友達と呼んだ夏[7]
武奈ヶ岳。
滋賀県西部にある比良山系の最高峰で、その山頂からの眺めは素晴らしいそうだ。
うん、初めてなのでその程度しか言えないけど。
「四季折々の風景を楽しめるよ。夏だったら…」
「緑が深い!」
「夏の花!」
「うん。まぁ、高山植物って感じでもないけど、花も見れるね」
比良山系は、東に琵琶湖、西に鯖街道。
鯖街道は元々標高の高い位置にあり、武奈ヶ岳登山口付近で305m程だそう。
登山口で既にそれ程の標高なのだから、冬季は積雪も多い…みたい。
「琵琶湖側からだと、行程が長くて初級向きとも言えない難易度だね。田上さんは初心者レベルで考えた方がいいから、鯖街道坊村からの往復ルートで行けばいいよ」
初心者レベル…、それで充分。私はあくまでもハイキングレベルだから、楽しみなのは山頂からの眺望。そこに至るまでの道のりに対しては…シンドイだけじゃん。
「ロープウェイがあったら良かったのにね。キャハハハ」
いやほんっとそうだよ。だって、坊村からでも900mぐらい登るじゃん。
400mぐらいの大文字山だって、息が切れちゃったよ、私。
「田上さんは、足に気を付けた方がいいね」
「へ? 私?」
「うん。足首、堅いでしょ?」
―あ!
日常の事だから、すっかり忘れていた。
朝比奈さんは、私の足首の事を見抜いていたんだ。
大文字山で息を切らしたのも、もしかしたらこの足首が影響しているのかもしれない。
900mもの標高差。私、登れる?
兎にも角にも、朝比奈さんと谷山さん、そして私の3人で、武奈ヶ岳へ挑む事になった。
谷山さんにとっては本当に軽登山レベルなんだろうけど、私は一抹の不安を隠せずにいる。
陸上部を辞めたい一心で、リハビリを蔑ろにしていた。
今になって後悔。
もし途中で歩けなくなったら、2人はどう対処するんだろう。
もしかしたら、私は山歩きをしてはいけない人なんじゃない?
「た〜が〜み〜さん!」
―ハッ!
「どうしたんですか?」
「あ、あの…」
「足首…曲がらないの? 伊吹山で普通に歩いてたから、そんな事思わなかったけど」
「いえ、そんな深刻な事でもないです。曲がりますよ。走る事も出来ますから。エヘヘ」
いや、本当なんだって。こんな足してても、たぶん同年代女子の100m走なら勝つと思うわ。だって、陸上部女子の中でダントツ速かったんだもん。
「短距離走れても、山歩きじゃあ使う筋肉が違うわねっ」
此奴ぅ! 私を転け落とすつもりね!?
「分かってるよっ! 筋肉は違っても、足首は同じだからねっ」
「歩けなくなったら、ヘリコプター呼んだげる。貴重な体験出来るよ! きゃっはははは」
「何よぉっ!! 絶対歩き切ってやるわっ!!」
「ほらほら、何戯れてんの。計画練らなきゃ」
私と朝比奈さんの戯れ合いを見て、「もう店員と客じゃなくて、友達ね、あんた達…」と、谷山さんは言った。
まだ友達と呼ぶには早い気もしたけど、グッと距離が縮まった感じがして嬉しかった。
朝比奈さんはどう感じたのだろう。
奔放な人だとは聞いているし、私もそう思う。
もし私を“接しやすい人”と感じてくれていたのなら、私も彼女の事をそう思っている。
それなら…。
「もう敬語やめちゃう? 何て呼んだらいい?」
「あ、私…麻衣で。うん、麻衣って呼んで」
「あたしは歩果。よろしくねっ! 麻衣ちゃん」
「あ、あ、あ…」
「うふふ、どうしたのよ? あたし、ひとつ年下だから呼び捨てでいいわよ」
あ、ゆ、か…。
めちゃめちゃ緊張するじゃん!
アクセスありがとうございます。
次回「友達と呼んだ夏[8]」
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