友達と呼んだ夏[16]
御殿山を出発すると、徐々に道はなだらかに。
歩果は飛び跳ねるように歩いて行く。対するユウさんは、やっぱり大人ね。醸し出す雰囲気全てに落ち着きを感じる。
「こんにちは〜!」
「こんにちは!」
もう既に山頂へ行ったんだろうか? 山を下って来る人達と挨拶を交わす。知らない人だって、親しみを感じてしまう。
こんなのも山の魅力のひとつなんだ。
少し楽になった道。ワサビ峠を過ぎ、尾根伝いを歩く。山頂が、もうすぐそこに見えている。
私、登れてる!
大文字山であれだけ辛かったのが嘘のように、テンポ良く、そして楽しく歩けている。
「きっとそれは、同行者が職場の人じゃなくて歩果だからよ」
ユウさんはそう言って笑った。
確かにそうかもしれない。歩果と戯れ合って、気が付けば険しい道を越えていた。
笑うって、凄く大切で大きい事なんだ。
景色は完全に開けた。
もう間もなく…、あと少し…、そしていよいよ…。
「山頂に到着〜!!」
「やったあ!!」
こんなにも、こんなにも気持ちいいものなんだ。清々しいものなんだ。
360°の大パノラマ。
琵琶湖だって、さっき通って来た道だって、まるで空から見下ろしているみたい。
遠くは鈴鹿山脈、白山までもが見える。
…と言うけど?
「暑すぎてね、地面の熱が上がってるわね。琵琶湖とか木や草から水蒸気が上がったりして、遠景が霞んでしまうのよ」
ユウさんは、知識が豊富。
気温が下がっていく秋などは、空気が澄んで遠くまでくっきり見えたりするそう。
「ひとまずお疲れ様!! 景色いいとこでゆっくりしよっ」
休憩場所を決めてリュックを下ろすと、ユウさんがピクニックシートを広げて食事の用意を始めた。
「麻衣ちゃん、汗かいたね」
「うん。ビッショビショ」
「着替えよっか」
―え?
「ささ、脱ごう」
―な、な、何ですと!?
「あ、あ、あ、歩果!」
焦る私を横目に、ユウさんは笑っている。
歩果は私のTシャツの裾を掴んでいる。やめてぇ〜って、何? 私って、揶揄われ役なの?
「いつもの事よ。通常運転…っていうか、麻衣の事を友達って受け入れてくれてるのよ」
はしゃぐ歩果を見て固まる私に、ユウさんはそっと囁くように言った。
そんな事言われたら…、嬉しくてドキドキしちゃうじゃない!
止めどなく流れる汗を拭い、日焼け止めを塗り直した。
そんな様子を歩果は見ていた。そしてまた…、
「汗ばむ麻衣ちゃん、色っぽいわぁ」
だって。
もう! 揶揄わないでっ!!
それにしても、素晴らしいビュー。
こんな風にわちゃわちゃ騒いでいると、その声が下界にも届いていそうな気になる。
そして…!
「麻衣、歩果、出来たよ〜!!」
「お昼ごはんだ。ヤッホー!!」
「お米は無洗米ね。とぎ汁はリン酸を含んでて、これをそのまま捨てると土を固めたり、カビなんかが発生したりするから、良くないのよ」
そんな事もあるのね。無洗米ならとぎ汁が出ないから良いんだ。
「今時の無洗米って、美味しくなったよね!」
「うん。だけど山での食事はシンプルに…」
歩果が持って来たコムタンスープ。
これはフリーズドライ食品で、お湯をかけるだけで美味しいスープになる。とても軽くてコンパクトに包装されていて、持ち運びが苦にならない。
「これをご飯の上に開けて…」
「お湯を注ぐわよ。ほら!」
うん! コムタンスープって、ご飯にかけても美味しくいただけるのね。
凄くシンプルで簡単なのに、不思議と贅沢な食事に思える。
「非日常の空間で食べると、凄く美味しいよね」
山頂に到着。
爽快!
山での食事、少しだけ注意事項をね。
自然の中で炊飯するなら、無洗米にしましょう。
アクセスありがとうございます。
次回「友達と呼んだ夏[17]」
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