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頂へ[1]

さあお待たせしました。

激アツな剱岳アタックの章です!!

第6話「頂へ」

スタートです!!

「何で!? 何でそんな…」


 そんな…、それに続く言葉が出なかった。言ってしまえば、尚哉の夢を否定する事になる。

 それだけは出来ない。


 夢は叶えるためにあるもの。

 人は、夢に向かって突き進む生き物。

 そんな事は分かっていて、かく言うあたしだって、新たな夢に向かって歩み始めているもの。


 だから…、だからこそ、彼のこれから向かう先を忌み嫌いつつも否定出来ず、彼を信じ、応援しようとしている。

 なのに裏腹な言葉で、あたしは彼を困らせようとしている。


 これで彼が…、尚哉が夢を諦めたなら、あたしは彼の人生に対し、どう責任を取ればいいのだろう。


 尚哉は、それ以上熱く語ろうとしない。

 彼だってあたしに凄く気を遣っている。それは、垣間見える表情から察する事が出来る。


「絶対だよ。絶対成功だよ!」


 もうそれしか言えなかった。

 声はうわずり、顔はこわばり、それでも夢を追う一大プロジェクトへの出陣を表明した彼には、もう激励の言葉をかけるしか出来なかった。



「歩果、俺…。俺な、剱岳登頂に再挑戦する」


 過去の失敗の話。

 巨大な岩が、剣のように降り落ちる。

 そんな恐怖から辛くも命拾いしたあの体験談が、脳裏を駆け巡る。

 そんな危険な山への再挑戦を、尚哉はあたしに表明した。


「亮も一緒だよ」

「お兄ちゃんが!?」


 佳代ちゃんの弟。

 あたしにとってはお兄ちゃん。

 前回の落石で、お兄ちゃんはPTSDを患っていた。とても不安定で、明るく夢を語り出した瞬間に表情がこわばったり、見た目にも危険な精神状態だと分かる程だった。

 そんなお兄ちゃんも、いつしかまた夢を追うようになっていたんだ。


 安心とか、そんな感情は一切持てない。持てる訳がない。あたしの気持ちは、不安以外では語れない。

 もしまた何かアクシデントが起こったなら、お兄ちゃんのメンタルは完全に崩壊するだろうし…、いいえ、それだけなら全然ましで、下手すれば命を落としかねない。


 たとえアクシデントがなくとも、登頂には恐怖心を抱かずにはいられない難所が待ち受けていると聞く。


 登山家でベルグ代表の市川孝次郎さんが同行する。もちろん山崎さんが、リーダーとして指揮を取る。それはそれで心配を和らげてくれるけど、登山なんていうのは、団体行動であっても最終的には個人の技量・体力・気力にかかってくる。


 あたしは、尚哉がどれだけのスキルを持っているのかは知らない。

 一緒にハイキングした時には、確かに信頼出来ると感じた。だけどそれは、あたしが登る事が出来るレベルのもの。

 こんな雲の上を目指すような登山で、尚哉のスキルがどれ程活かされるのかは…、あたしは知らない。

 そしてきっと、お兄ちゃんはもうひとつ低いレベルなんだと思う。



「山男にゃ惚〜れ〜るなよ〜なんて歌、あるんだって。歩果、とんでもない男に惚れたんだね」


 佳代ちゃんは、そんな風に茶化した。

 だけど、あたしにとってのそれは、茶化した云々の話じゃない。リアルすぎて怖い。


「冗談じゃないわ! あたしがどんな気持ちで尚哉の話を聞いたと思う?」


 冗談を冗談として受け取れず、あたしは珍しく佳代ちゃんを睨み付けた。

 その時に見た、佳代ちゃんの顔…。青ざめて、唇が震えて。こんな佳代ちゃん、見た事がなかった。


「私だってね、怖いんだよ。亮は私の弟よ。同じ血が流れてる弟なの。そいつがね、その剱岳? そこで生きるか死ぬかの瀬戸際だったのよ。他人じゃなくて、実の弟がよ!」


 かけがえのない人。家族って、恋人より近くて唯一無二の存在。

 だけど…。


「尚哉が…、もし尚哉に何かあったら…。あたし、尚哉の次はないわ。あたしにとって…」

「そんな事分かってるよ!」


 佳代ちゃんとあたしは、その時かなり取り乱していた。

 同じ方向を向きながら、同じような思いをぶつけ合っていた。それはまるで、口論でもするかのような激しい口調だった。


 強いと思っていた佳代ちゃんでさえ、こんな様子だった。

 不安以外の感情なんて、持つ事は出来ない。

アクセスありがとうございます。

次回「頂へ[2]」

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