星空に願いを[14]
恋の悩みと仕事。
サッと切り替えなきゃ。
何かと忙しいのね、麻衣は。
京阪電車から地下鉄の駅へ向かう道。
帰宅を急ぐ人達の流れに入り込んでしまうのを、体が拒否してしまう。
何故だか、眼下に流れる川の水音と空気が愛しくなり、もう少しこれに触れたいと思った。
家まで歩いたら、どれぐらいの時間を要するんだろう。
『また2人で会えるかなぁ』
―会えるかなぁ…か。そう思うんだったら、誘ってくれればいいじゃん。
そう思ったのは、そら君が言った、あと一歩を踏み出せない感のあるこのひと言に焦ったさを感じたからじゃない。きっと、探しても見つからない自分の想いに苛立ちを覚えたからだと思う。
そら君にとってはいささか理不尽であろう悪態かもしれないけど、それは自分自身に向けて思い放ったもの。
駄目だ。対象人物でさえ破茶滅茶になってて、整理が付かない。
それって、そういうものが? もしかして「恋」なのかしら?
「おはようございます!」
「おはよう!」
「おはようさん!」
週明けの職場。今日は、みんな明るい笑顔だ。
それもそのはず、コレクションに出展する製品が、満足いく仕上がりだった。
だけど、この人だけは相変わらずで。
「宮地さん、どう? 狙い通りの形になったかしら」
「……まぁ…ね」
本当にこの人は、みんなで頑張ったのに何で? でも、一応狙い通りである事は間違いなさそう。
ところで、ずっと疑問に思ってたのだけど…。
「ちなみにこれ、着る人…モデルさんは?」
言われたデザインや寸法、生地を使って仕上がったサンプル。
例えば私なら、久松美咲に着てもらうことを想定してTシャツを作った。凡そ想像上の寸法に過ぎないけど、それでも誰かを対象にしている訳だ。
コレクションと言えばファッションショーなのだから、当然モデルさんが着てステージに上がる訳で。
磐田さんが宮地さんに訊ねた。
宮地さんは、相変わらずの素っ気なさで、
「今日、来てもらう事になってます」
と返答した。
―え? 今日?
「ちょ、ちょっと待ってよ。来てもらうのはいいわ。でもね、普通は先にモデルさん紹介してから方向性決めるんじゃないの?」
また夏川さんが噛み付いてる。いいじゃない。デザインは宮地さんに丸投げしてるんだから。
私が宮地さんの立場で宮地さんの性格を借りるなら、「アンタがすぐに横槍入れるから、思うようなデザイン出来なくなるでしょう」ぐらい言ってしまいそう。
だけど、それはただの私如きの想像で、宮地さんの返しはもっと強烈だった。
「だったら最初に言えよ」
このひと言で論破だ。夏川さんは、「なっ」と言葉にならない声だけ残して、デスクに戻った。そして戻るや否や、
「マネージャー。あの子! 私に命令口調よ!」
だって。
もうこれ、仕事面では敗北を認めたも同然だわ。
そして午前中の作業は、いよいよ私が考案した和柄ブラウスの制作。とてもワクワクする。
この時点で、昨日の悩みなんてもう吹っ飛んでしまっている。
「設定寸法を確認します。考案した田上さん」
「はい!」
リラックスフィット、つまり、オーバーサイズと呼ばれるゆったりしたサイズ設定で、ワンサイズにする事でコストを抑える事が出来る。
一方で、着る側にとって、そのゆったりしたサイズ感が気持ち的にリラックス出来るとして、人気が高い。
「あと、これにプラスして…あの…、小柄な女性に合わせたSサイズを設定したいと思っています」
「Sサイズ?」
「身長147cm」
皆、想定していなかったのだろう。フリーのワンサイズという商品は、他社にもよく見られる。しかし、大柄な女性にも着れるサイズ設定のため、小柄な女性には大きめとなる
「Sサイズ?」とは、みんなの反応。フリーサイズなのだから展開は不要では? そう言われたが、私は在って然りだと思っている。
そこに反応した宮地さん。「147cm」なんて具体的な数字を言い放った。私が想定しているSサイズ、何でそんなにはっきりと?
「オ、オーバーサイズなので…多少大柄な方でも着れる…ですよね? でっでも、小柄な女性も沢山居て…、選択肢がないのは気の毒です」
「宮地さんも同じ意見?」
「居るね、小さい人」
相変わらずぶっきらぼうだけど、これって私の意見に賛同してくれているの?
「反対派が居るなら、ちょっと聞いて」
宮地さんの意外な言動に、空気が張り詰めた。こんなに声を上げる事なんて、今までなかったかもしれない。
少し期待した。宮地さんの考えが、今ようやく聞けるんだと。
アクセスありがとうございます。
次回「星空に願いを[15]」
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