星空に願いを[9]
「そら君…この間はごめんね」
「それはもう過ぎた事。それより、折角みんなに会えるチャンスだったのに、まさかの仕事って。大変だなぁ」
ドタキャンした事。そら君は、それでも私を労ってくれている。
既読からすぐの返信。咄嗟にこんな言葉が出るなんて、それは本心じゃなきゃ無理だと思う。
やっぱりそら君は…、そら君は優しい人なんだ。
カッコいいだけじゃ、理想的ではない。優しいだけじゃ、何か足りない。男子を好きになる基準なんて、所詮女子のわがままを集めたものに過ぎない。
ならば、背が高くてちょっぴりイケメンで、人を気遣う事の出来る優しさと、バスケのコートの中で相手を圧倒する気迫をも備えているそら君は、私のわがままを形にしたような人じゃないの?
好きになってもいい人…じゃないの?
「私、左足を骨折して陸上辞めたじゃん。この前整形外科で会ったのって、あの時の後遺症を治すのに、リハビリに通ってるんだ」
「そうなんだ。今も痛むんだ。辛いね」
「そら君もリハビリって言ってけど、どんな怪我したの?」
「あぁ、あの時かぁ。俺もさ、膝を捻って痛めたんだ」
「明日、またリハビリなんだけど、そら君は?」
「俺? え?」
―え?
「俺は明後日だけど…。いや、病院なんかで会うより、あ〜っと、休みの日にゆっくりお茶でもどうかな? この前会えなかった分、いろいろ話したいからさ。も、もし田上が良ければだけど」
そりゃあそうよね。何で病院で会うなんて考えてんのよ。折角アドレス交換したんだから、会いたいのなら時間作って、カフェとかにでも誘えよ、私ったら。
そんな、勢いだとは思うけど、私とそら君は
2人でお茶する事になった。
それは私にとって、嬉しいはずの約束。
恋をしたかった高校時代。その対象となる人は、そら君以外に考えられなかった。考えられなかったはず。あの頃、私の感性を刺激する存在と言えば、そら君以外に居なかった。
なのに私ったら、そんな人でさえ恋の対象から外し、「興味ない」などと突っぱねていた。
恋したかったし、恋の対象となり得る人は居たのに。別にイキっていた訳でもないのに。そして、恋愛に至る可能性のある人だったのに。
卒業後、それぞれの道を歩み始めた私達。
意外な所で再会した2人。
そして、2人で会う約束。
嬉しくない訳がないのに、どこか心の奥に壁を作ってしまっている私。
嬉しいはずなのに、今一つ感情が浮き上がらず、戸惑いだけが脳裏を支配してしまっている。
「断る前に、約束したんだから会っておいでよ」
それはそうだ。じゃなきゃ、そら君に失礼だ。だけど待って。
何でユウさんに相談してるんだろう、私。
恋って、こんなものなのかな。
初めて恋するというには、ずいぶん年齢も高くなってしまった。
10代で恋をしたのなら、もっと燃え上がるような感覚があったのかもしれない。
いや、違う。
私、「恋したい」なんて言いながら、何も燃え上がっていなかった。
だって、燃え上がっていたのなら、何がなんでもそら君にアプローチしてたはず。
高校時代、陸上を辞めて、何してたんだろう。
覚えている事なんて、久松美咲の地味な私服を華やかに変えてあげたいなんて、余計なお節介を焼いてTシャツを作り、彼女の体型の変化に玉砕食らったぐらいか。
そんなくだらない事に熱中したのは覚えてるし、それが活かされて今、服飾の仕事をしている。
結果、私は幸せなの?
最近、職場環境に疑問を感じ始めている。
あぁ、何だこれ。何の悩みだろう。様々な思考が頭の中で複雑に交差して、それらひとつひとつに対する答えを全て掻き消してしまっている。
私が考えている事、やっている事。
そこに間違いがあるのなら、誰か教えて。そして、間違いを叱って。
アクセスありがとうございます。
次回「星空に願いを[10]」
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