ついてきてほしい
お題【黄昏】多分そってないですが、どうぞよろしくお願いします。
勢いを失った太陽のことを人は黄昏と呼んだ。
そんな余計なことを考えながら、エディ・ソートスは、マリ・ヒイロの落ち込む肩と背を見ていた。
マリは異世界人だ。地球という世界から来たという。細い肩、小さな背中。それでも成人しているというのだから、小人の血でも入っているのかと思うほどだった。髪は、黄昏を思い出させるような金髪だった。
「そんなに落ち込むことか?」
そう言ってみると、マリに睨まれた。震える唇から「だって…」と幼い子どものような言葉が漏れる。
「まだ2歳だったんだ」
「俺の弟は1歳で死んだよ」
子供は農村では消耗品のようなものだった。それを、この異世界人は、まるで自分のことのように落ち込んでいる。子どもなんて、3人に1人生き残ればいいほうだ。
「これが、当たり前なんだよ」
そう言って、エディはマリの肩を抱き、頭をなでた。エディだって、悲しくないわけではない。可愛い子だった。隣のミーミと呼ばれていた女の子で、よくマリに懐いていた。
「…で死ぬなんて」
「何?」
「なんでもない」
そう言ったときの、マリの黒い瞳は何かを決意しているようだった。
・・・
「聞いたか? エディ。無料だとよ」
「何がだ?」
「なんとか先生ってのが、子どもに予防接種とかいう薬を無料で処方してくれるんだとさ」
「はあ、それは何に効くんだ?」
「まあ、何でもいいが、農民の貴重な時間を奪わんで欲しいね」
あの黄昏のような髪を持つ異世界人が生活していたのは、エディの人生の中でもほんの短い間だった。3か月ほどだろうか。綺麗な子供という印象は変わらず、黒い瞳に惹かれたままだった。今ごろどこで何をしているのだろう。農夫のエディは、最近忙しそうに中央からの使者に対応する村長の家を見て、ひとつ息を吐いた。
・・・
「あ、エディさんだ」
「…?」
「わからない? 俺だよ、マリ」
「ああ! 髪を染めたのか?」
「これが地毛だよ!」
控え目に笑う黒髪の少年。いや、成人しているのだったか。
仕立ての良い服に身を包んだマリが、エディの手をそっと掴んだ。
「もう小さい子は死なないよ。そのために予防接種も、風に効く薬もどうにかしたんだ」
「確かに、死ににくくなったな」
「もう、大丈夫だよ」
もう、成仏してもいいよ。
「成仏ってのは、何だ?」
「俺の故郷で、未練を残した幽霊が、未練がなくなって去っていくこと」
エディは、寄りかかっていた墓石からそっと立ち上がった。
「俺は死んでいたか」
「俺、昔から霊感が強かったけど、異世界でもそうだったとは思わなかったよ」
掴まれたと思った手は、温度が感じられない。
「成仏しにくい? なら、俺と一緒にいて」
憑いてきて。