星空に願いを[6]
*
あの言い草が、我慢出来ない程に私の心を揺さぶった。
きっと私、あんなに声を荒げるなんて、ここ何年もなかったはず。少なくとも服飾専門学校に居る頃からは。
本心からあんなにいきり立っている人ではない事は分かっている。だって、チーム一丸となった時の自信たっぷりな笑顔は、作って出てくるものではないはずだから。
私を“ユウさん”と呼んで慕ってくれている大切な後輩。
不器用かもしれないけど、いつも一生懸命。たまに横着するけど、それはご愛嬌として、今回だってあの適当でしかも無茶な納期に間に合わせる程頑張った。
そこは褒めてあげるべきで、何も月曜日に休んだ事を責める必要なんてないはず。
あまりにも理不尽だわ。
1日休んだからって、わざと納期を縮めて、しかもあの子の休日を奪うなんて、それは横暴だわ。
だけど、私が声を上げなければ、麻衣はずっと…。
私が声を上げなければ…。
*
「谷山。誰のだ?」
宮地さんは、とても荒々しい性格なんだと思っていた。
いつもは黙り込んで、秘めたる怒りを抑え込んでいる。だけど、人と人とが揉め事を起こしてしまった時、ぐうの音も出ない程に激しく叱り付け…、そして納得させてしまう。
「これは…、夏川さん。あの夏川さんのデザインよ。素敵でしょ?」
目の前の華やかな美しいワンピース。
着てみたい。そう、こんな素敵な洋服があるからこそ、私はTmCで働きたいと思ったんだ。
「そうよ。あの人のデザイン。コレクションに出展したワンピース」
「評価はどうだったんですか?」
宮地さんは即答を避け、少し言葉を選んだかのように声を発した。
「ショーでの評価は…そんなに高くなかった。ショーなんていうのは、所詮はコマーシャルよ。夏川さんはそれを分かっていたから、本当にカジュアルウェアとして活きるものの中で、どれだけ華やかで、どれだけ着る側に愛されるかに挑戦したのよ。それが今のTmCの基盤になったわ」
私には、宮地さんが今言おうとしている事が何なのか、よく分からなかった。ただひとつだけ、ぼんやりだけど感じた事。
「自信を打ち砕かれた…ですか?」
宮地さんの目は、この素敵なワンピースに向けられていた。ずっとその一点を見つめるかのように。
「平たく言えばね。だからあの人は、デザイナーを降りた」
その後を継いだのが、宮地さんだと。じゃあ仲良くすればいいと思う。
単純だけど、そう思った。でもそこには、とても複雑な心の葛藤や事情があったみたいで。
宮地さんは、全てを語る人じゃない。あとは私達が考えるんだ。
何を伝えようとしているのかを。
部屋に戻った私達は、どこかギスギスした雰囲気を残したまま作業に着手した。
谷山さんは、何であんなに声を荒げたのだろう。
間違った納期を指示されたとて、それは私がどう捉えるかだけの話なのに。
型紙は言われた納期で仕上げたし、問題もなかったはず。だからちょっと鼻が高いのだけど。
「脳天気だな、田上は」
吐き捨てるように、宮地さんは呟いた。どうやら私、問題の本質を理解出来てないみたい。
「仕事は持ち帰ってまでしない。大事な週末を潰さない事。何でか分かる?」
大事な週末…。
私の週末の過ごし方…。
もしかしたら、夏川さんはあのワンピースを出展するために週末をも犠牲にして、しかも高評価を得られなかったの? それで何かを失ったのを、デザイナーという仕事のせいに?
私、嫌だ。もっとオンオフを切り替えていかなきゃ、暮らしなんて充実しないわ。
え? 私…、え?
ふと自身がやった事をおさらいしてみた。
突き付けられた、週末を挟んでのわずか3日という納期。そこで…。
―あぁ…。
アクセスありがとうございます。
次回「星空に願いを[7]」
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