星空に願いを[13]
歩果は何も答えずにスッと立ち上がって、また仕事に戻った。
既に客数もまばらになった時間帯。忙しいような雰囲気も感じないけど、きっと店側の事情もあるんだろう。
店側の事情? それとも、私がまた余計な事を訊いてしまったから?
晩夏の夕刻。
はしゃぎ過ぎた夏。過ぎ行く季節に、人は何を想うのだろう。
歩果と私。2人は、上手く付き合っていけるようで、そうでもないのだろうか。
エアコンの効きが強く、少し肌寒さを感じる。そんな時期になった。
でもそれだけじゃなくて、私のどうでもいい余計な質問のあと、歩果はすぐに私から離れ、私達の間に何となく冷ややかな空気が流れて行く気がしている。
私もスッと立ち上がった。
「お疲れ様です。私、帰ります」
「あぁ、ありがとうございました。気を付けてね」
店長の山崎さんに見送られ、出口へとゆっくり向かう。
背後から足音が近づいて来るのが聞こえた。
その気もなしに、私は振り返った。
そこに、歩果が居た。
「答えを出すのは自分自身よ」
小さな声で、歩果は私に笑顔でそう言った。そして大きな声で、
「ありがとうございました! お気を付けて」
と、頭を下げて言った。
まだ暑さの残る夕暮れの街。駅までの道を行く私の肌から滲み出る汗は、頬を伝って襟元を濡らす。
歩果は、毎日この道を歩いて通勤しているんだ。
「答えを出すのは自分自身…かぁ」
ここまでの人生に、彼女はどんな経験を積んできたのだろう。
過去の事は語らない。
いや、現在の事だってそうだ。
恋人が居るなら居ると、居ないなら居ないと、それだけでも言ってくれれば、もう少し笑い合える時間を分け合えたのかもしれない。
『間もなく、急行・奈良行きが到着します』
「奈良? そうか、この地下鉄は、近鉄に直通してるんだ」
何となく…、また何となくだけど、先発の電車を見送り、今到着した奈良行きに乗り込んだ。
真新しい電車は、近未来的な顔をしている。何度も何度もこの地下鉄を利用していて、いつしか、ここに来る電車の顔も覚えてしまっている。
『烏丸御池、烏丸御池です。東西線はお乗り換えです』
コンピュータで作られた音声アナウンスが流れる。それをただ、ボーッと聞いていた。
『次は、四条…』
「え!?」
―何で降りなかったの? 私…。乗り換え駅だと分かっていたのに、何故かこの席に座ったままじっとしている。何やってんだろ?
見慣れた駅のホームがどんどん右に流れて、窓の外は暗闇に包まれた。
焦った私は、地図アプリを表示して家に帰るルートを検索した。
「乗り換え…乗り換え駅は?」
『京都、京都…』
「あっ! JRだ」
思った刹那、気付かないうちに満員になっていた電車から降りて行く乗客の波が、目の前を通り過ぎて行く。
その流れに圧倒され、立つ事すら出来ずにいる。
ついにドアが閉まった。
―ホント、何やってんだろ、私。
電車は地下のトンネルを抜け出し、地上へと駆け上がった。
外はもう、完全に日が落ちていた。
地上に飛び出した電車は、竹田駅から急行電車として運転する。
次は? 次はどこに停まるの?
『丹波橋〜、丹波橋〜、京阪電車お乗り換え〜』
「け、京阪? あっ! ここ、ここで」
京阪電車。これに乗り換えれば、家に帰れると思った。電車が停まり、座席から飛び上がるように立ち上がると、ドアが開くや否やホームに飛び出した。
乗り換え口へ急ぐ。
「んんっ? そうなんだ」
多くの人が行き交う三条。
静かな佇まいの六地蔵。
どちらからでも、いつもの地下鉄に乗り継げる。
私は敢えて六地蔵を選び、途中でまた電車を乗り換えて、この小さな駅に降り立った。
随分と大回りをしたものだ。見上げれば、月も見えない夜空。そんな中、一際明るく輝く星は、数多ある星達を差し置いて自らを美しく見せようと、一生懸命光を放つ。
華やかじゃなくてもいい。少しだけ光る事が出来るなら…。
ふとそんな事を思った刹那…、
―BOOM……
「そら君?」
『今日はありがとう。初めて2人で会って、歩いて、話して。楽しかったよ! また2人で会えるかなぁ?』
仕事もプライベートも。
頭を休める時間も必要よ、麻衣。
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次回「星空に願いを[14]」
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