星空に願いを[7]
もし私の休日が潰されていなければ、あのバーベキューに参加しただろうか。
納期を、土日を挟んで3日と告げられた。だから私は、そら君に断りのメッセージを入れた。
納期に余裕があると分かっていたなら、あの頃のクラスメイト達と一緒の日曜日を過ごして、果たして楽しむ事が出来たのだろうか。
それは私自身も分からない。
参加する方向へと揺らいだのは、そら君からの誘いだったから?
一緒に過ごしたかったのは、本当にそら君なの? もしかして、「そら君と一緒に過ごしたい」と思わなきゃいけないなんて、自分自身に縛りを付けていただけじゃないの?
何なんだろう、この葛藤は。
過ぎ去った時を、「たら」「れば」で振り返ったって、何も進まない。何も進まないから、何も答なんて出ない。
だから、今を受け止め、この1秒後からをどう過ごしていけばいいのかを考えなければ。
「あんたもね、何でそんなに躍起になって反論なんかするの」
今日1日の仕事が終わると、宮地さんは谷山さんに、説教? そんな珍しい事を? でも、兎に角そんな話をしていた。
谷山さんにしてみれば、楽しかったあの武奈ヶ岳ハイキング。
だけど全てそれがいけなかったみたいに言われるのが、堪らなく悔しいんだと思う。
だからあんなに声を荒げてまで。
とはいえ、自分の足の状態も分からないまま調子に乗って1日歩き倒した事により、結果仕事を休むに至ったのは、私自身の責任だ。
私は叱られて当然の立場だったと思う。
「違うね。それは別問題よ」
宮地さんも谷山さんも、そんな私の結論には賛同しない。
会社として従業員に与える休日を、仕事を持ち帰らす事でないものにしてしまうのが一番いけないのだと、ただただ曲げずに主張している。
でも、ごめんなさい。
私、言えないんだけど、あのバーベキューへの不参加の理由作りには、ちょうど良かったと思ってるの。
もし私がそら君を好きだったとしても、あの場で話せる事なんてないはず。不登校のあと、みんなと距離を置いて過ごした間に、共通の話題なんて失ってしまっている。
今、本当に心から思う、一緒に過ごしたい人…。
「ユウさん、ベルグに行きません?」
「へっ? ちょ…」
「仕事終わったから、ユウさんでいいですよね? そう言ったじゃないですか」
ユウさんはクスッと笑った。
宮地さんは私に鋭い目線を送ったけど、何も言わなかった。
だから、この私の言動は間違っていないと思う。
そしてこの、空気の読めない馬鹿者な私は、また余計なひと言を言ってしまう。
「宮地さん。何でベルグとか山の話になると、そんな怖い目をするんですか?」
お尻に軽い衝撃が走った。ユウさんが叩いたんだ。
「知らないよ。何かイラッとする…」
「あ、あ、すみません」
「その、ベルグとやら? 勝手に行けよ」
宮地さんの言い放った言葉に反応して、ユウさんの右手のしなやかな指が私の口の前に覆い被さって、そのまま頬を掴んだ。
「あ、いう…」
「えお!」
あっはっは!!
「ユウさん」って言おうとして言葉にならなかった私の喘ぐ声に、宮地さんは強い口調で続けた。
私達は、思わず笑った。
恥ずかしかったけど、めちゃくちゃに笑った。
宮地さんがこんなに言葉を投げかけてくれるなんて、今まで一度もなかった。
叱られたって、怒鳴られたって、揶揄われたって構わない。あの口を閉じたままだった宮地さんが、私達に向けて声を発してくれた事。
ただそれだけで、嬉しく感じた。
もちろん、それで私達の距離が縮まったなんて言わないし、思わない。
だけど、少しだけ分かった事があって。
それは…、
宮地さんは、私達寄りの人である事。
そして、理不尽に権威を振りかざす者を許せない人である事。
無言のまま、トップス・チームの危ういバランスを崩さないよう、幅広く鋭い目で監視している事。
夏川さんが、過去を精算し、チームに何を思うのか。
甘えていては通用しない世界だと伝えようとしている。きっとそうなのだろうとは思う。
でも、人の感性が、そして手先が満足に活かされるためには、日々過ごす空間が居心地良いものでなくてはならないのでは?
今の夏川さん、そして、宮地さんだって、ぶつかり合う事で危ういバランスを保ってはいるけど、そこに生まれる空気感は、決して心地良いものではない。
私はそう感じている。
だけど、今日の宮地さん…。
私の中にある分厚い壁は少しだけ破れ、胸の内を垣間見る事が出来たのかもしれない。
すぐに分かり合える人が居れば、一生かけても分かり合えない人だって居る。
時間をかければ分かり合える人も居る。
だけど仕事仲間なのだから、どんなにクセ強な人だって付き合っていかなきゃ。
それが感情を持つ“人間”という生き物なのですからね。
アクセスありがとうございます。
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