星空に願いを[20]
歩果には恋人が居る…。
多くは訊かない。そんな事、根掘り葉掘り訊くものでもないと、私は思う。
なのに真相を知りたい。
「答えを出すのは自分自身よ」
歩果は自分自身で答えを出し、自分自身の力で自らを幸せに導いている
そうだとしたら、私は彼女を応援すべきだ。
だけどそれを、大きな疑念が邪魔しようとする。その疑念の正体は他でもない。
歩果は本当に幸せなんだろうか?
時に、あからさまに見せる不機嫌な顔。そこにはいつも、恋に関する話がある…ような気がする。
「自分は幸せなんだから、麻衣ちゃんもウジウジしてないで決めちゃえば!?」なんて思っているんだろうか。
それならまだ、私も救われる。だけど、もし…。
「この想い 届けたい なのに目の前の現実が邪魔をする〜♪」
え!?
「何それ?」
「え? 違ったっけ? あぁ、谷山さん、ご存知ないですか?」
「誰の歌?」
「誰かは知らないんだけど、よく聴きません? 結構いろんなトコでかかってますよ」
知っている。知っているのよ。その楽曲とグループ名。そして、もっと深く、大切なところまでを。
「あ、あ、あの、はいっ! 京都出身の女性5人組バンド、ねっ!」
「あぁ! 淡色組織なのね。でも麻衣、夢乃さんは北海道出身よ」
「あぁ、そ、そうなんだ」
歩果、私…、全部知ってるの。淡色組織のヴォーカル、夢乃さんの事。
帰り道、また私は夜空に煌めく星を見上げた。
北の空に「M」を描く5つの星。
季節を問わず私達を見守る誰もが知るだろうその星座を、今日もまた見上げてひとり、考えた。
人生の選択を迫られた時、人はどうやって答えを導き出すの?
「悔いを残すな」
そんな事を、人はよく言う。簡単に言えば、やりたい事をやり尽くせば良いっていう事だ。
それはよく分かっているし、そんな風に生涯を終える事が出来るなら、何て幸せなんだろう。
やりたい事って人それぞれだけど、やりたい事を幾つ持っているのかもそれぞれ。そして、決してひとつじゃないはずで。
登山家だって、最高峰の山への登頂を果たすだけじゃなくて、その先の事だったり、それと並行していたり。
ベルグのオーナーであり、山岳会創立者でもある市川さんを見れば分かるよね。
マッターホルン登頂ののち、より多くの人に夢を、その先の感動を。ずっとそんな想いを持ち続けてこられたという。
そしてもちろん、登頂を成し遂げるまでに様々な選択を求められるシーンがあったそう。
辛くても、苦しくても、市川さんはその先の夢までを手にするべく、平凡な日常を手放してあの険しいマッターホルンに挑んだんだ。
人はそうやって、必ず選択を求められる時が訪れる。
私も、今はその時なのかもしれない。
ふと、そら君の顔が浮かぶ。人生の選択なんて大袈裟だとは思うけど、1人の男性が居て、1人の女性が居て、お互いの関係を深めていくと、いずれその先に幸せを手に入れる事になると、人は言う。
でも、その先にあるものが本当に“幸せ”なのかどうかは、今は分からない。
犠牲にしなきゃいけないものも、きっとあるはずで、その何かを捨てる事で、本当に私は幸せになれるのだろうか。
さっき歩果が歌った曲。今の私に向けられたものなんだろうとは思う。
じゃあ、目の前の現実って何? 邪魔をする現実って?
私とそら君…、きっと、私が首を縦に振れば成立するはずの恋愛。それを邪魔する目の前の現実の正体って、何なんだろう。
そしてまた、私はウジウジとネガティブな思考をフル回転せて、1人思い悩んでいる。
歩果はそんな私を、じれったいなんて思っているに違いない。
―そう言う歩果だって、悩んでんじゃん! じゃなきゃ、彼氏の話になりかけて、いちいち不機嫌に目を逸らしたらなんかしないはずだわ。
もし歩果が恋人…尚哉さんとの事で悩んでいるのなら、あの歌は私だけじゃなくて自分自身にも向けて歌ったんだろう。
自分自身で答えを出せずに悩んでいるのは、私より寧ろ歩果なのかもしれない。
だったら…、
だったら、私はひとつの答えを出そう。そして、歩果に、歩果の人生の選択に、刺激を与えてあげたい。
答えを出そう。目の前の選択に。
そら君からのアプローチ。
麻衣は答に辿り着いたのかしら?
アクセスありがとうございます。
次回「星空に願いを[21]
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