星空に願いを[22]
そら君との関係に終止符を。
お別れは、とても切なく…。
そら君は、長い深呼吸をした。
心を落ち着け、次に言う言葉を考えていたんだと思う。
優しいから、私を気遣う言葉を一生懸命考えていたんだと。
「分かったよ。田上がそう言うんなら、俺達はもう会わない方がいいんだろうな」
そう言うと、そら君はまた深呼吸した。
「ありがとうな。ちょっとだけ、夢を見れた。最後に…、握手だけしてもらってもいい?」
少し声が震えていたと思う。
そら君は、握手なんて言いながらも自分からは手を出さなかった。私が差し出すまで、待ってくれていた。
もし私が嫌だって言ったとしたら、手を差し出す事で私を困らせてしまうと思ったんだろう。
そんな人なんだ。いつもこの人は、自分より相手の意思を尊重する。優しすぎて、時々優柔不断だったり頼りなく見えてしまう事も。
だけど、この人は心底優しい。
「ひと言だけ…」
「あぁ」
「そら君、もう少し強引でもいいのよ。私はその優しさは好きだけど、女子ってね…」
少し言葉を溜めた。私の言う事が本当に正しいかどうかは、他の女子に訊いて回るぐらいしなきゃ分からない。
だけど、そら君にひとつだけ求めるものがあるとしたら、それはやっぱり強引さなんだと感じるから。
「分かった。もし次に誰かを好きになっとしたら、その時頑張ってみる。ありがとうな」
その返事を聞いて、少し安心した。
目線をグッと上げて、その顔を見た。
悲しげな目をしていても、私を見下ろして微笑む、優しさに溢れた穏やかな表情。
私は、そっと右手を差し出した。
そら君の大きな右手が、私の右手を優しく握った。そして、そら君はさらに左手も差し出し、両手で私の手を包み込んだ。
温かさを感じ、その手の上に雫が落ちた。
「ヤベ…」
「ううん、これ、私かも」
見上げる程高い背。
瞳を濡らしてしまった私だけど、最後にもう一度そら君の顔を見たい。だから、顔を上げて…。
「「あ!」」
一筋の光が、瞬時に夜空を駆け抜けた。
―幸せになってね。
そう心で呟くと、もう涙が止まらなくなってしまった。
これで、これでいいんだ。そう何度も自分に言い聞かせて、私はそら君の手を握る力を緩めた。
2人の手は、ゆっくり離れた。
そして、私は何も言わずにそら君に背を向けると、ゆっくり歩き出した。
「興味ないから」
ぶっきらぼうにそう言って突っ撥ねた、高校生のあの日。
教室でも、いつも頭ひとつ飛び出る程の高い背。激しいスポーツをしながらも、人に対して優しさを躊躇いなく見せるその人柄。
今、私はその全てを過去のものにし、自分の道を歩み始める。
その先に待っているものは、きっと険しい山。
私はそれを、越えられるんだろうか。
1週間前と同じように、地下鉄烏丸線に乗り、そのまま近鉄線へと乗り継いだ。
丹波橋で京阪電車に乗り換え、六地蔵駅から河原を歩き、何度も何度も星空を見上げた。
宇宙のようにでっかく!
そんな願いをもって名付けられた、宇宙という名前を、ここ最近何度口にした事だろう。
その名はいつか思い出になる。
だけど、夜空を彩る星は限りなく輝き続け、これから先幾度となく、私はそんな星達を見上げる事になるだろう。
季節を問わず輝き続ける、あの5つの星。
今、この空に願い事をするなら、私は何を祈るだろう?
恋ではないけど好きだった、西山宇宙という名の男子。
愛せなかったのは、私の心のせい。
だからせめて、彼の幸せを…。
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