勤めていた工員だったらしい。我の強い父と受け身中心の母はよく口喧嘩(ほぼ父がまくし立てていただけ)をしていたが、そんな中でも互いを支え合いながら僕を育ててくれた、結果的にはいい両親だったと思う。浅草の商店街も地元の人たちや、観光客でいつも賑やかで、毎月のように行われていた近所の祭りや仲見世通りの喧騒が、家の窓を開けるといつも聞こえていた。それが僕の今の世界のあるべき姿、流れる時間軸である、と思っていたが、それはもう遠い記憶のように、誰の許可もなく、蹂躙するように、あっという間に消え去っていた。



僕は少し変わった子どもだった、と言われていた。

子供の頃、母はよく「彩人、あなた時々壁とか天井とか変なところ見ておしゃべりしてるねー、あれって何なん?」。そう聞かれても当時の僕にはわかるはずもなく「あー…ん?」と相槌を入れる程度だった。ただ、それを自覚?行動にしたのは僕が5歳のときだった。

あの日、夕方のお買い物の後だったと思う、母と一緒に青になった横断歩道を渡ろうとしたとき、僕はその「何か」に気づき、突然母の手を引っ張り、「待って、危ない!」と叫んだ。


母は驚きながら立ち止まり、その反動で僕が転んだ、母がすぐ僕のことを気遣いケガでもしたのかと思い体中をさすってチェックしていた。その刹那、母が振り返ると信号無視したトラックが信号無視した、と言うには酷い超スピードで通り過ぎていったのを見た、その後そのトラックは曲がりきれず住居に突っ込んた。俗に言う暴走車による交通事故である。


「……え?……彩人なんで分かったんよ?」


少し状況を理解する時間をおき、母が関西弁で聞いてきた。でも、その時の僕にはただ首を振るしかなかった。そのときの胸のざわめきは、言葉にできるものではなかったからだ。


… 時が経ち2025年、パンデミックによる脅威は世界をさらに壊していった。


2025年。20世紀ハリウッドウィがだとこのあたりの時代は荒廃した時代、ハイテクノロジー、アンドロイド、など国家企業がその世の中を律し技術革新がその中で行われている映像を観さされていたが、現状はそうではなく、ローテクノロジーが残り、世の中は新型ウイルスに対する対抗ワクチン開発にとんでもない巨額のお金が製薬会社に投資さえ、その解決策に希望が語られたが、ウイルスはことある毎にその変異を繰り返し、対抗ウイルスによる効果をことごとく無効化していった。その間にも、もともとの流行であった「インフルエンザウイルス」、「マイコプラズマ肺炎」等それまで息をひそめていた流行病も徐々に生活に戻ってくるようになり、しかもそれぞれがそれぞれ、独自の変異をコロナと同じように行い、結果、新たな感染症が次々に現れ、「トリプル、マルティプルデミック」と呼ばれるウイルスの同時流行が医療を再び麻痺させた。


その結果、世界は崩壊した。


世界が荒廃、絶望を見ていく中、世界発信のニュースでは時折「ポストヒューマン」と呼ばれる特殊な能力を持つ人々が現れ始めた。


例えば、握力が異常に強い者。耳が異常に敏感な者。嗅覚が犬並みに発達した者。彼らの存在は、当初は限りなくレアケースとして世に触れる事がなく都市伝説的な扱いだったが、その能力が表向きに公表されるまでにはあまり時間を必要としなかった。彼らによる犯罪が多発したのである。

それは彼ら「ポストヒューマン」が望もうと望まないとしても、現代のヒューマンビーングには彼らに対する希望でも進化における過程を喜ばしく思うものは少なく、むしろ現在の混沌とする世界の破滅に向けて誕生した脅威、恐怖の対象、象徴となりつつあった。


僕の家族に訪れた悲劇も、その時代の影響の一つだったのだろう。


11歳のとき、家に押し入った男たちは、明らかにポストヒューマンの能力を利用、悪用していた。一人は筋力を極端に発達させた者で、父を床に叩きつけ頭を腐ったメロンのように握りつぶし、母を壁に追い詰め、襲ったのち何か鋭利なもので何か所も刺し殺害した。その時僕はクローゼットに隠れ、クローゼットに漏れる光、部分的に見えたその光景を、ただただ何もできず、震えていた。なぜ両親は僕をクローゼットに入れたのだろう、家族全員で逃げる時間もあっただろうに。


ただ、あのとき、一瞬、そう、一瞬だけ僕の胸のざわめきが高まった、いつもの「警告」だったのかもしれない。でもその時は、何か「別」ともとらえることのできる「感覚」を当時の僕は感じ、その感情をどう処理、言葉、行動に移すべきか、理解できず小動物のようにただただ震えるだけだった。


…どのくらいの時間が経過したのだろう。僕を救ったのは、高倉誠という刑事だった。彼は、公安特殊犯罪対策部の指揮官と名乗った、意味のわからない僕は周りの惨劇を観ながらクローゼットの扉を開けられ、家に突入した顔のわからない人達を掻き分け、僕を見つけ、抱き上げた。


「大丈夫だ。もう安全だ。」


…当初、高倉さんの手配で、最初PTSDを和らげるための施設に数週間行ったが、言葉を発することができなくなっていた僕にはあまり効果がなかったようで、最終的には高倉さんが僕を引き取る形を取ることで偽造「家族」を作り上げ、育ててくれた。大変だったと思うが、公安という忙しい時間の中でも、僕に言葉を投げかけ、時折僕の中にある奇妙な感覚にも気づいていてくれていた、でもそれについて特に僕に何かを言うこともなく、「…普通でいろ」と言い続けてくれた。


「…能力なんか忘れろ。お前は普通の人生を歩めばいい。」


いつからか、自分が「何か」を持っている事に気づき、それを高倉さん日記いた事で「能力」という言葉が新しい単語として僕の中に加えられた。ふわっとして気づき、にまとまっていた僕の感覚には「脳力」問wれたことは幾度か納得するための要因となった。


正直、彼のその言葉に、僕はどれだけ救われたか分からない。不思議、と思っていたことが定義された事でそこを基本に高倉さんと話ができたのは貴重な経験だったと思う。併せて「それが普通だ、気にするな」と、一緒に住んで、飯食って、風呂入って生活できた事、絶対忘れられない経験だった。


ただ、その「普通である」という今まで空気を吸うように生きてきた、今では願いとまで人々が望む生活は叶わなかった。


16歳、高校2年生になったばかり春、高倉さんは「ポストヒューマン」の犯罪捜査中に命を奪われた。それも、かつて僕の両親が殺されたときと同じ手口で。


その瞬間、僕の胸のざわめきである「何か」がはっきりと形を持ち、未来の断片が頭の中に浮かんだ。それはただの直感ではなく、僕自身が「認識」「取得」できる力の一端の発動だった。


2025年、世界はとてもネガティブな方向に世を動かし、そこに「ポストヒューマン」の存在の誕生。この荒廃した世界で、僕は過去、未来を覗き見る力を持つ者として、家族、そして高倉さんの死の真実と世界の謎を追い求めることを決意した。そして、その中で世界がどうあるべきかの最適解(時間軸)に出会うことになる一人の少女——彼女との出会いが、僕の未来と、この世界そのものを変えるきっかけになるとは、このときの僕には知る由もなかった。


これは、荒廃した世界の片隅で出会った少年と少女が、未来を変える物語だ。

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