友達と呼んだ夏[9]
最近、めちゃめちゃ調子がいい。適当にイメージした和柄ブラウスが、まさかの採用。
快挙。これは私にとって、快挙だ。
そしてもうひとつのパターン。
波に笠松を散りばめる。これも宮地さんが上手くアレンジしてくれて、3シーズン季節を問わず、それぞれ着てみたいアイテムになりそうだ。
「あんまりのぼせんなよ」
「はいっ! 日々精進ですね」
この返しで良かったのか?
宮地さんはクスッと笑った。この職場に居てほとんど見せた事のない笑顔を、今…、
見せてくれた。
ところで、調子いいと言えば?
「いらっしゃいませ〜、田上さんっ!」
こちらも絶好調。
私と朝比奈さん…いえ、歩果ちゃんは、客と店員さんの関係を飛び越えようとしている。
谷山さんと歩果ちゃん、どちらが言い出したのかはあえて聞かないけど、この3人で、プライベートでハイキングなんて、天に舞い上がりそうなほどテンション上げ上げじゃん!
そこで谷山さんからの提案。
山では短い呼び名で呼び合おうと。
「私は有希だから、ユウでどう?」
―いや、ちょっと馴れ馴れし過ぎるかな?
「じゃあ、ユウさん。だって先輩に対しては、やっぱり“さん”を付けないと落ち着かないわ」
「分かった。じゃ、そう呼んで」
「私はそのまま。麻衣でお願いします」
「あたし? 一番小娘だから、歩果。呼び捨てでいいよ」
なんて、もうこればっかり頭の中でグルグル回って、ワクワクが止まらない。
そして、これって凄く近付いた気がしない?
「おやおや、今日も打ち合わせですか?」
このお店と山岳会のオーナーで登山家の市川さん。久しぶりだわ。
「はい!」
「そうですか。綿密に計画して、エマージェンシーの事もある程度想定したタイムスケジュールを組んでくださいね」
エマージェンシーと言えば、この足が気がかり。大文字山では何事もなかったけど、標高差900mとなると未知数だわ。
わずかだけど可動域制限の機能障害が、骨折の後遺症として残っている。これが悪影響を及ぼすのなら、直ちに登山を中止しなければならない。
もし歩けなくなったら、本当にドクターヘリに乗る事になってしまうのかも。
そんな不安をよそに、目の前の2人ときたら…、
「8:00に市民センター駐車場を出て」
「バス停前のトイレで済ませておこうね」
「じゃあ、3人で30分…」
「どんだけ長いのよっ!」
―キャハハハハ
どんなジョークよ?
そうそう、私も参加しないと。
「ワサビ峠、10:40」
「麻衣ちゃんの事考えたら、も少しゆとり見ません?」
「そうかぁ、初心者だもんね。じゃあ、11:00ぐらいかな」
そうそう、そうして欲しいですっ!
初心者だし、高山に登るなんてとんでもない冒険なのだから。
「山頂には12:00って書いとこうか」
「登頂〜! イエイッ!!」
「へ? そ、そんな早く???」
そ、そんな早く? 高山に登るんですよ?
「高山? ないない。富士山の3分の1にも満たないわよ」
「そうよぉ〜。富士山に登りたいんだったら、武奈ヶ岳を高山って言ってたら、厳しいかもよぉ」
単純に標高差で言うと、そうだ。
登山道だけで語るにしても、山梨県側の吉田ルートで、5合目から約1400m。武奈ヶ岳と大文字山を足したぐらいの標高差だ。
歩くだけでそれ程の差があるんだけど、車で行ける5合目で既に2300mもの標高があり、酸素濃度がグッと低くなっている。
富士山って、思ってた以上に過酷なんだわ。
私、逆の意味で山を舐めてたのかしら?
アクセスありがとうございます。
次回「友達と呼んだ夏[10]」
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