友達と呼んだ夏[13]
いよいよ山行。
持ち物について、少し皆様の参考になればいいな。
土曜日。快晴。
暑い…。
夏なのだから。そんな言葉では片付けられない程、朝から暑い。
今日の最低気温、26℃。所謂熱帯夜という奴。
まだ眠っている両親を起こさないよう、静かに玄関のドアを開ける。
どのみち汗でびっしょりになるのだから、化粧もスキンケア程度に済ませ、乗客もまばらな地下鉄に乗り込んだ。
これまでのワクワク感とはちょっと違う。むしろ不安感が先立っている。
山頂まで行けば、きっと素晴らしい風景が見られるんだろう。それはガイドブックにも紹介されていて、大パノラマ写真も掲載されているので間違いない。とても楽しみだ。
だけど、山頂まで辿り着けるんだろうか。
大丈夫だと思っていた。
何も問題などないと、根拠のない自信があった。
なのに、歩き方を見ただけで分かる、私の左足首の動きの悪さ。すでに日常化していて不便さなど感じないけど、非日常下に置かれた時、それはどう反応するんだろう。
山で歩けなくなったら…本当にヘリに乗せられる事になるのかしら。
『間もなく、終点…』
陸上競技から逃げ出そうとしていた私。
そして、憧れて始めたハイキングからも逃げようとしている私。
改札を抜けて地上に出る。日差しが目に、肌に痛い。
背中の荷物は、極力シンプルにまとめてきた。
天気予報は快晴。夕立の心配もないので、レインウェアさえも省略した。
その代わり、水やスポーツドリンクをたっぷり用意したので、かえって重くなってしまっている。
歩果が勧めてくれたリュックは、フレームを背中の形に合わせ、腰のベルトを締める事で肩への負担を減らす。
今さらながら、こんなに違うものなんだと驚いてしまう。
トップスには速乾性のTシャツを。残念ながらTmCにはラインナップしていないので、アウトドアブランド品になる。
駅からわずか5分歩いただけで滝のように溢れ出す汗も、素早く吸収し、放出させてくれる。
こんな良いものを身に纏っていながら、それでも気が落ち着かない。
全てはこの左足の、変形性関節可動域制限が原因だ。
気が乗らないのは、全てこいつのせいにしてしまえば、少しは楽になれる。
「麻衣ちゃ〜ん!!」
アニメのキャラクターに名前を呼ばれたような感覚で、私は顔を上げた。
向こうから手を振る、その煌びやかな姿。
「歩果〜!!」
急に嬉しくなって、知らず知らずのうちに私、朝比奈歩果を「歩果」と呼んでいた。
この熱い日差しに照らされ、それでも爽やかな空気感に包まれながら、私は少し小走りになって、歩果が手を振る「ベルグ」の駐車場へと入って行った。
程なくして、1台の車が入って来た。
憧れの先輩である、谷山さん。今日はプライベートなのだから、ユウさんと呼ぶ事にしよう。
「おはよう!」
「おはよう!!」
山行ではお互い敬語もなし。それもまた嬉しい。
仕事を離れれば、私達は友達なんだ。
「持ち物チェックするよ」
「地図とコンパス良し! 食料とクッキング用品は歩果。カトラリーあるよね?」
「水、持って来た」
「ウェットティッシュとタオル、あと、日焼け止めもOK!」
「シートと救急用品はユウさんね?」
「携帯トイレも私が持ってるわよ」
「麻衣ちゃん、レインウェアは?」
「今日は要らないよね?」
「ああん、もう…基本よ。降らないって言ってるけど、持つようにしてね」
「あと、麻衣、これ」
「ヘッドランプ! ごめんなさい。買えてなかったから…」
「ホムセンの安いのだけど、いざという時は役に立つかもだから」
「ホイッスルの音、確認しとこう。野生動物除けにもなるし、はぐれた時もこの音で知らせるのよ」
「あと、登り始めたらサングラスかけてね」
「さあ! しゅっぱーつ!!」
アクセスありがとうございます。
次回「友達と呼んだ夏[14]」
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