友達と呼んだ夏[14]
登山口までの道のり。
歴史に関わる豆知識も込めました。
宝ヶ池から八瀬へ。若狭小浜で水揚げされた魚を、京都まで運ぶルートとして利用されたという鯖街道を、北へ向けて走る。
朝早いというのに、何台ものバイクを連ねたグループが、幾つも走り去って行く。
「ユウさんも、あの大きいバイクであんな風に走ってるの?」
「私はいつも1人よ」
「ええ、何で? 楽しそうじゃん」
「うん、楽しいけどね。でも、人数多いと疲れちゃって。5人までかな、一緒に走るんだったら」
人それぞれなのね。そして、何事も経験なしでは語れないんだ。
言われてみると、確かに1人で走っている人も多く見かける。
「登山も、ソロでやる人って居ますよね」
素早く歩果が反応した。
「あんな危険な事、やっちゃ駄目よ。何かあっても誰も助けてくれないし」
そう。そうなのよね。私、もうしつこいぐらいに言われてるわ。
大原を過ぎ、車は徐々に急勾配になっていく山道を走る。
夏特有の濃い緑。路面からは陽炎が立つ。
山深く分け入っているというのに、外気温はもう30℃に届きそう。
「今日は暑さとの勝負かな?」
「えええ〜っ!?」
曲がりくねった山道を登り切ると、トンネルを潜って谷間の集落を眼下に見る。
もうそこは滋賀県なのだけど、琵琶湖のイメージなんて欠片もない山間部。
「冬になったら、雪が積もるわよ」
「そんなに寒いの? 日本海から京都に魚を運んだ道でしょ?」
「だからよ。当時は冷凍技術なんてないじゃん。だから、雪で魚を冷やして運んだのよ」
「歩果、よく知ってるね」
「知らんけど…キャッハハハ!」
やがて道沿いに川が寄り添ってくる。
傍に立つ標識に、「坊村」の字を見た。いよいよやって来たんだ。
右手に家屋が集まる所でユウさんは左ウィンカーを出し、橋を渡って大きな駐車場に車を停めた。
「さあ、暑いって言ったらしっぺ1回ね」
「罰金じゃないの?」
「それじゃあお金がいくらあっても足りないわ」
「みんな絶対言うから、回り回ってもとの財布に戻るよ」
―あはははははは!
駐車場で、皆の荷物を広げる。何するのか、私にはよく分からない。
だけど…。
「これは私が持つわ」
「麻衣ちゃんにはこれ持ってもらお」
「歩果はこれ持ってくれる?」
何やら2人でのやり取りが聞こえる。私は何をすれば良いのかも分からず、2人のやっている事を成り行きのまま見守る。
―待ってるだけでも汗ばむんだけど。
「よし、OK!」
「じゃあ、行こっ!」
それぞれがリュックを背負う。
え? こんなに軽くなった!?
歩果とユウさんが、それぞれの荷物の重さを分散させてくれたんだ。これなら多少楽かもしれない。
「帽子とサングラスね」
「あ、はいっ!」
既に気温も上がってきていて、日焼け止めは必須。そして、紫外線が強いという事は目にも刺激がきついという事。
髪だって、紫外線で傷む。
山ガールだって、女子なんだ。普段の暮らしに響かないよう、目はもちろん髪も肌も守らなきゃ。
私達は、お洒落を先取りする人なのだから。
橋を渡り、さっきまで走って来た国道を渡ると。
「トイレは済ませてね」
「30分取ってあるから…きゃはっ」
「要らなぁい! そんな長い時間」
歩果のおふざけは、相変わらず。
でも、それがまた楽しい。
さっきまでの不安感はどこへやら、私はもう、完全に武奈ヶ岳登山モードに入っていて、しかも脳は覚醒し切っている。
武奈ヶ岳への登山道は、琵琶湖百八霊場第18番所・明王院を抜けて行く。
折角なのだから、その手前の地主神社へお詣りして安全祈願。
赤い欄干の橋を渡り、ここからが登山道になる。そこで私は、一瞬目が点になり、固まってしまった。
「こんな…急な坂道なの…?」
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次回「友達と呼んだ夏[15]」
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