星空に願いを[12]
「またオトコですか?」
「もぅ…やめてよ」
「だって、あんなにボーッと考え事してたら、気になるじゃないですか」
気になる?
歩果は私が男子の事で悩むのを気にしているの?
「気にしなくていいわよっ!」
「あー、やっぱりオトコだ。きゃはははは!」
ひとしきり笑ったあとは、仕事モードに。歩果はそんな切り替えも上手だ。
入れ替わり立ち替わり訪れるお客にも卒なく対応し、すぐさま彼らが動かした商品を元通りに展示し直す。
それが終わると、また私の前に戻って来てあの笑顔。
そんな歩果の動きを、私はもう何度も見ている。
初めて訪れ、右も左も分からずにオドオドする私に、彼女は愛想良く接してくれた。
他人の心が分かるのだろうか。
そんなに繊細な心の持ち主なんだろうか。
それ以来、私の胸の中にいつも、今、目の前で見せるその笑顔が在る。
人を拒絶している訳ではなくて、全てを曝け出して付き合える友達が欲しいと思った。
そんな私の心を見透かすように、歩果は私を“友達”と呼んだ。
会いたい時、話したい時に、ここに来れば大抵会える。だから、いつしか来る頻度が高くなり、故に仲は深まり、ふざけ合い、笑い合えるようになった。
今のこんなひとときが愛おしい。だけどそこに、そら君の存在が入り込んできたなら?
時間とは、誰にも平等に同じだけ与えられているもの。それは限りあり、そして尊い。だからこそ、1分1秒を満足できるものにしたい。
「時間って、分け合うものなのかなぁ」
思わず溢れ出したこのひと言。いつもなら、「何ぃ? どうしたのぉ?」なんて茶化すように接してくる歩果だけど…。
「分け合う…かぁ。どうなんだろ」
少し考えたのち、意外にも真剣に話し始めた。
「例えば、あたしの場合なんだけど…」
ショップの店員。そんな位置に居るのだから、接客という名のもとに多くの人と関わる。
分け合うのかと言えば、その表現は間違っていないと思う。
「だから、そうねぇ…、お客さんだって、貴重な時間を割いてここに来てくれてるじゃない? 麻衣ちゃんだってそうでしょ?」
「私は割いてるっていうより、ここを楽しみにしてるわよ」
「それはそれでありがたいけど、ちょっと横に置いといて」
歩果は、また少し溜めてから続きを話し始めた。
「だって、麻衣ちゃんも今日はでえとだったんでしょ? ぷぷっ」
「ええ? 笑うの?」
「否定しないわねぇ? 図星だわ」
「もうっ! 意地悪っ!」
―きゃはははは!
「それね、答え出ちゃってるじゃん」
「デートして、じゃあまたねって、その足でここに来た」
「でしょ? ほらぁ」
歩果が言いたいのはつまり、今日はそら君と歩果と、帰宅すれば家族に。歩果だって、沢山のお客さんがベルグのために時間を費やし、自分もそのお客さんを案内するために時間を費やしているんだと。
分け合うもの…。
今日、そら君も私のために時間を費やしてくれた。お互いがお互いのために、それぞれ自分の時間を分け合ったんだ。
何となく浮かんで、何となく呟いた言葉を、歩果は具体化した。
だけど…。
だけどそれは、私の求めている答えじゃない。そう、違うのよ。
「時間を分け合うっていう意味は分かったわ。でも…」
―あぁ、そういう事か。
そう言ったか言わなかったか、歩果はまたあの、いつもの笑顔に戻った。
「悩むぐらいなら、ふふっ…、行っちゃえば?」
「行くって…?」
「当たって砕けろ!」
ち、ち、ち、違うっ! もっと違うの!
そう焦った刹那、歩果の表情はまた変わった。
「悩みだってね、ちゃんと分かるように伝えなきゃ、誰も助言出来ないよ」
「あ、あぁ…、はい」
何だか、子供っぽく笑う歩果の方が、私よりはるかに大人のような気がする。
言われる通り、私は大切な事を伝えていない。いいえ、伝える事が出来ないでいる。
何故? それはきっと、話してはいけないからだと思う。なのにこんなにウジウジと悩んでる感だけはアピールしている。
言葉に詰まった私は、苦し紛れに馬鹿な事を口走ってしまった。
「歩果は? お客さん以外に時間を分け合ってる人って居るの? 彼氏とか、居るの?」
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次回「星空に願いを[13]」
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